162 / 354
162. それぞれの幸せ
しおりを挟む❇❇❇❇❇
(みっちり勉強して……十年後くらいなら実は知っていました──と、明かしてもさすがに許されるわよね?)
私はいつかのそんな未来が訪れるのを楽しみに思って笑顔が溢れる。
それに……
チラッと横目で見るとアニエス様も頬を顔を赤くしていて、どことなく嬉しそう。
私の気持ち……アニエス様に伝わってくれていたらいいなと思う。
ウェディングドレスもアニエス様が作ってくれたヴェールも……全部全部私の宝物よ!
「アニエス様!」
「……な、なに!?」
「私、病める時も健やかなる時もアニエス様の一番の大親友でいると誓いますわ!」
私がグイグイ迫りながらそう告げるとアニエス様が究極の照れ屋さんを発動した。
「は? なっ!? 何を言っているの!」
「私の心から純粋な気持ちですわ?」
「~~っ!」
大きく照れたアニエス様がフイッと顔を逸らす。
「そ、そういう言葉は、本来結婚式で夫に愛を誓う時に使う言葉でしょう!?」
「もちろん! 夫のリシャール様にも誓っていますわ!」
「そういうことではなくてーー!」
「?」
そうして、しばらく私たちの押し問答が続く。
ぜーはぜーはと肩で息をしながらアニエス様は言った。
「はぁ……フルール様、わたしは少し風にあたってきます」
「え? アニエス様? 大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。ちょっと……ふっ、そうね。これはきっと日頃の疲れね、ええ……そうよ」
(アニエス様?)
フフフと笑いながらそう言い残してアニエス様は、フラフラとした足取りでバルコニーへと行ってしまう。
大丈夫かしら?
(疲れ……きっと連日、ヴェールの製作に力を注いでくれていたのね……!)
大親友の想いに感謝しながら私はその後ろ姿を見送った。
「───さて、アニエス様も行ってしまわれたので私も残りのご飯を満喫しますわ!」
そうして、更に空になったお皿を積み上げて満足していたら、後ろから声をかけられた。
「───フルール様!」
「!」
その声に覚えのあった私は笑顔で振り向く。
「フルール様、結婚おめでとうございます! そして気持ちいい食べっぷり!」
「ニコレット様!」
あの騒動が終わってから領地に戻ってしまったニコレット様と顔を合わせるのは久しぶり。
そして幻の令嬢が今日この場にいることもあってか、ニコレット様は注目を集めている。
「来てくださってありがとうございます」
「もう少し余裕を持って来れたら良かったのだけど、すみません」
「いいえ、来てくださっただけで嬉しいですわ」
私がそう答えると、ニコレット様は嬉しそうに笑う。
その後、じっと私の全身を見つめた。
そして満足そうに頷く。
「さすが、フルール様。きちんと鍛錬を継続してくれている」
「当然ですわ!」
「顔つきもいい。これはお父様が喜びそう」
「ありがとうございます!」
最強の公爵夫人を目指すにあたってその言葉はとても嬉しい。
「騎士の皆さんはお元気ですか?」
「とっても元気。フルール様と次に走り込む機会があった時は絶対に負けないと言っているわ」
それは良かった。
でも、私も負けない!
「そうそう、私も本格的にお婿さん探しを始めようかと思って、これからは以前より王都に来る回数を増やすことにしたわ」
「!」
なんと!
それは嬉しいお知らせ。
「ですから、これからもよろしくお願いします、フルール様」
「はい! また一緒に鍛錬しましょう!」
「ちなみに……」
ニコレット様がこそっと声を潜めて耳打ちする。
「お父様はすぐに即戦力になりそうな既に鍛えられた婿を見つけて連れて来いと言うのだけれど」
「ええ……」
「個人的には、ナヨナヨした頼りなさそうな男を私好みに育てる方が楽しいと思っているの──フルール様はどう思いますか?」
その言葉を聞いて私はニンマリ笑う。
そんなの答えは決まっている!
「私はニコレット様の意見に大賛成ですわ!」
「やったわ! フルール様ならそう言ってくれると思いました!」
ニコレット様が手を叩きながら嬉しそうにはしゃいだ。
「フルール様も賛成してくれていると言えば、お父様も頷くわ!」
「ぜひ、素敵な方を見つけてくださいね!」
「ええ! 期待していて!」
(よかった……)
私の出会った大好きな人達もそれぞれの幸せな未来へ歩き続けている───
ニコレット様はさっそく軟弱そうな男性の集団の塊を発見し、元気よく突撃して行ったので私はその様子を微笑ましく見守っていた。
そんな私に次に声をかけて来たのは……
「義姉……さん」
「!」
呼ばれて振り返る。
───ジメ男!
相変わらず名前の不明な義弟。もう今更聞けない。
「あ、改めて、兄上との結婚おめでとう……ございます」
「ええ、ありがとう」
お礼を言いながら、私は昨日の騒動を思い出す。
確か、ジメ男も私と追いかけっこをしてくれていたはず。
「それから、昨日はごめんなさいね?」
「……え! あ、はい……」
ジメ男の顔が引き攣る。
「私に記憶はなくて申し訳ないのですけど……」
「あー……あれは! いいんです。その……僕も、色々勉強になりました」
勉強になった?
───なるほど! アルコールのことね?
私はウンウンと頷く。
「義姉さんと上手くやっていけるのは、絶対に兄上しかいません!」
ジメ男はそう言ってくれた。
拗らせるくらい兄上大好き! な弟に認められたことが嬉しい。
「当然ですわ! 私は最強の夫婦も目指していますもの!」
「……え? 最強の公爵夫人では?」
「もちろん、それもあります! ですが夫婦としても最強でなくてはいけませんわ」
「ははは! ブレないな。本当に義姉さんらしい」
(あら?)
私がそう言い切るとジメ男が声を立てて笑った。
あまり似ていない兄弟だと思っていたけれど、その笑い方はリシャール様によく似ていた。
そんなジメ男の顔を見ていたら、リシャール様の顔が見たくなってウズウズして来た。
(邪魔ではないかしら? 私も突撃───)
「───フルール。僕の可愛い花嫁さんは弟と何を話しているのかな?」
「だ、旦那様!」
突撃しようかと思ったその時。
私の気持ちが届いたのかなんとそこにリシャール様が現れた。
リシャール様は苦笑する。
「もうさ、フルールがずっとモテモテ過ぎて近付けなくて困ったよ」
「モテモテ?」
「そう、今もフルールに声をかけたくてチラッチラしている人がたくさん」
「それなら遠慮せずに声をかけてくださって構わないのに……」
「ははは!」
リシャール様はそう言って私の頬を優しく撫でた。
擽ったいけど心地よくてうっとりする。
そうしたら、なぜかリシャール様が突然私を抱き上げる。
「!?」
「それじゃ、可愛い僕の花嫁が他の人に取られる前にここから連れ去ってしまおうかな」
「え?」
どういうこと?
そう思って目をパチパチさせてリシャール様の顔を見つめる。
目が合ったリシャール様は言った。
「こういう時の新郎新婦は先に退場するものなんだよ、フルール」
「え?」
「と、いうわけで二人っきりになれるところに行こうか?」
にっこり国宝級の笑顔で微笑むリシャール様。
私の胸がトクンと高鳴る。
「ああ、それから……」
リシャール様は私の耳元に口を近づけると、あのゾクゾクするような冷たい声色でそっと囁いた。
「フルール。今夜は寝かせないから……覚悟しろ」
───と。
267
お気に入りに追加
7,224
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる