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158. 愛を誓う日
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なんて幸せな夢かしら?
嬉しい!
リシャール様があの冷たい目で私を見てくれたわ!
素敵! やっぱりゾクゾクする────
「ハッ!」
そうして迎えた結婚式当日。
私はとってもスッキリしたいい気分で目を覚ました。
「旦那様!」
「……」
慌てて隣を見るといつだって素敵な国宝の寝顔───……
「……? 気のせい? 少し国宝がやつれているような……?」
「……」
「昨日はそんなこと…………あれ?」
(どうしてかしら? 昨日の記憶が途中までしかないわ?)
ジメ男が訪ねて来て、お兄様大好き同盟を結ぶことにして……その後は?
気が付いたら朝なんですけど?
「ふ、ふふふ…………これは夢の夢ね! もう一度寝ればきっと!」
そう言って目を閉じようとしたその時。
「ん……フルール……起きた、の?」
「旦那様!」
「フルール……」
旦那様が眠い目をこすりながらそう言って私を抱きしめる。
(温かい……つまり夢じゃない)
色々思うことはあったけど今は大好きな人の温もりに全力で浸ることにした。
─────
「……と、まあ、どうやら昨日公爵家では色々あったようなんですの!」
憧れのウェディングドレスを身にまとって花嫁姿となった私。
今は控え室でお父様たちに昨日、ついに満を持して開催されたという『第一回、モンタニエ公爵家によるフルール夫人追いかけっこ祭り』の話をした。
「……!」
「……っ」
「!!」
「あらあら、フルール様ったら」
オリアンヌお姉様だけはクスクス笑ってくれたけれど、お父様とお母様とお兄様は無言で頭を抱えている。
「公爵家で追いかけっこ祭り───フルール! お前!」
「お父様……」
お父様がクワッと目を見開き声を荒らげる。
「フルール! あれだけ言ったでしょう!? でもいつかこうなると分かっては……いたわ」
「ええ、そうねお母様……」
お母様がシクシク嘆く。
「フルールよ……お前は自分の結婚式なのに夫の国宝を廃人にする気だったのか……?」
「まあ! お兄様ったら、そんな人聞きの悪いことを言わないでくださいませ!」
お兄様も大きなため息と共に嘆く。
ちょっとうっかり間違えて手にしてしまったの!
「でも、リシャール様はそこまで言うほどやつれてはいなかったわね?」
「そうなのです! さすがお姉様!」
私は笑顔で今朝、リシャール様や使用人たちから聞いた話をする。
「───つまり、リシャール様の愛と国宝級の顔がお前の更なる暴走を食い止めた……と?」
「そうですわ!! 使用人が皆、助かった……と涙を流しておりましたわ」
「さすが国の宝だな……」
「ええ! 私の最高の夫ですもの!」
堂々と私が言い切るとお兄様が呆れ半分で苦笑した。
「……お似合いだよ、お前たち」
「ありがとうございます!」
笑顔でお兄様にお礼を言うとジロッと睨まれた。
「だが、フルール! お前も反省しろ! 飲み物を手にとる時は全てアルコールを疑え!」
「お茶でも?」
「お茶でもだ!」
お兄様はなかなかの無茶を言う。
「せっかく秘蔵のワインが二本になったのに……」
「なに?」
「二本目だと?」
お父様が凄い勢いで振り返り、お兄様も口をあんぐり開けて私を見ている。
その顔を見てやっぱり凄いことなのだと実感する。
「そうですわ。隣国の王家の秘蔵のワイン……二本目を貰いましたの」
「……!?」
うわぁぁぁ!? と頭を抱えるお父様とお兄様を見ながら、私はふぅ……と息を吐く。
特別な日でもある今夜、あのワインを飲みたかったけれど、さすがに昨日の今日では駄目そうね。
全力でやめてくれと止められる未来が見えるわ
(でも、いいの。楽しみは先にとっておきましょう)
次の機会を楽しみに待つことにしようと決めた。
「あ、ところで、着替えてからずっと気になっていたことを聞いてもいいかしら?」
「……ん? なんだ?」
「どうしたの? フルール様?」
皆が不思議そうにこっちを見る。
「ウェディングドレスをオーダーする時、ヴェールのデザインや製作はお兄様が任せてくれというからお願いしておいて今日、初めて完成品を見たんですけれど……」
ウェディングドレスは今日に向けて何度も試着を繰り返した。
けれど、実はヴェールの完成品は今日初めて見た。
そして今日一目見たその時からずっと思っていたことがある。
「……けれど? フルール、まさか気に入らなかった……か?」
お兄様がおそるおそる訊ねてくる。
「あのなフルール、実はそのヴェールは……」
「───アニエス様のレース編みですわよね?」
私はガバッと顔を上げて目を輝かせながらお兄様に詰め寄った。
「……え!? 何で分かったんだ? フルー……」
「お兄様がアニエス様に頼んでくれたんですの!?」
「待っ……フルール、近っ……近い……!」
グイグイ迫る私にお兄様が焦っている。
「な、何で分かるんだよ!? 製作者は内緒にするからって約束でこっそりお願いしていて……」
「甘いですわ! 大親友を舐めないで下さいませ! 一目で気付きましてよ!」
「フ、フルール……!」
(アニエス様……)
───お断りよ!! 我が領の名産は高級品なの! 欲しいならきっちりお金を払ってもらわないと困りますから!
あの時のアニエス様は、耳まで真っ赤にしてツンッと顔を背けながらそう言っていた。
口ではあんなこと言いながら……裏ではこうしてこっそり用意してくれていたのね?
胸の奥があたたかくなってきて、自然と頬が緩んだ。
「ふふ、ふふふふ……」
「お、おい? フルール? なんだその笑いは」
「ふふ、お兄様。これは幸せいっぱいの笑いですわ!」
「いや、怖いから! もっと普通に笑ってくれよ……!」
お兄様が少し顔を青くして怯えている。
「ふふふ……無理ですわ! ふふ、ふふふふふ……」
だって、こんなに幸せなんですもの────
そう思った時、控え室の扉がノックされた。
「────僕の可愛い花嫁のとっても幸せそうな笑い声が聞こえてきたんたけど? 支度出来たのかな?」
「旦……リシャール様!」
ひょこっと顔を出したのは愛する旦那様、リシャール様。
朝は少し疲れた顔をしていたけれど、今は……今は……
(────これまで会ったどの王子様より王子様だわ!!!!)
興奮した私は鼻を押さえた。
今、ドレスを真っ赤に染めるわけにはいかない!
なのに国宝の色気とオーラの暴力が凄い!
「フルール……」
そんな私の気も知らず、リシャール様はウェディングドレス姿の私をその溢れんばかりの輝いた顔でじっと見つめる。
見つめられた私の心臓がバクバクバクバク止まらない!
(私の心臓……落ち着くのよ……!)
「ど、どうですか?」
「……」
リシャール様は無言のまま顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに両手で顔を覆ってしまう。
「無理……直視出来ない……!! そ、想像……想像以上に……可愛い…………」
「あ! ありがとう、ござい……マス、リシャール様もステキデス、ワ…………」
「ア、アリガトウ……」
互いの姿に照れまくってはモジモジする私たち。
会話すらままならない。
そんな私たちを見ながらお兄様が呆れた声で呟く。
「夫婦になってそれなりに経ってるはずなのに……あの初々しさはなんなんだ」
「あらそうかしら? フルール様たちらしくて素敵よ!」
「オリアンヌ……だが、あれはそういう問題か!?」
(聞こえているわよ、お兄様!)
お兄様も、この先に行われるオリアンヌお姉様との結婚式で今、リシャール様に悶えている私の気持ちがきっと分かるんだから!
照れ照れ照れ照れ照れまくるがいいわ!
「…………フルール。僕の可愛い可愛い花嫁さん」
「!」
お兄様にプチ呪いの術をかけていたら、国宝の旦那様が私に手を差し伸べていた。
「そろそろ……皆の前で愛を誓いに行こうか」
「───はい!」
私はとびっきりの笑顔でその手を取った。
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