202 / 354
202. 公爵夫人ですわ
しおりを挟む❈❈❈❈❈
私は魔性の女、エリーズ嬢がポカンとしている間に部屋へと入り込んだ。
(……強引過ぎたかしら?)
でも、仕方ないわよね。
こんな隙をつかないと絶対に部屋の中になんて入れてくれないもの。
そうして私が部屋の中に入ると、部屋の中にはメイドの格好をした女性が一人。
こちらも口をパクパクさせながらポカンとした顔で私を見ている。
(知らない人……でもきっと、お仲間よね)
私はそのメイドにもにっこり笑顔を向けておいた。
「ど……して?」
すると、私を見てポカンとしていたエリーズ嬢が戸惑った声をあげる。
もう! ちゃんと説明したのに!
仕方がないので私はもう一度説明しようと口を開く。
「ですから、エリーズ様に大事なお話が───」
「そ、そうではなくて!!」
「エリーズ様?」
私の言葉を遮ったエリーズ嬢の顔色がどんどん悪くなっていく。
「な、な、なんで……あ、あなたがここ……この国にいる、の……」
「なんでって……」
あらら?
もしかして、エリーズ嬢は私が殿下とイヴェット様の結婚式のためにこの国に来ていたことをご存知ない……?
(これは説明が必要ですわね!)
私は満面の笑みを浮かべて大きく胸を張って説明する。
「もちろん! 結婚式の参列のためですわ!」
「───は? 結婚……式……!?」
エリーズ嬢ったら、説明したのに全然分かってくれない。
(これは、“結婚式”という行事そのものの説明から必要ってことですわね!)
仕方ないわ。
そう思った私は結婚式というものを説明するために口を開く。
「えっとですね、結婚式というのは、結婚した二人が大勢の前で愛を誓い合う大事な儀───」
「なっ! ───ちょっと! さっきからあたしをバカにしてるの!? そうじゃない、わよ!」
「え?」
「まさか、あたしが結婚式も知らないおバカだと言いたいわけ!?」
するとエリーズ嬢が怒り出した。
これが魔性の女の本性なのかしら、口調がだいぶ乱れているわ。
「あたしは! なんで貴女が結婚式に参列するの、って言っているのよ!」
「え?」
「王太子殿下の結婚式に参列するのは、バルバストル国からやって来た公爵とその夫人でしょーー!?」
じろっと睨まれながらそう言われた。
───ええ!
これは最強の公爵夫人(予定)フルールの外交デビューの場ですわ!
なので私もえっへんと大きく胸を張る。
だって、私とリシャール様は、バル……バルバル…………バ……我が国の顔ですもの!!
「───その通りですわ!」
「うっ!?」
ついつい気持ちが昂ってしまったからか声が少し大きくなってしまい、エリーズ嬢がビクッと肩を震わせる。
「私、あれから結婚しまして……」
「へ?」
「フルール・シャンボン改め……モンタニエ公爵夫人……フルール・モンタニエとなりましたの!」
ばばーんと更に大きく胸を張る。
エリーズ嬢は丸い目をさらにまん丸にした。
「…………へ?」
「公爵夫人ですわ」
私はにっこり笑う。
「う……」
「公爵夫人ですわ」
二度目の宣言。すると、エリーズ嬢の顔はみるみるうちに引き攣っていく。
そして、震える手でおそるおそる私を指さした。
「けっ……」
「公爵夫人ですわ」
「こ……」
「公爵夫人ですわ」
「……っ」
驚きすぎたのかエリーズ嬢が頭を抱える。
「ふ、ふふふふ……」
混乱してしまっているのか、エリーズ嬢はひたすら笑っている。
私も同じように笑い返しておく。
「ふふふ」
「…………チッ! そ、そんなことより! 何でここに……」
エリーズ嬢の目線が私の背後へと移る。
ああ、そうでしたわね。
これは確かに驚くはずですわ。
(私の愛する夫、リシャール様は国宝ですもの!)
「ええ、とっても素敵でしょう? こちらが私の旦那様の────」
「うっるさい! それも気になっているけどそっちじゃない!」
「?」
うーん……さっきからエリーズ嬢は元気いっぱいですわ。
目をうるうるさせて皆さまを誑かしていた彼女は何処へ?
「な、なんでここに王太子殿下と…………王太子妃……が……いる……の」
「ああ! それは当然ですわ。だってイヴェット様と私のお茶の中に異物が混入される事件があったんですもの」
「!」
私が…………ご存知でしょう?
にっこり笑ってそう言うとエリーズ嬢が分かりやすく反応を示した。
「ですから、愛する妻……王太子妃イヴェット様に危害を加えようと企んだ方を一族諸共消し去るために、殿下が犯人捜索に加わるのは決しておかしなことではありません」
「ひっ!? け、けけけけけけ……」
「嫌ですわ。感動で笑っている場合ではありませんのよ、エリーズ様?」
あらあら……華麗な推理力を働かせてここまでやって来た名探偵フルールに感動している場合ではなくってよ!
だって貴女、この先一族諸共消されちゃうんだから!
「は? 感動!? あ、あたしは笑ったわけじゃ……」
「分かっていますわ。あの強力な即効性下剤入りのお茶をヒィさんに“お願い”して淹れさせたのはエリーズ様ですものね!」
「……!」
私が自信満々に言い切るとエリーズ嬢がハッと息を呑む。
「エリーズ様、ご存知です? あの下剤は無臭ですけど飲むと少し苦味がありますのよ」
「へ?」
「ですから、お茶の味が変わってしまうのですぐにバレバレなのです。まあ、一口飲んだだけでも絶大な効果を発揮する下剤なんですけども……」
「……」
何故かここでエリーズ嬢が驚愕の表情で私を見る。
「エリーズ様、どうかしました? そして、これは決して許されない重大な罪で──」
「え、いや、待って……え? ホワ……あ、あなたは……の、飲んだの……?」
「え? ええ、飲みましたわ。一杯だけでしたけど」
エリーズ嬢の目が限界まで大きく開く。
部屋の中にいたもう一人のメイドも同じような顔で私を見てくる。
「の、飲んだ……」
ポカン顔のエリーズ嬢が小さな声で呟く。
「まさか、懐かしの下剤が入っているなどとは夢にも思わず、グビッと一気にいかせていただきましたわ」
「一気! ……嘘っ、だってピンピンして……え? え?」
「ええ! おかげさまで私のお腹は絶好調ですわ!!」
私は満面の笑みを浮かべてポンッと自分のお腹を叩く。
「…………っっ!? ……っ? だって、あれ、は“どんな人にも必ず効く”って……」
「あら? そうだったんですの? それは大変ですわ」
このままだと、そのうたい文句は詐欺になってしまう。
これは急いで連絡しないといけないわ。
「なんで……なにこれ………………」
「エリーズ様? また、寝てしまいましたの?」
私はまたもや寝てしまったエリーズ嬢の前で手を振る。
「起ーきーてー? ですわ」
話している最中に寝てしまうなんて、とっても器用ですけど今は許しません!
「ダメですわ。しっかり起きてくださいませね? まだ話は終わっていませんから」
「……ひっ!?」
エリーズ嬢から返事が戻って来た。
(あ、目を覚ましてくれたようですわね)
私はホッと胸を撫で下ろすと、部屋の中にいたもう一人のメイドに声をかける。
「それから───そこのメイドのあなた……」
「ヒ、ヒィィッ!?」
「ふふ、元気いっぱいのお返事ありがとうございます」
私はニコッと微笑む。
その瞬間、私の背後からイヴェット様の声が聞こえた。
「あ、あなた……! 行方不明だった……わたくしの……」
「ヒッ!?」
そのメイドはイヴェット様を見て顔を青くした。
281
お気に入りに追加
7,204
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています
ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新婚早々、愛人紹介って何事ですか?
ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。
家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。
「結婚を続ける価値、どこにもないわ」
一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。
はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。
けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。
笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる