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191. 招待されました!
しおりを挟むいったいなんの手紙?
そう思いながら受け取って差出人を確かめる。
「え……?」
私は驚きの声を上げて王弟殿下の顔を見た。
王弟殿下は済ました顔で私を見ている。
「これは隣国の───アンセルム殿下の結婚式の招待状?」
私の手元の手紙を覗き込んだリシャール様も驚きの声を上げた。
「殿下、これは……」
「見ての通りだが? 彼らはモンタニエ公爵夫妻、君たちの参列を希望している」
「……僕たちに?」
私とリシャール様は顔を見合わせる。
「ああ。よほど君たちは隣国の王太子とその妃に気に入られたようだな?」
「……」
「モンタニエ公爵夫人が秘蔵のワインを貰った話は私も聞いている」
「とても美味しかったですわ!」
結果、第二回追いかけっこ祭りの開催に至ったわけですけれど!
私が笑顔で答えると王弟殿下が吹き出した。
「すでに飲んだあとか。それなら直に感想を伝えるのも良かろう」
「え……」
直に? それって……
「本来、他国の王族の結婚式への参列は王族の人間を遣わせているのだが───……」
王弟殿下はそこまで言って渋い顔をする。
「王子と王女───甥と姪もあの様子だから今、圧倒的に我が国の王族は人手が足りていないのでね?」
「……」
私はげっそりした姿の二人を思い出す。
そういえば、もうずっと姿を見ていないわね……
「何より強く先方が望んでいるから、今回は君たちに行って来て貰おうと思っている」
「承知いたしました」
リシャール様が頭を下げたので私もそれに倣った。
(……二人が結婚の運びとなったことは二本目のワインと共に報せを貰っていたけれど……)
まさか、結婚式に呼ばれるとは思っていなかったわ。
「驚いたね」
「ええ!」
帰りの馬車の中でリシャール様がそう口にした。
私も大きく相槌を打つ。
するとリシャール様がクスリと小さく笑った
「……ある意味、縁結び夫人が手がけた最初のカップルになるわけだしね」
「旦那様? それは何の話です?」
私が聞き返すとリシャール様は国宝級の微笑みを浮かべる。
「フルールがいなかったら、この結婚式は迎えていなかったんじゃないかって話だよ」
「は、はあ……そうですの?」
「そうだよ。それにフルールは勘違いしたまま二人の縁を結ばせちゃったんだから凄いよね」
リシャール様は、縁結び夫人と呼ばれるのも納得だよ、と頷いている。
「それに我が家に手紙を送るのではなく、わざわざ国を介して直接指名することで僕らの立場を…………って、フルール?」
「……」
(縁結び夫人……)
イヴェット様の件もこの間の腕相撲大会も、実は何でそう呼ばれるようになったのかいまいち分からないのだけれど……
(なんだか、とりあえず最強に近付いたような気がする!!)
「旦那様! 最強の縁結び公爵夫人(予定)フルールとしてこのお役目、しっかり務めさせていただきますわ!」
「フルール……」
勢いよく顔を上げて、そう宣言したらリシャール様は苦笑しながら私の頭を撫でた。
「それに旦那様と二人で遠出するのは初めてですわね?」
「え、あ……確かに」
「ですから、ちょっと楽しみです」
「フルール……」
私が、照れながらふふっと笑うとリシャール様も嬉しそうに笑い返した。
「そうだね、僕もフルールとの旅は楽し……み」
「隣国の名産品、ワインの他はなんでしたっけ? せっかくの機会ですので、ぜひぜひぜひお腹が弾けるくらいまで食べ尽くしたいですわ!!」
「え? フル……」
「ね! 旦那様!!」
私は満面の笑みを浮かべてリシャール様にそう告げる。
「…………ウン、ソウダネ」
「旦那様?」
「デモ、オナカガハジケルノハ、ヨクナイトオモウヨ?」
「もちろんですわ! ちゃんと程々にしますわよ!」
「ソッカ……」
何故かリシャール様はその後、ギュッと私を抱きしめてずっと私の頭を撫で続けていた。
────
「お母様ーーーー!」
そして私はリシャール様に頼み込んで、公爵家に戻る前に実家のシャンボン伯爵家に寄らせてもらった。
挨拶もそこそこにお母様の元へと駆け込む。
「あら、フルール? そんなに息を切らして……どうしたの?」
「どうしたもこうしたもありませんわ!!」
ばーんと勢いよく部屋のドアを開けた私はお母様に詰め寄る。
「バルバ……なんちゃらの舞姫ってなんですの!?」
「え?」
私に詰め寄られたお母様がきょとんとする。
「王弟殿下の婚約者候補の筆頭だったというのもですわ!」
「婚約者候補筆頭? あら、そんな懐かしい話……誰に聞いたの?」
「王弟殿下、本人ですわ!!」
私はグイグイとお母様に詰め寄る。
「まあ、お会いしたの?」
「ええ、呼び出しがありましたの! そこでお母様……バルバ……? バル……舞姫ブランシュの話も聞きましたの!」
するとお母様は、懐かしそうにふふふ、と笑った。
「その呼び名は懐かしいわね」
「バ……舞姫ブランシュがですか?」
「フルール、自分の住んでる国名くらいきちんと言えなくてどうするの?」
お母様が呆れた目で私を見る。
「分かっているけれど噛みそうで上手く言えないんだもの!」
「……相変わらずね? そういえばフルール、昔から国名言えなかったものね。もしかしてまだ言えないの?」
「いいえ! 十回に一度くらいなら正解を言い当てられるようになりましたわ!」
どうしても私は昔から、国名のバルバストルが言えず、バルバトスとかバルバドスルとかになってしまう。
どうしてなのかしらね?
本当に不思議だわ。
「十回に……って、国名クイズをやっているのではないのよ? 全く……」
「そんなことよりお母様……!」
私は更にグイグイとお母様に迫る。
「近っ……フルール、近いわよ!!」
「だってどちらの話も初耳だったんです!」
「もう! 舞姫はそのままの意味よ。昔からいつでもどこでも舞っていたから付けられた呼び名で──……」
お母様はそこで一瞬黙って考え込んだ。
「……そういえば、最初に私をそう呼び始めたのは第二王子……王弟殿下だった気がするわね……」
そう言って首を傾げながらソファから立ち上がると突然踊り出すお母様。
(これは思考の舞!)
お母様が考えごとをする時によく踊る舞。
踊っている間に思考をまとめるのだとか。私には絶対に出来ない。
(長いのよね~……)
これが始まると暫くは何も聞けなくなるので私は大人しく待つことにする。
そんなお母様の思考の舞を静かに見守っていると、リシャール様を初めとした家族が駆け込んで来た。
「フルール……! 君は本当にこういう時は特に足が早いんだから……!」
「旦那様!」
リシャール様は息を切らしている。
「お前、いきなり帰って来たと思ったら全速力で廊下を駆け抜けて行ったな? 淑女はどうしたんだ、公爵夫人!」
「お兄様! えっと……淑女は現在、旅に出ていますわ」
「旅!」
「たまには淑女も休ませないといけませんわ!」
とりあえず誤魔化したら、じとっとした目で見られた。
「フルール様、こんにちは!」
「こんにちは、オリアンヌお姉様! お邪魔していますわ」
お兄様の何か言いたそうな目を無視して、オリアンヌお姉様にも挨拶をしていると、その後ろからはお父様が顔を出す。
「……フルールが相変わらず元気なのはよーく分かった」
「お父様!」
「が、なんでブランシュは思考の舞を踊っているんだ? 珍しいな」
さすがお父様。
お母様が何を踊っているのかすぐに理解していた。
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