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141. 無駄に眩しい男
しおりを挟むその男性はとにかくキラキラオーラで眩しかった。
(でも、何かしらこの人───何だか違和感──……)
「ゆ、友人ではありません!」
「え? 違うのかい?」
アニエス様が“友人”を否定する。
分かっているわ。
だって、私たちは大・親・友ですもの!
そう思った私はにこにこしながらアニエス様を見つめる。
私と目が合ったアニエス様はパッと勢いよく顔を逸らした。
(ふふ、アニエス様の恥ずかしがり屋さんが発動ね!)
私は微笑ましい気持ちでアニエス様のことをにこにこ見つめる。
「と、とにかく……ち、違います!」
「ふぅん? まぁ、いいや。それで、とても可愛らしい貴女はいったいどこの令嬢なのかな?」
男性はアニエス様の肩から腕を離すと、キラキラの笑顔を浮かべて私を見つめながら訊ねてきた。
私はその発言に内心で首を傾げる。
(……ん? 可愛い?)
なぜ、わざわざ“可愛い”をつける必要があったのか全く分からないけれど、私は自分が名乗っていないことには確かなので頭を下げた。
「失礼しました。私はフルール・モンタニエと申します」
「え……」
先ほど、主催の当主に挨拶した時も感じたけれど、モンタニエの家名を名乗ることに少し照れてしまう。
でも、口にすることでますます実感出来る。
(私はリシャール様の“妻”なのよ!)
私が内心で興奮しながら顔を上げると、その男性がなぜか私を凝視しながら固まっている。
ついでにキラキラオーラも消えた。
「……モンタニエ? モンタニエってあの……?」
「はい」
他にモンタニエは無いわよ?
「で、では、君……あ、いや、貴女がモンタニエ公爵夫人?」
「はい、そうですわ!」
少しでも公爵夫人の威厳を出そうと頑張って胸を張って答えてみた。
すると彼はハッとして、再びキラキラオーラを放ちながら私に笑いかける。
無駄に眩しいので私は目を細めた。
「ふっ……これはまた……リシャール殿はとても可愛らしい人を妻にされたようですね? さすがだ……」
「……」
何だか馴れ馴れしいその物言いが凄く気になった。
「……夫とは知り合いですか?」
「んんっ、ああ、これは失礼。まだ名乗っていなかった。俺はジュ───」
その男性が名乗ろうとしたその時。
「───フルール!」
息を切らしながら私の後を追いかけて来たらしいリシャール様の私を呼ぶ声と綺麗に被った。
「旦那様!」
「って、話し中だった? ごめっ…………ん? って、君は」
リシャール様はキラキラオーラを放つ男性を見て眉をひそめた。
「旦那様、お知り合いですの?」
先ほど彼にした質問と同じことをリシャール様にも訊ねる。
「あー……知り合い……と言うか……」
「失礼。俺はジュスタン・ビュイソンと申します。お見知りおきを、モンタニエ公爵夫人」
口ごもったリシャール様の代わりに彼はそう名乗った。
「ビュイソン? それって」
本日お誘い頂いたこのパーティーの主催はビュイソン侯爵家。
つまり、先程から無駄にキラキラ眩しいオーラを放っているこの方が……
───嫡男のフラフラ男!
この瞬間、名乗られたはずの名前、ジュなんとかが勢いよく私の頭の中から吹っ飛んでいく。
私はじっとフラフラ男の顔を見つめる。
(なるほど……)
確かに美男子。
なぜなら、先ほどからこちらに令嬢たちからの熱い視線が注がれている。
このフラフラ男が無駄にキラキラオーラを放つたびに黄色い声が飛び交っていた。
(そして、私の愛する夫、国宝リシャール様の登場で更にその熱はヒートアップよ!)
でも、やっぱり申し訳ないけれどリシャール様の国宝級の美しさには全く敵わない。
ライバル? 国宝を舐めないでもらいたいわ。
改めてリシャール様の国宝級の美しさの凄さを実感させられただけだった。
「───夫人? どうかしましたか?」
「え? あ、いえ。不躾にジロジロとすみません」
いけない……ついついじっと見つめ続けてしまったわ。
私が慌てて謝るとフラフラ男は、再びキラキラオーラを放つと、にっこり笑顔を浮かべた。
その笑顔にキャーーという声が私の後ろから聞こえる。
けれど、私には無駄に眩しいとしか思えない。
「ははは! いいえ、お気になさらず」
フラフラ男がそう言ってくれたので私はホッとする。
「安心してください、夫人───俺は普段から見つめられることには慣れているので。むしろ美しい花に見つめられることこそが幸せだと思っているような男なのですよ」
「……え? 美しい花?」
私はもう一度、フラフラ男の顔をじっと見つめる。
見つめられることには慣れている?
美しい花に見つめられることが幸せ?
(それって───……)
再び、私と目が合ったフラフラ男はキラキラオーラを放ったままにこっと微笑む。
そして、なぜか彼は私の手を取るとギュッと握りしめて来た。
(ん?)
「そうです、美しい花。まるで貴……」
その様子を見て慌てたリシャール様がキッとフラフラ男を睨みつけながら、無理やり手を剥がす。
「失礼! すまないが、僕の妻に勝手に触れたり戯れはや───」
「───なるほど! 侯爵子息様はお花が好きなのですね?」
私は笑顔で手をポンッと叩きながら言った。
「……え? フルール?」
「へ?」
「美しい花に声をかけたくなるその気持ち。とても分かりますわ。先ほど、少しだけ拝見しましたがビュイソン侯爵家の庭園のお花、とても素敵ですものね!」
リシャール様、フラフラ男の順で私の顔を見る。
二人のその顔が驚愕! といった表情をしているので私は首を傾げた。
それに気のせい?
なんだか室内も少しザワザワしているような気がする。
「えっと? 今のお話は侯爵子息様がいつも庭のお花と見つめあって会話をしていて、その時間が幸せ……そういう話ではありませんの?」
「……なっ!?」
フラフラ男がカッと顔を赤くして私を見る。
同時にそれまで無駄に眩しかったキラキラオーラが消えた。
「フルール!?」
リシャール様も驚いた顔をして私を見ている。
(あれ?)
どうしてリシャール様まで驚いているのかしら?
だって今、私は公爵家で畑と庭づくりの真っ最中。
野菜でも花でも元気に育てるためにはたくさん声をかけるといい、と言われた。
だから、私が毎日「すくすく育ってね!」と声をかけているのをリシャール様は知っているはずなのに。
「……」
「……」
「……?」
急な沈黙が広がったのでどうしたの? と思ったところで私は突然腕を引っ張られた。
「あら、アニエス様? どうしました?」
「フ、フルール様! ちょ~っとこちらに来ていただいてもよろしいかしら!?」
「え?」
でも、まだ話の途中よ?
そう思ったのだけどアニエス様は「い・い・か・ら!」と言ってグイッと私を引っ張る。
(なんて珍しい……!)
アニエス様がこんなに積極的なのは大変珍しいこと。
感激した私は喜んでついていくことにした。
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