王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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160. 花嫁はマイペース

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 進行がハチャメチャとなった結婚式は、その後もやや強引に押し切って無事に終了。
 そして控え室に戻ると───

「フルールよ。振り返ってみればとってもとってもとってもフルールらしい結婚式だった……」
「そうでしょう?  お兄様!!」
「くっ!  出た、その無垢な笑顔!  いいか?  だがな見ているこっちはハラハラなんだよ!」
「ハラハラ……」

 思った通り、控え室に入ると同時にお兄様がハチャメチャ進行となった結婚式について「前代未聞じゃないか!」と言って来た。
 ふふん、さすが私!
 お兄様のこと分かっているわ!  と嬉しくなってニコニコしていたら、お兄様がぐぁぁぁと頭を抱える。

「進行もやり方もハチャメチャだったのに、結婚式としてやるべきことはきちんと全て……しかも時間内に行ったお前たちが俺は本当に本当に本当に怖いよ……」
「愛の誓いの言葉も誓いのキスも指輪の交換も結婚式用の誓約書へのサインもバッチリ行いましたわ!」

 私はえっへんと胸を張る。

「その通り過ぎて何も言えない……!」
「あ、そうですわ!  お兄様もオリアンヌお姉様との結婚式で私みたいに自由に───」

 やったらどうです?
 そう言おうと思ったのにお兄様がギョッとして慌てて遮ってくる。

「フルール!  待っ……よ、余計なことを言うと……」
「え?  余計?」

 私が首を傾げると焦ったお兄様が言う。

「オリアンヌとフルールは好きなこととか似ているんだぞ!?  そんなことを言ったらオリアンヌが……!」
「…………やりたい!」
「そう!  そう言い出すかもしれないんだ!  だから──……」
「アンベール!  私もフルール様みたいに型にとらわれず自由にやってみたいわ!」
「ん?」

 お兄様が服をツンツン引っ張られて、おそるおそる後ろを振り向くと、そこにはキラキラの目をしたオリアンヌお姉様。
 大好きなお肉を前にした時と同じくらいキラキラ目が輝いている。

「オ、オリアンヌ……?」
「ね?  アンベール!」
「う、うう……」

 キラキラのお姉様に迫られて、たじたじになっていくお兄様。
 私はその光景をクスクス笑いながら見ていた。

「すごいや────これは、新たな流行が生まれるかもね?」
「え?」

 そう言って後ろから私を抱きしめてきたのは愛する夫、リシャール様。
 私は後ろを向きながら聞き返す。

「流行り、ですか?」
「そうだよ。自分たちらしい結婚式を───って」

 リシャール様が面白そうだと笑う。

「なら、その際の演出のお手伝いを出来る場があると素敵ですわね!」
「え?」
「だって、皆が皆アイディアが浮かぶわけでもありませんし──……」

 私がそう言うとリシャール様がじっと私の顔を見た。

「旦那様?」

 私の言葉にピタッと一瞬動きを止めたリシャール様がニンマリ笑う。
 その顔は何かいいことを思いついたという時の顔。

「うん、これは交渉してみるのもいいかなってね」
「交渉?  あ、ところでベルトラン様はどうでした?」

 リシャール様は式に参列していたベルトラン様の様子を見に行っていた。
 戻って来たということは無事に会えたのかしら?

「ああ、この世の終わりみたいな顔をしていた」
「この世の……人の結婚式でそんな顔をするなんてなかなか失礼ですわね」
「自業自得だよ。どん底状態の自分との差をまじまじと見せつけられたショックは、かなり大きそうだった」
「……お嫁さん、来なさそうですものね」

 私がポツリと呟いた言葉にリシャール様は無言で頷いた。
 せっかく首の皮一枚繋がった伯爵家だけど跡取りがいなくてはこの先は……

「───さて、フルール。あんな男のことはもう忘れよう!  この後は僕らの結婚パーティーだ」
「はい!」

 私は笑顔でリシャール様の手を取った。


─────


 場所を移動し、結婚パーティーが開始した。
 挨拶を終えるなり夫のリシャール様は多くの人に囲まれてしまった。

(さすが、リシャール様!)

 夫が人気者なのは妻としても大変嬉しいこと。
 私はリシャール様から離れて、お兄様とオリアンヌお姉様と談笑していた。
 少しして、肉への欲求が我慢出来なくなったお姉様が美味しいお肉を求めてお兄様を引き摺って料理を取りに行ってしまったので私は一人になってしまう。

(お姉様……お強いわ)

 感心して二人を見送っていると、
 チラチラチラチラ……チラッ……チラチラ……
 こんな感じで何故か遠くからチラチラされている視線を感じる。

(皆、照れ屋さんなのかしら?)

 主役だろうと何だろうとぼっちの私がパーティー会場ですべきことは一つ!
 私も私であの美味しそうな料理をこの胃袋に収めること!  
 と、いうことで私は料理が並んだテーブルの方へと歩き出した。



(お茶、ジュース、果実水、コーヒー、紅茶……)

 すごいわ!
 お兄様から聞いていたけれど、パーティー会場内のどこを見渡してもアルコールが無い!
 そのあまりの徹底ぶりに私は感心した。
  
(花嫁と追いかけっこするわけにはいかない、ということね?)
  
 ……いつも記憶がないので、実際どんな規模の追いかけっこが行われているのか私には全く分からないのだけれど。
 そんなことを思いながらどんどん料理を皿に盛っていく。

(ん~~!  あれも美味しそう!  いや、こっちも捨てがたい……いえ、やっぱ、こっち!)

 何だか先ほどとは違って、チラチラではなく今度はザワザワする視線を背中に感じながらも、ここぞとばかりに片っ端からパーティー会場の美味しい料理を食べて回った。
 飲み物もアルコールが排除されているようなので遠慮なく飲める幸せ。
 そこで、ふと思い出す。

(記念すべきアニエス様との初めての会話もこんな時だったわ───……)

 その時だった。

「ちょっと!  フルール様!  ────本日の主役の花嫁がこんな所でそんなにガツガツとはしたない!  ……あなたはやっぱりコロコロになりたいんですか?」

 その言葉にハッとして私は後ろを振り返る。
 懐かしい感じのするその言葉!
 思った通り、そこには大親友のアニエス様が呆れた顔で立っていた。

「まあ!  アニエス様!」
「……くっ!  なぜ満面の笑顔を向けるの…………コホッ……まあ!  ではありません、フルール様!  その山積みのお皿は何ですか!」
「え?  もちろん、私の胃袋に収まった料理の数々のお皿ですわ!」

 私が自信満々に答えると、アニエス様は積み上がったお皿の山を見て苦しそうに胸を押さえる。

「む、胸焼けが………………け、結婚パーティーの主役の花嫁が各テーブルの料理を制覇している光景なんて、は、初めて見ましたわ」
「えっと、つまり皆さんは恥ずかしがって遠慮されてしまっている、と。美味しいのに勿体ないですわね?」
「───違うでしょっっ!」

 アニエス様が真っ赤な顔で怒鳴る。

「遠慮ではなく!  こういう時は胸がいっぱいで、食事は喉を通らないものなのです!」
「まあ!  不思議ですわね?  私は逆に食欲が盛り盛りですわ!」

 今ならなんだって食べられる気がするわよ!

「~~っ!  ……ふっ、そうよね……わたしの目の前にいるのはフルール様。そもそも世間一般の話が通じるはずがなかったのよ……!  ふふ、ふふふ……」

 何かを悟ったような遠い目をするアニエス様。

「アニエス様?」
「ふっ……ですが!  ウェディングドレスは無事に乗り越えたからと言って油断なさらないことね!  このままコロコロになればフルール様に対する世間の目は……」
「やはり、フルールからコロールに改名しろと強く言われる!  のかしら?」

 私は真剣な顔でアニエス様に訊ねる。

「──は?」
「ですが皆、いつも改名はやめなさいって止めてくるのですけど……」
「そんなの当たり前でしょう!?  どうしてそういう発想になるのですか!」

 アニエス様は、本当に分からない!  全くその思考回路が分からない!  と頭を抱える。

(はっ!  それよりお礼……ヴェールのお礼を言わなくちゃ!)

 私は勢いづけてガシッとアニエス様の両手を掴んだ。

「───アニエス様!」
「ひぃっ!?  な、ななななななに!?  あなたのその目は怖いのよぉぉぉーー」

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