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175. 勝ち残ったメンバー

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 男女、それぞれ勝ち残った人たちは────
 女性側は、誰もが納得のニコレット様、オリアンヌお姉様。
 そして……
 
「アニエス様!  素敵ですわ!!」
「ひっ!?  だから、暑苦しいから抱きつかないでと言っているでしょう!?」
 
 勝ち残った女性側の五人の中に、大親友のアニエス様の名前を見つけた私は感激のあまり、突進して思いっきり抱きついた。
 
「私には分かっていましたわ……!」
「は?  何をですか!」
「この私を引き剥がそうとするその力!  アニエス様は今大会のダークホースだと!!」
 
 さすが私の野生の勘!
 アニエス様がこんなに強かったなんて知らなかったわ!!
 
「いいから!  よく分からないことで感激していないでわたしから離れなさい!」
 
 私が渋々離れるとアニエス様はため息を吐いた。
 
「全く……フルール様?  あなたも勝ち残り組なのだから、はしゃいでいる場合ではないでしょう!」
「そうですわね、もちろん試合となったら負けませんわ!」
 
 私が気合い満タンの目を向けるとアニエス様は何故か、さらに大きなため息を吐いていた。
 ここまで戦い抜いて疲れが溜まっているのね?  と思った。

 
 ───というわけで、女性側の残りのメンバーはアニエス様と私。
 これで四人。
 そして、なんと最後の五人目は───……
 
「───フルール」
 
 私は“その人”に声をかけられて慌てて振り返る。
 
「お母様!」
 
 拳を握ったり開いたりしながらお母様が声をかけて来た。
 
「勝ち残ったそれぞれの五人は男女の区別なしと言っていたけれど、つまり次は男性と戦うということでいいのかしら?」
「せっかくなので男女の組み合わせで戦おうと思っていますわ!」
 
 私がそう答えるとお母様はとっても嬉しそうにニヤリと笑った。
 
「そうなのね?  なんて面白いのかしら……血が騒ぐわ」
「……」
 
(アニエス様だけでなく……まさか、お母様がここまで強かったなんて……)
 
 ───そう。
 女性側の五人目は、私のお母様。
 シャンボン伯爵夫人。
 お父様と仲良く参加表明してくれていたのだけど、ふと気付くと淡々と勝ち上がっていた。
 
 …………夫婦二人揃って仲良く。
 
「フルール、ちなみに対戦相手はクジで決めるのかしら?」
「はい、そのつもりでいますわ」
 
 五人が番号のクジを引いて同じ番号同士の男女で戦おうと思っている。
 その後、さらに残った男女五人で戦い、優勝者決定──の予定。
 

「……旦那様と戦いたいわ」
「お父様と?  それは、もう運ですわ!  お母様」
 
 私がそう言うと、お母様は少し残念そうに頷く。
 
「分かっているわ。つまりこれはクジの段階から運という勝負が始まっている……ということでいいわね?」 
「そういうことですわ!」

 そう答えながら私は気付いた。
 
(お母様の目までメラメラしているわ!)
 
 そんなにお父様と戦いたいのかしら───?
 私はチラッと勝ち残った男性五人に目を向ける。
 
 そう。
 なぜか、勝ち残った男性側の五人の中にお父様がしれっと混ざっている。
 どうしてお父様もお母様も勝ち残っているのか実は不思議でしょうがない。
 
(二人共、そんなに鍛えているとは思えないのだけど……?  なぜなの?)
 
 もちろん、組み合わせによる運もあるので一概には言えないけれど、それなりに強かったのは間違いない。
 
「お父様とお母様……やっぱり不思議だわ」
「そんなことはないだろう?」
 
 私がそう呟くと後ろからお兄様の声が聞こえたので振り返る。
 
「どういう意味です?  お兄様」
「フルールは父上や母上が勝ち残っていることを不思議に思っているんだろう?」
「ええ、そうですわ」
 
 さすがお兄様。
 私の考えなんてお見通し。
 そして、もちろんそんなお兄様も残りの五人のうちの一人!
 愛するオリアンヌお姉様にかっこいいところを見せたいと言って勝ち残っていた。

 そんなお兄様は深いため息を吐いたあと、腕を組みながら私に言った。
 
「フルールよ、いいか?  俺たちは“お前の”家族なんだぞ?」
「……?  知っていますわ」
 
 たとえ、愛する人の元に嫁いでも大事な大事な家族よ?
 それは変わらない。
 だから、私は頷く。
 
「いいや、その顔。分かっていないな?」
「何をです?」
 
 私は首を傾げた。
 
「フルール。俺たち家族は、ずっと、ずっと、ずーーっと十何年も元気いっぱいに駆け回るフルールに付き合い続けて来たんだぞ?」
「そうですわね、ありがとうございます!」
「ならば、分かるだろう?  フルールは子供の頃からお転婆だったから……」
 
 お兄様がチビフルールとの思い出を語りだす。
 どれもこれも私が元気に走り回っていた思い出。
 その話の中にはもちろん、追いかけっこ祭りも含まれている。
 
「二人共、使用人に任せっきりにしないで自らフルールを追いかけ続けた」
「つまり?」
「───つまり、シャンボン伯爵家の人間は、無邪気なお前の手によって、ありとあらゆる事柄でかなり鍛えられた面々だと言うことだ!」
「まあ!」
 
 ありとあらゆる事柄で鍛えられた面々……
 なんだかとても強そうな響きにワクワクして目を輝かせた。
 
「おい!  ……その目、あんまり意味を分かっていないだろう!」
「お兄様?」
「全く……フルールは相変わらずだ」

 お兄様はそう言って私の顔を見て苦笑する。
 そして、ワシャワシャと私の頭を強めに撫でた。
 
「……次は、モンタニエ公爵家の面々が鍛えられる番───お前とリシャール殿の間に生まれる子どもが楽しみだよ。さぞかし無意識に鍛えられて色んな意味で強い子となるだろうな」
「リシャール様と私の?  ……国宝の強い子…………至宝でいいかしら?」
「待て、フルール!」
 
 お兄様は呼び名の問題じゃない!  と首を大きく横に振った。
 
「───フルール?  何をして……あ、アンベール殿?  そろそろ対戦のクジを引かないか」
「旦那様!」
 
 噂をすれば国宝の旦那様がやって来た。
 私の愛する旦那様、リシャール様も勝ち残った五人の中の一人!
 お父様、お兄様、リシャール様……そして四人目は───
 
「弟がやる気を出しているうちにさ」
「やる気?」
 
 リシャール様の言葉につられてジメ男に視線を向ける。
 ちょうどニコレット様に声をかけられたのか、顔を真っ赤にしながら受け答えしているジメ男。
 でも、そんな恋する乙男、ジメ男からもメラメラした気配をちゃんと感じた。
 
「──メラメラしていますわ!」
「うん、ここまで勝ち残れたことが、だいぶあいつの自信に繋がったみたいなんだ」
 
 リシャール様が、ジメ男を見ながら嬉しそうにそう口にした。
 兄の顔をしているリシャール様も私は大好きなので自然と微笑んだ。
 
「あ、それからフルール、男性側の五人目なんだけど」
「はい!」
 
 お父様、お兄様、リシャール様、ジメ男に続く最後の勝ち残り男性は確か───……ニコレット様が連れてきた辺境伯領の騎士だっ───
 
「───ちょっと!  どうしてあなたがここにいて……しかも勝ち残っているの!」
 
(この声は……アニエス様だわ)
 
 そう思って振り返ると、アニエス様は一人の男性に向かって元気に声をかけていた。
 雰囲気的に昔からの知り合いのように感じる。
 
「え?  酷いな、久しぶりの再会なのにそんな言い方をしなくてもいいじゃないか──アニエス」
「また、ヘラヘラと……!  あなた全然、変わっていないわね!?」
 
 アニエス様が相手にグイッと詰め寄る。
 
「そう、かな?  でも、ほら昔より背も伸びたよ?  アニエスより大きくなった!」
「だーかーら!」
「ははは、久しぶりだなぁ、うん。この感じ。懐かしい」
「懐かしいではなくて───!」
 
 アニエス様に詰め寄られた男性はそう言いながら、ハッハッハと楽しそうに笑っている。
 
「あ、フルール。パンスロン伯爵令嬢と話している彼が男性側の最後の一人だよ。辺境伯領の騎士の一人」
「あの方……アニエス様と顔見知りみたいですね?  再会と言っていますし」
「うん、そんな様子だ」
 
 リシャール様も私の横で頷く。
 
「でも、大丈夫かな。なんだかあの二人、ちょっと雰囲気が険あ───」
「旦那様!  あの二人、どうやらとっても仲良しみたいですわね!」
「え?  仲良し?」
 
 驚いた顔をするリシャール様に向かって、私は満面の笑みでそう言った。 
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