王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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139. 公爵夫人は今日もマイペース

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「お兄様ったらこんなにもすぐに会いに来てくださるなんて……!  そんなに私に会いたかったのですか?」
「───違う!!」

 ───肉食夫人とは何事だ!
 そう言いながら勢いよく公爵家に乗り込んで来たお兄様。

「フルール!  ───最強の公爵夫人になる、はどうした!」
「もちろん目指していますわよ?  ついでに最強の旦那様と最強の妻である私……最強の夫婦も目指していますわ!」
「増えている!!  目指す最強が増えている!」

 お兄様がぐわぁぁと頭を抱えた。

「リシャール様は国宝ですからね、もう既に最強なのであとは私がひたすら頑張るだけですわ」
「フルール……」

 お兄様が何か言いたげな顔でフッと笑う。
 そして、私の頭に手を置くと豪快に撫でた。

「もう、お兄様ったら!  髪が乱れてしまいます」
「子どもの頃、“おにーさまに、あたまをなでられるの大すき!”と言っていつも俺に頭突きしてきていたのはフルールだろ?」
「……そ!  それはそうですけど」

 子どもの頃の話を持ち出されるのは何だか気恥ずかしい。
 確かに子どもの頃の私は、お兄様に頭を撫でられるのが大好きで、褒めて褒めて!  と事ある毎にお兄様に向かって自らの頭を突き出しては頭突きを喰らわせていた。

 これはかなり恥ずかしいので話題を戻すことにする。

「コホンッ……それで?  今日のお兄様は肉食夫人として私が有名になっていることを教えに来てくれただけですの?」
「いや……それもある、が、それだけじゃない」
「それだけじゃない?」

 私が聞き返すとお兄様が少し照れた様子で目を逸らしながら言った。

「───オリアンヌとの結婚が正式に決まった」
「まあ!」
「今日はどちらかと言えばその報告がメインのつもりだった……」
「ふふ、お兄様ったら」

 照れた口振りで話すお兄様の顔が赤い。
 お兄様もこんな顔をするのね、と思うと何だかとても新鮮な気持ちになった。

「おめでとうございます、お兄様!」
「……ありがとう。これから準備が始まるから結婚式はフルールたちよりも後になりそうだけどな」
「結婚式!  ふふふ、お姉様のウェディングドレス姿……想像するだけでも美しいですわ……」

 私がうっとりした顔でそう口にするとお兄様が苦笑した。

「……本当にフルールは、リシャール様やオリアンヌの顔が好きだな」
「ええ、大好きですわ!」

 私は満面の笑みで即答する。
 そんな私を見てお兄様はやれやれと肩を竦めた。

「全くフルールは変わらないな……だが!  いいか?  オリアンヌのいい所は顔だけじゃないんだ!」
「そんなことはもちろん知っていますわ!  それにリシャール様だってそうですわよ!」
「オリアンヌは──」
「リシャール様は───」

 私たち兄妹によるお互いの(美しい)パートナー自慢はそれからも延々と続いた。




「そうか!  アンベール殿も結婚を決意したんだ?」
「はい!」

 その日の夜、お兄様が結婚するという話をリシャール様にも報告する。
  
「お兄様が素敵な人と巡り会えて本当に良かったですわ」
「オリアンヌ嬢は、婚約破棄されたせいで激怒した家族から逃げ出し、お腹を空かせて倒れている所をフルールに拾われて幸せになりました───という感じか」
「旦那様?」

 リシャール様が凄いなと言いながらクスクスと笑う。

「フルールのその元気なパワーが、皆に幸せを運んで来てくれたんだろうなと思ってさ」
「旦那様……」
「だから───これからも、そのままのびのびしたフルールでいて欲しい」
「のびのび……分かりましたわ!」

 笑顔で元気よく返事をしながら私は改めてリシャール様と出逢えたことに心から感謝した。




 それからの私は、公爵家の女主人としての働き方をレクチャーされながら、息抜きに走り込みと身体を鍛えたり、最近はとうとうリシャール様が用意してくれたお庭での畑づくりにも着手し始めた。

 そんな充実した日々を送りながら最強の公爵夫人を目指して元気いっぱいに過ごしている私の元に手紙が届いた。

「まあ!  この字は!」

 手紙を受け取った私は即座に声を上げる。
 差出人名を見なくても分かるわ!  だって大親友だもの!
 この字は───アニエス様よ!

「もしかして結婚を祝うお手紙かしら?  だとしたら嬉しいわ」

 あのお茶会以来、バタバタして会えていないのよね。
 今度ゆっくりと会いたいわ。
 そんなことを考えながら手紙を開封する。

「───フルール様へ   ご結婚されたとのこと。おめでとうございます。まさかフルール様が本当に結婚出来るなんて夢のようです…………うんうん、やっぱり結婚のお祝いの手紙みたいね!」

 私は頬を緩ませながら続きに目を通す。

「ふむふむ。フルール様が肉食夫人と呼ばれているという話も耳にしました───ええ!?  さすがアニエス様だわ!」

 ────いったい、何をどうしたらそんな呼び名が広がるのかしら?  ……もっと公爵夫人としての自覚をお持ちになったらどうです?  とアニエス様からの手紙は続く。
 さすが大親友!
 相変わらず、私のことをとても心配してくれているわ。

「ふふ、公爵家でも相変わらず沢山食べて食べて食べまくって、いっそコロコロになってしまえばいいわ!  なんてことも書いているけれど、これは要するに食べ過ぎには注意しなさいって、言ってくれているのよね?」

(確かに……結婚式前なのにウェディングドレスが入らなくなったら大変だものね)

 場合によってはフルールではなく、コロールに改名して式に臨まなくてはいけなくなるかもしれない。

(コロール・モンタニエ……)

「これは夜、旦那様に相談ね……!」

 私はうんうんと頷きながらそう呟いた。

「それにしても───……」

 本当にアニエス様は昔から変わらない人だわ。
 私は手紙を読みながらほっこりした気持ちになった。

 そんなアニエス様からの手紙がとても嬉しかったので、さっそく私は返信を書くことにした。
 しかし、あれやこれや書きたいことが多すぎてこれでもかと色々書き綴った手紙は、報告書並に分厚くなってしまう。
 もはや手紙なのか報告書なのか分からなくなったそれをパンスロン伯爵家に届けてくれた公爵家の使用人曰く……
 アニエス様は震える手で、
「手紙!?  あなたには“これ”が手紙に見えるというの!?」
 と、叫びながら受け取ったあと、嬉しさのあまりその場で卒倒したとか。

(喜んでもらえたみたいで嬉しいわ!)


 ちなみに、改名の件はリシャール様に相談したところ……
 たとえこの先、私がどんなにコロコロになってもコロールへの改名はやめてくれと懇願された。
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