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184. 大親友の幼馴染
しおりを挟む「そ、そんな……」
「ホホホ! まだまだ若い子に負けたりなんかしないわ!」
ガクッとその場に崩れて膝をついたのは、オリアンヌお姉様。
───つまり、勝者は……
「お、お母様……!」
嫁姑対決の結果は姑の勝利だった。
お母様は静かに勝利の舞Ver.2を踊り出す。
その優雅な踊りに観戦者たちも目を奪われた。
「やっぱりフルールの母君だなー……」
リシャール様がしみじみと呟く。
「はい! 意外でしたわ……」
シャンボン伯爵家で一番、怒らせてはいけないのはお母様。
私の感じていた本能に間違いはなかった。
(私も負けていられませんわ!!)
次の戦いは私!
しかもお相手は大親友アニエス様の幼馴染。
そして、辺境伯騎士の最強と呼ばれる人───
メラメラしながら対戦相手のナタナエル様に目を向けると、ニコニコした顔で拍手しながらお母様の勝利の舞を見つめている。
「フルール、大丈夫?」
「大丈夫ですわ! アニエス様の大親友として幼馴染であろうと簡単に負けるわけにはいきませんの」
「フルール……」
「付き合いの長さには勝てませんが、思いの深さは負けませんから!」
私が胸を張るとリシャール様が苦笑する。
「伯爵令嬢が聞いていたら泣いてしまいそうな言葉だ」
「そうですわね! 嬉しくてアニエス様、大感激ですわ」
「…………ウン」
「では、行って参りますわ。旦那様!」
リシャール様はほんの一瞬だけ固まっていたような気がしたけれど笑顔で手を振ってくれた。
───トップクラスの若手最強の騎士。
彼を倒せれば、きっと私も一気に最強の公爵夫人までひとっ走りよ!
気合いを入れた私が勝負の場に到着すると、ちょうどナタナエル様も到着した所だった。
その向こうにアニエス様の姿が見える。
(あら? アニエス様の顔が赤いような……?)
休憩の間も嫁姑対決の間もこちらのナタナエル様と一緒に居たのは知っていたけれど……
そこでハッと気付く。
───アニエス様、大親友の私と幼馴染の彼が争うから、どっちもを応援したらいいのか分からず、ぐるぐる悩んで悩んで悩みすぎて熱が出てしまったのかも。
(大丈夫かしら?)
「ああ……なんか色々話していたらさ、赤くなっちゃったんだ」
「え?」
ナタナエル様の言葉に顔を上げると目が合った。
「アニエスのことだよ」
「まあ! そうでしたのね? なら、久しぶりに幼馴染であるナタナエル様とお会い出来て話せて嬉しかったのですね!」
「!」
私が笑顔でそう答えたら彼はパアッと嬉しそうに笑った。
「そうか! やっぱり? ……貴女もそう思う?」
「ええ! もちろんですわ! 私には分かります……!」
ナタナエル様の言葉に私も胸を張って大きく頷く。
「ああ、良かった。“なによ、何なのよ、突然帰ってくるなんて聞いてないわよ!” ───顔を背けてそう言われたけど」
「ふふふ、それは、“なんで? どうして? 突然帰って来るなんて心の準備が出来ていなかったわ、恥ずかしい、でも嬉しい!”……ですわね!」
「!」
またしてもパアッと顔を明るくして嬉しそうに笑った。
「他にも、“何がわたしの手が大事だからよ! 知ったようなことを言わないで!”って顔を赤くして憤慨していたけれど……」
「まあ! それは───“わたしが手を大事にしていること……知ってくれていたのね!”という嬉し恥ずかしい気持ちから出た言葉と表情ですわね」
「!」
私がそう答えると彼はますます嬉しそうに笑った。
「そうなんだよ! 俺もそう思ったんだ……良かった、やっぱり俺は間違っていないみたいだね!」
「ええ! 間違っていませんわ! 大親友の私が断言します!」
「───モンタニエ公爵夫人!」
「ナタナエル様!」
私たちは互いの手を突き出して固い握手を交わす。
素晴らしいわ! さすが幼馴染。
アニエス様の理解度がとても高い!
私が心の中で大感激していると横からおそるおそる声がかかる。
「お二人共…………すみませんが、握手ではなく手を組んで頂けませんかね?」
試合が始められないと審判に怒られた。
「あのアニエスに親友? と、聞いた時は驚いたけれど」
「訂正を求めますわ。大親友ですの」
手を組みながら試合開始の合図を待っている間も、私たちのアニエス様トークは終わらない。
「昔から、アニエスは誤解されがちだったから、まさかこんなに理解の深い人が居たなんて夢みたいだ」
「どうして皆様には分からないのでしょうね。アニエス様はあんなに可愛らしいのに」
「───そうなんだよ!」
私たちはチラッとアニエス様を見る。
アニエス様はこっちを見ながら顔を真っ赤にして泣きそうなくらい身体を震わせて喜んでいる。
「どうやら私たちの会話を聞いて感激してくれていますわ!」
「え? 本当だ。それは嬉しいね!」
私たちが微笑ましい気持ちでアニエス様を見ていたら、再び横からおそるおそる声がかかる。
「あの…………そろそろ、試合開始してもいいですかね?」
また、審判に怒られた。
(───くっ! 強いわ)
ようやく試合が開始された。
アニエス様との戦いの時に見せたピリッとした空気を出されると危ない──
本能でそう感じていた私は、先制攻撃を仕掛けようと思ったけれど上手くいかなかった。
(さすが、ニコレット様も認める男!)
なぜかニコレット様の食指は動かなかったそうだけども。
(ふふ、楽しいわ!!)
私がニコニコしているとナタナエル様もニコニコしながら笑っていた。
「……ぬるま湯につかったようにたるんでいた仲間の騎士たちが」
「え?」
「前に、ニコレット様について王都に行って帰って来たら別人みたいに鍛錬に集中するようになっていて」
ナタナエル様がニコニコ顔のまま語り出す。
「王都に行ってどんな心境の変化があったのかと思ったら」
「……」
「ニコレット様に弟子入りしていた見た目はか弱そうな令嬢に負けた……と悔しがっていたから本当に驚いたんだ」
「まあ! 懐かしい話ですわね」
あの時、共に汗を流した騎士たちも本日、何人かは参加してくれている。
早々に敗退してしまったようだけど、令嬢たちと楽しそうに観戦している様子が見て取れる。
「この大会、アニエスが参加していることにも驚いたけど……」
「はい」
「勝っても負けても皆、楽しそうなのがいいよね」
ナタナエル様はキョロキョロと会場内を見渡してそう口にする。
私は今、完全に防戦一方となっているのに……なんて余裕なの……!
(若手最強の……その名の通りだわ!!)
「先ほど、勝利した夫人なんてまだ楽しそうにクルクル踊っているよ?」
「私の母ですわ」
「へぇ? なら、貴女が強いのは血筋かな? 正直驚いている。最強の家族だね」
ピクッ
“最強”という言葉に私の身体が反応する。
(そうよ! 私は、最強の公爵夫人を目指すフルールよーーーー!)
私はグッと力を込めた。
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