王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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143. 公爵夫人は許せない

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「───フルール!」

 私が気合を入れてメラメラしていたらリシャール様が慌てた様子で私の前に飛び込んで来た。

「旦那様?」
「メラールの気配を感じた。さすがに今ちょっとここでは……と思って飛んで来た」
「まあ!」

 リシャール様がお兄様並みの嗅覚で私の何かを感じとったらしい。
 夫婦ってすごいわ!
 なんて感心していたら、リシャール様が私の手をハンカチで必死に擦っている。

(……えっと?)

「…………それで旦那様は何をしているのです?」
「あの男がフルールに触れた所を綺麗にしたくて」
「え……?」

 リシャール様の必死なその姿に私の胸がキュンとした。

「普段はこんなこと気にならないけど、あの男だけは駄目だ!  許し難い」
「旦那様……」

 ついついうっとりしそうになってハッと気づく。
 今はそれどころではない、と。
 私は声を潜めてリシャールの耳元で先程、アニエス様から聞いた話を告げる。

「旦那様!  フラ……侯爵子息様は婚約詐欺男でしたわ」
「え?  婚約詐欺って……あの男が?」 
「そうですわ」

 フラフラ男の名を忘れてしまったので、変な言い方になってしまったけれど、さすがリシャール様。
 すぐに私の言いたいことを理解してくれた。

「旦那様は、いつも彼が違う女性をを連れ歩いていると言っていましたけど……それだけではありませんでしたわ」
「どういうこと?」

 リシャール様は眉をひそめた。

「未婚の令嬢に婚約をチラつかせて口説いて回っているようです。でも、結局婚約はしないそうで……女の敵です」
「それで婚約詐欺?」
「はい。そして今はなんとアニエス様を口説いている最中らしいのです!」

 リシャール様はその言葉にえっ!  と顔を上げてアニエス様の顔を見た。
 アニエス様は気まずそうに目を逸らす。

「フルール、もしかしてその話を聞いてメラール化したの?」
「そうですわ!  だってアニエス様は私の大親友ですもの!  それに……」
「それに?」

 私は少し照れながら言う。

「私……結婚してから分かりましたの。大好きな人と結ばれるということが、どれだけ幸せなことなのか」
「うん」

 リシャール様が優しい笑顔で相槌を打ってくれる。

「ですから、これまで騙されてしまった彼女たちも、一度はそんな幸せな未来を夢見たはずです」

 私はギュッと拳を握る。

「私は、そんな令嬢たちの夢見た未来を奪い、純粋な気持ちを弄んだ男のことは……許せません!」
「フルール……」

 私は拳を解くとリシャール様の両手を取ってギュッと握りしめる。

「旦那様、手伝ってくれますか?」
「もちろん!  愛しの妻、フルールの頼みならいくらでも聞くよ?」
「ふふ、ありがとうございます」

 私がお礼を言った時、それまで黙って私たちの様子を見ていたアニエス様が口を開いた。
 なんだかその表情は怪訝そう。

「フルール様!  そういうイチャイチャは家に帰ってからやってくれません?」
「え?」

 イチャイチャしたつもりはないのに怒られた。

「それから、メラ……?  とか許せない、とか手伝ってと言っているけれど、フルール様はいったい何をするつもり?」
「何って……」

 私はふふっとニンマリ笑う。

「───もちろん!(集団)慰謝料請求の準備ですわ!」
「は?  慰謝料……請求?」
「そうですわ。アニエス様もご存知だと思いますが私、そういうの得意ですから!」

 どーんと胸を張った私を見て、アニエス様は目を丸くした。




 話を終えたので、私たちは一旦フラフラ男の元へ戻ることにした。

(あら?  何をしているのかしら)

 そんな彼はキラキラオーラをこれでもかと振り撒きつつ令嬢たちに囲まれていた。

(鼻の下がデレデレだわ……!)

 けれと、フラフラ男は私たちの姿を見つけると、自分を囲んでいた令嬢たちに手を振って小走りでこちらにやって来る。
 キラキラキラキラ……
 やっぱりこの人のオーラは無駄に眩しい。

「アニエス嬢、女性同士の話は終わったの?」
「…………ええ」

 アニエス様はしかめっ面のまま頷いた。

「はぁ、君はまたそんな顔を。俺が令嬢たちに囲まれていたから今日も拗ねてヤキモチを妬いているのかな?」
「は?  わたしがヤキモチですって!?」
「ははは、すまない。人気者って言うのは油断するとすぐ人に囲まれてしまって大変なんだ」

 フラフラ男は、アニエス様とリシャール様の顔を交互に見ながら困った表情でそう口にした。
 その後はさらにチラ……チラチラ……チラッ
 何か言いたげに私の顔まで見てくる。

(目線が煩い人ね……)  

 私と目が合うとフラフラ男はフッと鼻で笑い笑顔を浮かべた。

「───モンタニエ公爵夫人もこんな顔だけの男なんてつまらないと思わないかい?」
「え?」

 顔だけの男?
 まさかリシャール様のことを言っているの?
 そう思って首を傾げた。

「どうかな?  俺みたいな人気者なら、もっと貴女を楽しませ……」
「旦那様が顔だけのつまらない男ですって?」

 興奮した私はフラフラ男を睨んだ。

「仰る通り、私の旦那様の顔は最高ですわ!!!!  私はこんなにも美しい方を他に知りません!」
「え……いや~……大袈裟だなぁ。他にもいるだろう?  例えば、お……」
「いません!」

 私がキッパリ否定するとフラフラ男がムッとする。

「ははは!  夫人。もしかして君は世間知らずなのかな?  よく見てごらん?  俺のこの顔だって負けず劣らずで結構……」
「いません!」
「……っ!」

 ピシッとその場の空気が凍りついた音がした。
 それでも、なぜかフラフラ男はめげなかった。

「コホッ…………えっと、そこまで言うなら夫人の好みの顔は」
「もちろん旦那様ですわ!」

 私は満面の笑みで答える。

「……では俺の顔はどうかな?  ……けっこうキラキラしていてかっこいいと皆からも評判で……」
「皆なんて知りません。むしろそのキラキラが無駄に眩しくて目を開けていられません」
「は!?  む、無駄!?」
「ええ、無駄ですわ」

 不思議よね。
 同じキラキラの眩しさでのはずなのにリシャール様とでは全然違うもの。

(なんて言うのかしら……フラフラ男はキラキラがうるさい)

 これが本物の国宝と贋物の差ってところね。

 それでも、フラフラ男は顔を引き攣らせながらもしつこく食い下がってきた。
 もうため息しか出ない。

「夫人──」
「お話になりませんわ。とりあえず、旦那様と張り合うおつもりなら顔を洗って出直して来てくださいませ」
「え?  は?  出直し……だと!?  この俺が……!?」
「ええ!」

 困惑気味のフラフラ男を私はキッと睨みつけた。
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