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154. お兄様の突撃
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こうして、私の大親友を巻き込んだ婚約詐欺事件は様子見の部分はあるものの一応の終息を迎えた。
そして再び、私は最強の公爵夫人を目指す日々が始めり……
それから、約半月後────
「まあ! お兄様。ようこそ! お兄様の結婚報告の時以来かしら?」
「ははは、肉食夫人の時、か───さて、フルール。話を聞かせてもらおうか?」
「お話?」
その日は突然、お兄様がオリアンヌお姉様と共に公爵家にやって来た。
嫁ぐ前に約束した肉パーティーの打ち合わせかしら?
そう思ってウキウキしながら会ってみたら……
(何か違う)
お兄様からは何だか得体の知れないオーラを感じるわ。
これは……
私が悪戯をしてお説教される時のオーラとよく似ている……気がする。
オリアンヌお姉様はその横で苦笑していた。
(お姉様は相変わらず美しいわ……)
お兄様との結婚が決まってからますますお綺麗になったみたい。
なんて脳内でうっとりしていたらお兄様がクワッと目を大きく見開く。
「フルールよ。散々大暴れした挙句、ちょっとそこまでお散歩に行ってきますわ! くらいの軽い感じでリシャール殿の元に嫁いでからそれなりに日にちが流れたな」
「ええ、早いですわね」
「すぐに肉食夫人騒動なんてものはあったが、さぞかし、“最強の公爵夫人”とやらになるべく、日々を過ごしているのだろうと俺は……信じていた」
「もちろんですわ!」
公爵夫人としての心得や仕事を教わりつつ、畑を耕し花を植え、身体を鍛えるために走り込み、美味しいご飯を盛り盛り食べて、愛する旦那様ともイチャイチャ……
とーーっても充実した日々を送っていますわ!
私はお兄様にきっぱりとそう告げる。
「うん。想定どおり───実にフルールらしい過ごし方だ」
私はそうでしょう、そうでしょう! と大きく頷く。
「では、フルールに問おう」
「なにをです?」
「俺は先日、オリアンヌと参加した夜会でとある噂を耳にした」
「噂?」
やっぱり社交界というのは噂がたくさんね!
そういえば、フラフラ男の悪事も広がり始めた頃かしら?
「───モンタニエ公爵家の夫人が肉食から悪女になった、と」
「あら?」
「なあ、フルール。悪女ってなんの話だろう?」
じとっとした目でお兄様が私の顔を見る。
「それから、ビュイソン侯爵家が壊滅寸前なんていう話と」
「……ビュ?」
一瞬、誰?
そう思ったもののフラフラ男の家だと思い出した。
「特に……プレイボーイとして名を馳せていた嫡男のジュスタン・ビュイソン侯爵子息が女性恐怖症になったらしいなんて話も」
「女性恐怖症?」
「よほど怖い目にあったのか……令嬢に人気だった甘いマスクはボロボロなんて話だぞ?」
「……大変ですわね」
自業自得だし、他人事なので私はサラッと流した。
「ははは! その噂には続きがあってな」
「続き?」
「ビュイソン侯爵家の破滅には、肉食夫人が肉食から悪女……悪役夫人に変貌したことで潰された……と」
「まあ!」
悪役夫人の登場に驚いた。
「俺はその話を聞き愛想笑いをしながら、ふとお前の愛読書を思い出した」
「さすがお兄様! 私の愛読書を覚えてくれていますのね!?」
私が嬉しくてはしゃぐとお兄様は、ふはは! と笑った。
「───悪女は今日も愉快に嘲笑う、悪女の華麗なる復讐劇 ~血の海が出来ました~ 、悪女と呼ばれた令嬢は軟弱婚約者を調教する…………他にもあったはずだがお前は特にこの辺を気に入っていた……どれだ! どれをお手本にした!?」
「今回は、悪女は今日も愉快に嘲笑う──ですわ、お兄様!」
即答するとお兄様は一言。
「崖で高笑いするシリーズか……」
「え? 何それ! 面白そう!」
がっくり肩を落としたお兄様の言葉に、それまで静かに話を聞いていたオリアンヌお姉様の目が輝いた。
(さすが、お姉様!)
「くっ……オリアンヌまで目を輝かせないでくれ。フルールはこの話に影響を受けまくって、崖を探しに邸を飛び出して迷子になったこともあるんだぞ!」
「……そんなこともありましたわね」
残念ながら、物語に出て来そうな最適な崖は見つからなかった。
「…………話を戻そう、フルール」
「はい!」
「───お前は肉食夫人から肉食悪役夫人となった! で、間違いはないか?」
「どうやらそうみたいですわ!」
何だかとっても強そう!
私はワクワクした目でお兄様を見つめる。
「強そう! じゃないんだよ、フルール……お前は……お前は……」
───本当に話題に事欠かない。
がっくり項垂れたお兄様はそう言った。
────
「フルール様が変わらず元気いっぱいで安心したわ」
「お姉様もです!」
興奮しすぎたお兄様は疲れてしまったようなので、帰る前に少し休ませてくれ……と部屋で横になっている。
その間、私はお姉様と約束した肉パーティーの予定を詰めることにした。
「フルール様、今度、私にあの面白そうな本を貸してくださらない?」
「もちろんです」
オリアンヌお姉様は悪女に興味を持ってくれたようでそう言ってくれた。
「かつて、“悪役令嬢”と呼ばれたことのある私ですもの。何だか気になってしまって」
「そうでしたわね。今、嘲笑うシリーズはリシャール様が読んでますので……復讐か調教のどちらかならお貸し出来ますわ!」
「あら? リシャール様も読者なの?」
オリアンヌお姉様が驚いた顔をする。
「はい! なかなか奥深くて爽快な話だと言ってくれてハマってくれています!」
「まあ! ふふふ。リシャール様ったら。どんどんフルール様に染まっているわね」
そう言ってクスクス笑うお姉様。
「それでお姉様はどちらにします?」
「──やっぱり復讐かしらね? 血の海とか聞くだけでゾクゾクするわ」
「承知しましたわ!」
腕力自慢の悪女が活躍する話なので、お姉様やニコレット様がお好きそうだわ、と思った。
本の話はそれくらいにして、肉パーティーのことも決めないといけない。
「───お姉様、聞いてください! 公爵家ではなかなか市場に出回らないお肉の希少部位が出されることもあるんですのよ!」
「希少部位ですって!?」
お姉様の目がキラリと輝く。
「さすが、公爵家! と心の底から驚かされましたわ」
「……きっとフルール様の喜ぶ顔が見たくて、せっせと仕入れているんじゃないかしら?」
「え?」
「シャンボン伯爵家の料理人はそう言っていたわよ?」
私が聞き返すとお姉様は、ふふふと笑った。
「いつもお嬢様が喜んでくれて美味しそうに何杯もお代わりして食べてくれる姿を想像して作っていたんですって」
「……」
「まあ! フルール様が照れているわ! 可愛い!」
(頬が熱い……)
改めて思う。
私は本当に恵まれているのだと。
「───可愛いと言えば……もうすぐね? フルール様」
「え?」
何の話? と思って顔を上げるとオリアンヌお姉様が美しく微笑んだ。
「もう、そんな顔して! …………もちろん、フルール様の結婚式よ!」
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