王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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155. 手紙が届きまして

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(結婚式……)

「フルール様?」
「はっ!」

 オリアンヌお姉様が不思議そうに私の顔を覗き込む。

「……フルール様。もしかして結婚式のことすっかり忘れて?」
「い、ませんわ!  まさかそんな大事なこと」
「……」
「私が忘れ……」
「……」

 お姉様が美しい瞳でじーっと私の目を見つめてくる。

(……くっ!  お姉様、お姉様の美しさの圧が凄いわ!)

 私は美しい人に弱いのよーーーー!

「…………かけておりましたわ!」
「やっぱり!」

 私はオリアンヌお姉様の美しさに屈した。
 そんな私の姿を見てオリアンヌお姉様はクスクス笑う。

「今日、訪ねて来て本当に良かったわ」
「え?」
「だってアンベールが言っていたの」
「お兄様が?」

 私が聞き返すとオリアンヌお姉様はお兄様の口調を真似しながら言った。

「───フルールのことだ。悪役夫人って強くてかっこよさそう!  とか言ってはしゃいで回って夢中になりすぎて自分の結婚式が近付いて来ていることをすっかり頭の片隅に追いやっているに違いない!  ───ってね」
「……!」

 さすが私のお兄様。
 何もかもが筒抜けじゃないの!

(お、恐ろしいわ……)

「リシャール様は、このことを知ったら泣いちゃうかもしれないから……気を付けてね?  フルール様」

 お姉様は美しい顔でクスッと笑いながらそう言った。



 その夜、リシャール様に「もうすぐ、私たちの結婚式ですね」と言ったら……
「フルールが忘れずに覚えていたなんて!」と、リシャール様には目を真ん丸にして驚かれ、熱があるのでは?  と心配されて公爵家はちょっとした騒ぎになった。



 そんな結婚式があと数日まで迫って来た頃、私の元に手紙が届く。

「私に手紙?  差出人は────まあ!」

 渡された手紙をひっくり返して差出人の欄を見て、私は、ぱっと顔を輝かせる。
 そしてそのまま愛するリシャール様の元へと走った。


「旦那様ーー!  たった今、イヴェット様からお手紙が届きましたわーー!」
「フルール?」

 リシャール様の執務室を訪ねると、リシャール様もちょうど手紙のようなものを手に持っている所だった。

「あら?  もしかして旦那様にもお手紙ですか?」

 私が訊ねるとリシャール様は、ハハッと笑って頷きながらまだ開封前の手紙を私に見せた。
 その差出人は───……

「うん。僕の方にはアンセルム殿下から手紙が届いたところだ」
「まあ、奇遇です!  すごいタイミングですわ!」
「と、言うよりも、それぞれから手紙が届いたということは、僕たちに伝えたいことがあるんだろうね」

 リシャール様が手紙を開封しながらそう言った。

「あ……!」

(……と、いうことは無事に揉めることなく婚約破棄が成立し──……)

「───うん。ほら、やっぱり!  だ!」
「……え?」

 私はリシャール様を見つめながら目をパチパチさせる。

(結婚の報告?)

 誰と誰の?
 そう思いながら私もイヴェット様からの手紙を開封する。

「……遅くなりましたが、結婚おめでとうございます。そして、ご心配をおかけしましたが、わたくしも遂にアンセルム殿下との結婚の運びとなりました…………」

(え?  婚約破棄は?  イヴェット様の意中の人は??)

 私は手紙の文面を三度見した。
 しかし、何度目を通しても、イヴェット様はあの王太子殿下と結婚と書いてある。
 更に──

「ずっとずっと夢見て願っていた日を迎えられたのもフルールさんのおかげです。ありがとう…………」

(え?  だから婚約破棄……は?)

「あの二人……拗れに拗れていたから本当に一時期はどうなることかと思ったけど、上手くいったようで僕も嬉しい。良かったね、フルール」
「……」
「ん?  フルール?  どうしたの?」
「だ、旦那様……」

 私は手紙から顔を上げてリシャール様の顔をじっと見つめる。

(こ、これはどういうことなの?)

「えっと?  ……フルール本当にどうした?  まるで甘いものと酸っぱいものとしょっぱいものを同時に食べちゃった時みたいな顔をしているよ?」
「それは、もはやどれがどの味か分かりませんわね……」

 私もどんな顔をしたらいいの?
 そんな思いでリシャール様を見つめると、リシャール様が何かに気づいたようにハッとして口元を押さえた。
 そして、真剣な表情でガシッと私の両肩を掴む。

「フルール。まさかとは思うけど、さ」
「旦那様、聞いてもいいですか?  ……あの二人の婚約破棄はどこに行ったんですの……?」
「!!」


 その日、ずっと誤解し続けていた私の勘違いがようやく解けた。

(な、なんてこと……!)

 私が気付かなかっただけで、ずっとあの二人はラブラブ……いえ、隠れラブだった!?
 そのことにショックを受けながら私は別れ際のことを思い出す。

「───旦那様……私、自信満々にイヴェット様に婚約破棄の際の相場を書いた資料を渡していたのですけど?」
「いや……フルール、そこは安心してくれ。殿下からの手紙にはフルールのくれた資料が大変役に立ったんだと喜ばれているよ」
「婚約破棄しなかったのに、ですか?」

 もはや意味が分からない。

「うん。そう書いてあるよ」
「なぜ……」

 私がポツリと呟くとリシャール様は再び手紙に目を通す。
 そして、えっ?  と驚きの声を上げた。

「ん?  あまりにも助かったから、結婚祝いも兼ねてお礼にフルールに秘蔵のワインをもう一本追加?  手紙とは別便で公爵家に送らせたからぜひ受け取ってくれ……?」
「え!」
「あの時はフルール・シャンボン伯爵令嬢への礼として贈ったものだったから、今度はフルール・モンタニエ公爵夫人宛へだって……そう書いてあるよ」
「!」

 私たちは顔を見合わせる。

「……フルール」
「はい」
「ただでさえ珍しいと言われる秘蔵のワインが二本になるみたいなんだけど?」
「ええ……」

(これは、ぜひ飲まなくちゃ……)

「これは……さ。もうきっと前代未聞だよ?」
「ええ……」
「二本貰った人なんて探しても他にいないと思う……」
「ええ……」

(きっと美味しいのでしょうね……飲みたい)

「最強の公爵夫人への最短ルートを突き進んでる気がする……」

(せっかくだし、結婚式の夜に飲みたいわ)

 その後もリシャール様は色々言っていたけれど、私の頭の中はもうワイン飲みたい一色だった。


────


(いよいよ、明日が結婚式……)

 すっかりモンタニエ公爵夫人が板に付いてきたとはいえ、結婚式は皆の前でのお披露目の場。
 ちょっと落ち着かなくて邸の中を走り回りたくてウズウズしていた。

「……フルール。身体が……」
「わ、分かっていますわ!」

 結婚式前日は本番に備えて、ご飯のお代わりも三杯までと約束し、大人しく過ごすと決めている───その時だった。

「───し、失礼します!  ご主人様、奥様!」

 何やら慌てた様子の使用人が部屋へと飛んで来る。

「そんなに慌ててどうしたんだ?」

 リシャール様が何事かと聞き返すと、使用人は困った表情で口ごもる。

「そ、そそそれが!  ……げ、玄関に!」
「玄関?」

 誰か予定にない訪問者でも来たのかしら?
 リシャール様も不思議そうな顔をする。

「玄関ということは……訪問者かしら?」
「訪問者と言いますか……いえ、帰って来た……と言いますか……」
「?」

 私たちは顔を見合せて首を傾げながら玄関へと向かう。

「旦那様、誰かしら?  今日は特に訪問者の予定はなかったと思うのですけど」
「うん」

 そんな会話をしながら玄関にたどり着く。

(───あ!)

 玄関に立っていた人物を見て私は驚く。
 それは隣にいるリシャール様も同じだった。
 リシャール様が驚きの声をあげる。

「お、お前……どうして?」

 リシャール様に声をかけられた“その人”は振り向くなりパッと嬉しそうに笑顔を見せた。

「───兄上!」

(やっぱり、ジメ男だわーー!)

 リシャール様への兄愛を拗らせてジメジメしていた弟、ジメ男が現れた。
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