王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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159. 愛を誓う日 ②

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(思っていたより人が多いわ)

 式場内に足を踏み入れた時、真っ先にそう思った。
 キョロキョロと目線だけを動かして参列者を確かめてみた。

(すごいわ。見知った顔がたくさん!)

 すぐに目に入ったのは、もちろん大親友のアニエス様だった。
 ヴェールのお礼……言いたいな。
 でも、照れてそっぽ向かれちゃうかも。

 そんな大親友アニエス様の隣にいるのは───ニコレット様!
 ニコレット様は今日のために領地から出て来てくれた。
 時間がギリギリと聞いていたけれど間に合ったみたいで良かったわ。

 それから、それから……

(これだけ参列者が多いのは、やっぱりモンタニエ公爵───リシャール様効果よね?)

 やっぱり私の夫はすごい人だわ!
 私は目を輝かせた。

「フルール、どうかした?」

 参列者に目を奪われている私にリシャール様が横からコソッと訊ねてくる。

「人が多くて驚きましたわ。さすがリシャール様の結婚式だなって思っ……」
「違うよ、フルール」
「違う?」

 リシャール様が静かに首を振る。

「僕じゃない。皆、今日はフルール目当てで集まっているんだよ?」
「え、私?  ……あ!  なるほど、花嫁のウェディングドレスが見たくて、ですか?」
「いや?  中にはそういう人もいるかもしれないけど、そうじゃないよ」

 私の返答にリシャール様は苦笑した。

「分かってる?  ───あの真実の愛による婚約破棄騒動の時からフルールはとっても有名人なんだ」
「真実の愛……」 

 何だかもうすでに懐かしい。
 そう思ってクスッと笑った時、私の視界の端っこに見覚えのある顔が映った。
 肩身が狭そうでものすごく居心地悪そうで、唇を噛み締めて苦い顔をしたその人は───……

(えーー!?)  

 私はびっくりして思わず声を出してしまう。

「……ベルトラン様?」
「え?」
「リシャール様、ベルトラン様が式場の隅っこでしれっと参列していますわ……」

 そう告げたけれど、リシャール様は全く驚かなかった。
 むしろ、ゾクッとする冷たい微笑みを浮かべた。

「へぇ、来たんだ?」
「リシャール様?」
  
 その反応に私は首を傾げる。

「フルール……あれはね、来れるものなら来てみろと僕が呼んだんだ」
「え?」
「だってさ、皆の前で宣言した王女殿下との真実の愛があっけなく壊れて、高額慰謝料を支払って破滅寸前にまで陥ったあげく、社交界では笑い者にされてかなり肩身の狭い思いをして過ごしているけどさ……それだけじゃ罰が足りないと思ったんだ」
「ば、罰?」

 ベルトラン様の近況を一息で言い切ったリシャール様は、にこっと微笑む。
 だけど、すぐにニヤリと悪い顔になった。

「自分が捨てた婚約者が幸せいっぱいになっている姿を見ることが、何もかも失って落ちぶれた彼には一番の屈辱なんじゃないかなって」
「あ、悪どいですわ」

 リシャール様は優しいけれど敵に回すと怖い人だと思う。

「そう?  でも、僕はちゃんと選択肢を与えたんだよ?  来ることを選んだのはベルトラン自身だ」
「リシャール様ったら……」

(そして、そのちょっと悪い顔もゾクゾクするわ!)

「あの男は元々、フルールに一目惚れして婚約を申し込んだんだろう?  それなら今日のこんなに可愛いフルールのウェディングドレス姿を見て今頃後悔しているはず───ざまぁみろ、だ」
「……!」

 リシャール様もそんな言葉を使うのね?
 そう思ったらクスッと笑ってしまう。

「ですけど、万が一、ベルトラン様が式をめちゃくちゃにするという可能性は考えなかったのですか?」
「万が一に備えてはおいた……けど、権力という権力を使ってたっぷり脅しておいたから、今の彼にそんな度胸はないと思うけどね」
「権力!」

 リシャール様はこれまた悪い顔でニンマリと笑った。

「せっかく首の皮一枚繋がった状態の伯爵家を潰したくはないはずだからね」
「……!」

(胸……胸のキュンキュンが止まらないわ!)

 もっと……もっとその顔を……!
 これから皆の前で愛を誓う私の最愛の夫はとーーっても黒かった。



 そんな盛大な胸キュンを繰り返していたら、いつの間にやら愛の誓いを述べる祭壇の前に到着していた。
 そこで立ち止まった私たちは向かい合う。

(確か、ここで名前を呼ばれて愛を誓いますか?  と訊ねられてハイと返事を……)  

「フルール」
「リシャール様?」

 頭の中でこの後の段取りを復習していたら、何故かリシャール様が私にお礼を言った。

「……フルール、改めてありがとう」
「何がです?」

 何のお礼か分からず私が聞き返すとリシャール様はとびっきりの笑顔を見せた。

(……っ!)

 くっ!  眩しいわ!  国宝がキラッキラに輝いている!

「もちろん───あの日、王女殿下に婚約破棄されて捨てられた“悪役令息”の僕を拾ってくれたこと、だ」
「ふふ、あれは人生で一番の拾いものでしたわ!」

 だって拾ったのはまさかの国宝級の美男子だったんですもの!
 その後、美女も拾いましたけど! 

「……フルール」
「リシャール様……」

 リシャール様が両手を広げてくれたので、私はリシャール様の胸に思いっ切り飛び込んだ。
 本来の結婚式にそんな作法はないので式場内が大きくザワついた。

(えっと……なんだったっけ?  そうだわ。愛を誓うのよね?)

 なんて考えていたら、リシャール様はそのまま私を高く持ち上げる。

「!」

(───もう!)

 私はリシャール様を見下ろしながらとびっきりの笑顔で言った。

「リシャール様───私、これからもずーーっと、あなたを愛していますわ!」
「フルール、僕もだよ。これからもずっと君を愛してる」

 互いに愛を誓って見つめ合った私たちは微笑み合うとそっと唇を重ねる。
 愛の誓い方も誓いキスの流れももうめちゃくちゃだった。

 これまで見たことの無い愛の誓い方にすごく式場内はザワザワしている。

 これはあとでお兄様が、段取りめちゃくちゃの前代未聞の結婚式じゃないかーー!
 と、言ってくる姿が想像出来てしまうわね。

(ふふふ!  でも、これでいいの!)

 だって、これがいつだって型にとらわれず、自由でのびのびしている私らしい結婚式だと思うから───……

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