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186. 決着───そして……
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(……まあ、こうなる予感はしていた)
フルール発案の腕相撲力比べ大会。
優勝候補だった辺境伯令嬢や、オリアンヌ嬢、いやオリアンヌ夫人か。
……そして愛しのフルールが敗退した時点で優勝するのはこの人しかいないだろう、と。
僕はそう思いながら、隣にいる愛しの妻フルールを見る。
(めちゃくちゃ可愛い顔をしているな)
今のフルールは、まるで子どもにでも戻ったかのように目をキラキラさせ、そしてうっとりしている。
───そう。
義母上の勝利の舞、優勝Ver. とやらに。
……確かに義母上の舞は思わず見惚れるくらいとっても優雅だ。
しかし正直、僕にはこれまで披露していた舞との違いが分からない。
「……お母様、やっぱり素敵! なるほど……優勝Ver.はそこのターンが違うのね! え、そこの手の動きはなんて複雑なの……!」
「……」
さすが娘。
フルールにはその違いが分かるらしい。
そして、心から楽しそうだ。
(本当に明るい家庭で育ったんだなぁ……)
しみじみ思う。
フルールはあんなに意気込んでいた大会に敗北しても落ち込むどころか、より一層やる気出して元気いっぱいだったし。
そんな所も大好きだし、見習いたいとも思う。
(───なぁ? 弟よ)
次に僕はチラッと弟に目を向ける。
弟は義母上には瞬殺され、辺境伯の騎士とは接戦の末に敗北した。
僕としてはここまで残っただけでも褒めてやりたい所だが、本人は相当悔しかったのだろう。
落ち込んでいるのがよく分かる。
だが、少しだけジメっとした空気は感じるが以前ほどではない。
(辺境伯令嬢が傍にいるからかな?)
きっと弟もこれからもっと強くなるだろう。
諸々が片付いたら、ドーファン辺境伯とも話さないといけないな。
僕が言うのもあれだが、あいつが婿で大丈夫なのか?
「……」
まあ、弟のことはいい。
フルールに言わせれば、幸せは自分で掴み取るもの、だから。
是非とも掴み取ってもらおう。
それよりもよく分からないのは……
今度はチラッと辺境伯家の騎士とフルールの大親友の様子を伺う。
「すごいや。とても優雅な舞だね、アニエスも踊る?」
「は? わたしが踊るわけないでしょう!? それよりナタナエル! 何でひっつくのよ!」
「えー?」
弟には勝ったものの義母上に敗北した騎士が、伯爵令嬢に甘えようとして押し返されている。
なんで嬉しそうなんだ?
愛でる会会員はそんな扱われ方をされて大丈夫なのか?
他人事ながらハラハラしてしまう。
残念ながら、愛でる会会長は移り気なので今は自分の母親に夢中だ。助けは無い。
だから二人のことはまるで気にしていないぞ? 放っとかれているぞ?
それにしても、意気投合していただけあってあの騎士のニコニコ顔はフルールを連想させるものがある。
(そう思うと……なんだか行く末が気になる二人だな……)
この先、どうなることやら───……
なんて考えていると、キラキラフルールが僕の服の裾を引っ張る。
「旦那様、旦那様! 見ましたか? お母様、素敵でしたわ!」
「ああ」
もちろん素晴らしかったけど僕は義母上より、無邪気なフルールの方に夢中だったが。
「私も封印を解いて……今夜、寝室でなら“喜びの舞”を踊ってもいいかしら?」
「え?」
「お母様にバレたら怒られそうですけど……ふふ」
その言葉で僕らの寝室に割れ物はあっただろうか? と考える。
(大丈夫……な気がする)
……僕には分かる。
きっとフルールは披露してくれるだろう。
かつて伯爵家の玄関と廊下の花瓶を全て破壊したというその斬新そうな踊りを。
こうして無事に大会は勝者も決まったので終わりを迎え、あとは軽いパーティーでお開きとなる。
「モンタニエ公爵! こたびの催しは───」
「やはり、夫人の発案で?」
「優勝はシャンボン伯爵夫人でしたが……」
「第二回の開催の予定は? 王弟殿下──新たな陛下も次は参戦するとか」
パーティーとなったら、僕は一気に囲まれ質問攻めに合う。
彼らの質問に答えながらフルールの様子を窺う。
(フルールも囲まれているな……)
特に令嬢たちがお礼を言っている様子なのは──……
ああ、あの甘い雰囲気かと納得する。
愛しの妻、フルールは最強の公爵夫人の称号を手に入れる前に、新たな呼び名として縁結び夫人とかにでもなりそうだ。
(……ん?)
そんなフルール。
令嬢たちに囲まれながら何かを手に持って……飲み物……か?
僕はハッとする。
(────あの色、ジュースではない! あれは酒だ!)
サーッと血の気が引いていく。
身内だけならまだしも、こんな大勢いる所で……!
───アンベール殿!
フルールに関することなら彼に任せておけば、とりあえずなんとかなる……な安心感の兄はどうした!?
僕は咄嗟に部屋の中をキョロキョロと見回す。
居た!
「……!」
ダメだ。オリアンヌ夫人と談笑していて気付いていない!
妻との語らいの時間は大切……分かる。分かるんだが!!
仕方がない。では、シャンボン伯爵と夫人は───
「……っ!」
もっとダメだ。
勝利の舞に感動した女性たちに夫人がフルール以上に囲まれている。
頼むから娘のピンチに気付いてくれ!
このままでは、新たな祭りが始まるかもしれないんだぞ!?
そうしているうちにグラスを手にしたフルールが───……
(飲んだ? 飲んだ……のか!?)
「ん? モンタニエ公爵どうされたましたかな?」
「急にソワソワし始めましたが……」
「────え、ええ、そうですね! ははは……ちょっと妻への用事を思い出しました」
僕は引き攣った笑顔で、失礼! と声をかけて愛するフルールの元へと走った。
❇❇❇❇❇
(……あら? これ、ジュースだと言われて渡されたけれど)
お酒じゃないかしら?
それを一口飲んだ私はすぐにそう思った。
───
まさかのお母様大勝利となった腕相撲力比べ大会を無事に終え、簡単なパーティーを開いたら私は、あっという間に令嬢たちに囲まれた。
皆、キラキラした様子で、
「素敵な人に巡り逢いました!」
「腕相撲万歳!」
「ぜひ、またやって下さい!」
などとキラキラした顔で語ってくれるから嬉しくて話をウンウンと聞いていた。
そんな話をしていると喉が渇いたわ……と思った所で、令嬢がタイミングよくジュースを持って来てくれたはずだったのだけど───
(ほらやっぱり……ポカポカして来た……)
ダメよ、フルール!
まだ、この場には身内以外の人も沢山いるのだから──熱いけどここで脱ぐわけにはいかないわ!
…………とってもとっても熱いけど!
「~~~~……」
まだどうにか少し生き残っていた理性が仕事を始める。
だって最強の公爵夫人は突然脱いだり走ったりしないもの!
ちゃんと分かっているわ!
でも……
身体が疼いたその時だった。
「───フルール!」
理性と戦っている私の元に大好きな夫──リシャール様の声が聞こえて来た。
私は慌てて振り返る。
(ああ、大変……国宝がとっても慌てているわ)
慌ててこちらに走ってくる最愛の旦那様。
もしかして、私がお酒を飲んだと気付いちゃったのかしら?
でも、慌てるリシャール様もかっこいい……
そう思って私はにっこり笑った────
…………のを最後に私の記憶はプッツリと途切れた。
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