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150. 元気いっぱい!
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「うわあぁぁーーーー!」
(あら、フラフラ男の元気いっぱいな声が外まで聞こえるわ?)
「お、俺が悪かったーーーー、す、すまなかった、許してくれーー」
どうやら、フラフラ男と被害者令嬢たちは仲良く“話し合い”が出来ているみたいね!
「こ、拳!? 頼む……そ、それは仕舞ってくれ…………ヒィッ」
ぜひ、拳で語り合いたいと言っていた令嬢たちとも話が弾んでいる様子!
(良かったわ~)
私はホッと胸を撫で下ろす。
フラフラ男を令嬢たちが待機していた部屋へと放り込んだあとの私は、リシャール様と話していたフラ父を連れて再びこの部屋の前へと戻って来ていた。
「お、おい! ……今のは息子の叫び声……いや、泣き声に聞こえたのだが」
「そうですわね。私にもそう聞こえましたわ」
扉の前に立ったフラ父が顔をピクピク引き攣らせながらそう言った。
その顔色はとても悪い。
「……中では何が起きている?」
「私は、息子さんと関係のあった令嬢たちに声をかけてこの場に集まってもらって“話し合い”をするよう進めただけですわ」
「…………話し合い」
青ざめた顔のまま、ポソッと呟くフラ父。
「やっぱり顔を合わせて話し合うって大事ですわよね!」
「……」
「きちんと話し合えば、訴えの取り下げや慰謝料減額も可能かもしれませんよ、と送り出しましたわ。あ、逆に増額する可能性もありますけれど」
「~~っ! 夫人!」
ま、その時はその時ですわよね!
そう言ったら、ギリッと悔しそうにフラ父は唇を噛んで私を睨んだ。
「どうしてこんなことをしたか、ですか?」
私のことをギラギラした目で睨むフラ父の目はそう言っていた。
「だって、慰謝料請求した後のお返事が“こんな金額は払えません”ではなく“事実無根! 払う必要なし”という反応だったんですもの」
「なに?」
「あれだけの令嬢の人生を変えておいて、素知らぬ顔だなんて。まずはご自分が何をしたかを知るべきだと思いましたのよ。そして、父親のあなたも“知らなかった”で済ませようなんて甘いですわ!」
そこまで言った私はにこっと笑って扉を開けると、フラフラ男と同じ様にフラ父も部屋へと押し込んだ。
「───っ! おいっ!?」
「……“子は親に似る”のでしょう? あなたにそっくりな息子さんの末路、しっかり見届けてあげて下さいませ!」
「~~~~っっっ!」
私はにっこり笑顔でパタンッと扉を閉めた。
しばらく扉の外で待機して中の様子を探っていたら……
「お前……! これはどういうことだなんだぁぁぁ!」
「ひぃぃぃ、ち、父上ーー」
そんな元気そうな二人の声が聞こえて来たので満足気に微笑む。
(……うん! 元気いっぱい! これは大丈夫そうね!)
何かあれば見張り役から連絡が来ることになっているので、私は軽い足取りでスキップしながら愛するリシャール様の元へと戻った。
「───旦那様、戻りましたわ!!」
「フルール!」
「きゃっ!」
笑顔で戻って来た私の姿を見たリシャール様が一目散に駆け寄って来て、ギュッと私を抱きしめる。
「どうしました?」
「フルール成分を補充している」
「まあ!」
ギュッ……!
リシャール様の私を抱きしめる力が強くなった。
そんな可愛いことを言うリシャール様が愛しくて私からもギュッと抱きしめ返した。
「───だけど、驚いたよ」
「何がです?」
しばらくは無言で互いの温もりを確かめ合っていた私たち。
やがて、リシャール様がポソッと口を開いた。
「フルール、お願いがあるって言うから何かと思ったら、邸にこの件の関係者を集めたいと言い出したからさ」
「お願いを聞いて下さり、ありがとうございます」
私がお礼を言うと、リシャール様はクスッと笑って私の頭を撫でる。
「可愛い妻の頼みだからね。それに」
「それに?」
「───もう、色々と面倒なので、ここはいっそのこと全て混ぜてしまえばいいと思いますの! なんて満面の笑みで言い出すからさ……その発想がもうフルール! って感じでさ」
リシャール様にそう言われて私は、えへへと笑う。
だってこの方法が一番手っ取り早いと思ったんだもの。
公爵家は広いから、大勢を待機させるのに支障はない。
被害者の会の中には、大勢の令嬢たちとの伝手があるアニエス様もいる。
(つまり、最適な条件が揃っていた、というわけよ!)
「また、そうやって僕を誘惑するような可愛い顔で笑う」
「え? 誘惑?」
そう言ったリシャール様が顔を近付けてくるとチュッとキスをした。
私はハッとする。
「だ、旦那様! 今日は口紅が!」
「え? あー……」
今日は悪役夫人フルールなので、いつもより濃いメイクだと言ったのに!
旦那様の唇にしっかり移ってしまっている。
「……いいんじゃない?」
「え……いい?」
私が聞き返すとリシャール様は、少し黒い笑顔を見せた。
その瞬間、私の胸がゾクッとする。
(──く、黒い国宝も素敵!)
「候爵親子が地獄を見ている間、僕たちは夫婦の幸せな時間を過ごしていました! って言わなくても伝わるし」
「……旦那様」
(夫婦の幸せな時間……)
その響きに嬉しさと照れが込み上げる。
「そうだ! 今日のフルールさんは“悪女”らしいから僕が襲われたことにでもしようか?」
「まあ!」
そんなことを言いながら、私の背中に回したリシャール様の手が不埒に動く。
何だか擽ったくもありゾクゾクもする。
「───本当に僕の奥さんは、無邪気で可愛い……そして最強だ」
「ふふ、当然です。だって目指すは、最強の公爵夫人ですもの!」
「悪役夫人は?」
「中に含みます」
私が即答するとリシャール様は、ははは、と笑った。
「それなら、これからも“悪役夫人フルール”の姿を見られるのかな?」
リシャール様はクルクルの縦ロールを手で遊びながらそう言った。
「必要ならいつでもなってみせます! 悪女の参考書はたくさんありますので問題ありませんわ!」
私は物語の悪役の真似をして、オーホッホッホと高笑いをしてみせた。
「……」
「旦那様?」
何故かリシャール様がそのまま黙り込んでしまったので、不思議に思って顔をのぞき込むと何故か顔が赤い。
「旦那様、顔が赤いですよ?」
「……うん。だってフルール……めちゃくちゃ可愛い……」
「今のは悪役夫人の笑い方ですわよ?」
「でも、可愛いんだ!」
(えーー?)
リシャール様はもう一度、強く強く私を抱きしめる。
そして熱を孕んだ目で顔を近づけて来たので、私もそっと目を瞑った。
(もしも、また次の機会がある時は……)
メイクはもっとつり目にして……そうね? 今度は背中ではなく胸を強調するようなデザインのドレスを選んでみたら、リシャール様はなんて言うかしら──……
「……んっ」
「フルール……」
それからどれくらい時間が経ったのか……
思う存分、愛しのリシャール様とイチャイチャしていたらガヤガヤと廊下が騒がしくなった。
“話し合い”が終わったのかもしれない。
「フルール……」
「……ええ、旦那様」
私たちは顔を見合せて頷き合った。
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