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172. それぞれの反応

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❇❇❇❇❇


(あ……ら?  バレバレ?)

 腕相撲力比べ大会の開催の目的がバレバレだわ。不思議。
 ────改めて私の旦那様ってすごいと思う。
 もちろん、ジメ男の秘めた力を見極める。これも本当。
 でも、どうせなら自分の力も試したいじゃない?

 そんな私の真の思惑を見抜いた隙のない夫、リシャール様は私の頬を優しく撫でながら言った。

「フルールのことだから、僕には分かる」
「旦那様……」
「最強の公爵夫人を目指すフルールは、自分の実力を試したい、そして知りたいはずだと閃いた」

(すごいわ!)

 嬉しくなった私は満面の笑みでリシャール様に告げる。

「旦那様、見ていてください!  私はバッタバタと皆をこの腕、一本でなぎ倒してみせますわ!」
「う、うん」
「しかし、問題はオリアンヌお姉様とニコレット様……あの二人は強敵ですわ」

 どうやらアニエス様の話によると普通の令嬢は出来ないし絶対に目指さないという、素手でのカップの粉砕……
 あれを難なく出来る二人以上に強力な敵はいないわ!

「……男性も参加するだろうに、強敵としてあがるのが令嬢二人って……」
「旦那様?」

 リシャール様が遠い目をしていた。

「いや、もし、弟が死ぬほど頑張って辺境伯家に婿入り出来たなら……」
「出来たなら?」
「モンタニエ公爵家は───さいきょ……怖いものなしだな、と思ってね」

(怖いものなし?)

 リシャール様ったら今更、何を言っているのかしら?
 私は首を振る。

「いいえ、最終的にジメ男がどうなろうと、すでにモンタニエ公爵家に怖いものなんてありませんわよ?」
「え?  なんで?」
「だって……」

 私はふっふっふと笑って胸を張る。

「決まっています、だって我が家は旦那様……リシャール様が当主なのですから!!」
「……」
「リシャール様が公爵位を簒奪成功した時点で、公爵家はとっくに怖いものなしですわ!」

 リシャール様が目をパチクリさせて私を見る。
 そしてすぐに嬉しそうに笑った。

「フルール……本当に君って人は」
「?」
「大好きだ!」

 愛の告白と共にそのままギュッと抱きしめられた。
 こうして、第一回モンタニエ公爵家、腕相撲力比べ大会の開催が決定した。



 その日、私は大会開催のお知らせをするために実家へと向かった。

「は?  ……腕相撲力比べ大会!?」
「モンタニエ公爵家主催で開催しますの。お兄様たちもぜひご参加くださいませ!」

 私がそう説明するとお兄様の頬がピクピクした。
 そして頭を抱えて叫んだ。

「ははは……フルールが公爵夫人となって初めて人を招く行事が、お茶会でもなければパーティーでもない……まさかの腕相撲力比べ大会!」
「素敵でしょう?」
「フルールらしいと言えばらしいが、斬新すぎるだろう!!  初めて聞いたぞ!」
「ふふふ、そんなに感動してもらえて嬉しいですわ!」

 私がにこにこしながらそう口にする。
 すると、お兄様がギョッとして私を見た。

「相変わらずだな……フルールにはこの今の俺の様子が感動しているように見えるとは……ははは」
「いいえ、お兄様。違いますわ」
「は?  違う?」

 私は首を横に振りながら、お兄様の後ろに向かって指さす。

「感動してくれているのはお兄様ではなく……その後ろで小躍りしているオリアンヌお姉様のことですわ」
「え?  小躍り?  後ろ?  オリアンヌ?  ……はっ!」

 お兄様が勢いよく後ろを振り返る。
 腕相撲力比べ大会と私が口にした瞬間、目を輝かせて喜びの舞をお兄様の後ろで踊っていたお姉様とお兄様の目が合った。

「……オリアンヌ?」
「……」

 動きを止めたオリアンヌお姉様は無言のまま、お兄様に対してにこっと笑う。

「オリアンヌ。何だか、君のオーラがいつもよりキラキラしているんだが」
「……」  

 再びにこっと笑うオリアンヌお姉様。
 なんて美しい笑顔なの……と私は内心でうっとりする。

「……オリアンヌ」
「えっと、だって……とってもとってもとってもとっても素敵な企画だったから!  ……その、身体が疼いてしまって喜びの舞を……」
「身体が疼く!?」

 お兄様はなぜか驚いているけれど───

(分かる……その気持ち、私には分かりますわ、お姉様!!)

「腕相撲……確か、異国の発祥の力比べの競技よね。耳にしたことはあったけれど、まさかその大会がフルール様主催で開催されるなんて……夢みたい!」
「俺も夢みたいだよ……」
「さすがオリアンヌお姉様ですわ!  腕相撲、ご存知だったのですね!?」
「当然よ!!」

 私たちがわいわい腕相撲のことではしゃいでいると、お兄様がぐあぁぁと頭を抱えた。

「……これが、公爵夫人と侯爵令嬢だった夫人の会話……だと!?」
「アンベール?」
「お兄様?」

 私たちが視線を向けると、お兄様はくっと苦しそうに唸った。

「ははは、きっとここに、辺境伯令嬢も嬉々として加わるんだろう?  …………逞しすぎる」
「アンベール、安心して?  私、優勝目指しますから」
「……オリアンヌ」
「必ずや、シャンボン伯爵家に勝利をもたらしてみせます!」

 勝利……優勝宣言をするお姉様にお兄様が慌て出す。

「な、なあ?  オリアンヌ。こういうのは普通俺が君に勝利を捧げるものじゃ……」
「いいえ、アンベール!  こういうことに男も女も関係ないですわ、ね?  フルール様!」
「はい!  男も女も関係ないです、強い者が勝つ!  それだけですわ!」
「……」

 私たちの笑顔で繰り広げる会話にお兄様は隅っこの方に移動して拗ねていた。


 当然、ニコレット様は目を輝かせて参加を承諾し、私が共に走り込みで汗を流した騎士たちと共に参戦すると言う。
 そして、私の大親友のアニエス様は───

「───分かっています!  参加しますけど何か?」
「え……?」

 私がアニエス様の返答ビックリしているとアニエス様は腕を組んで顔をそっぽ向けながら叫んだ。

「どうせ、フルール様のことだから、わたしを引き摺ってでも参加させる気だったのでしょう! ええ、もう分かっているの!  わたしは学んだのです!」
「アニエス様……!」

 ───わたしが参加?  するはずないでしょう!  勝手にどうぞ!
 きっとそう言われるだろうから、どうやって説得しようかと思っていたのに……!

 嬉しくて嬉しくて私は大親友に思いっきり抱きついた。

「ちょっと……は、離れなさい!  暑苦しい!!」

 照れて恥ずかしそうに私を引き剥がそうとしたアニエス様の力はなかなか強かった。
 これはなかなかのダークホース!

 そして、肝心のジメ男は───……

「え?  腕相撲力比べ大会?」

 開催の話には目を丸くして驚いていた。
 意気揚々と参加すると言うかと思っていたら、どうやらニコレット様への惨敗した記憶が甦ってしまったようで尻込みしていたけれど、

「お前がどれだけ前より強くなったのか見せてもらうぞ」
「あ、兄上……!  はい!  が、頑張りますっ!」

(フリフリの尻尾が見える……)

 大好きな兄、リシャール様のその一言で元気よく参加表明していた。
 さすが、私の愛する旦那様!  素敵!


 ────そうして、私も最強の公爵夫人を目指す者として負けてたまるかと、トレーニングを行いながら…………ついに大会は本番の日を迎えた。

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