王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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138. やり直し ②

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─────……


 その夜、いえ……朝?  
 いつ眠ったのか記憶にないけれど、とっても幸せな夢を見た。

 案内されたばかりの公爵家の庭に“子供たち”が楽しそうに走り回っていて……
『もー、まってー』
『やーだよ!』
 私の隣で愛する旦那様のリシャール様がその光景を見て楽しそうに笑いながら、
『フルールみたいに元気いっぱいだなぁ』
 なんて呑気に言っていて。
 私も私でそんな光景を微笑ましく思いながらも、自分も参加したいわ!
 なんてウズウズしていたら、隣の旦那様がにっこり笑って……
『駄目だよ?』
 と言う。
 どうして?  そう聞き返した私に対する旦那様の目線は私のお腹に────……


─────……



「───フルール、起きて?  朝だよ」

 甘く優しい声とともに私の身体が揺さぶられる。
 大好きな声。
 もっと聞きたい。

「う、ん……お代わり……」
「───ふむ。これはご飯の夢かな?  さすがフルール。安心してくれ、三杯は用意させているから」
「んん…………足り、ない……わ」
「え!  足りないの!?」

 甘く優しい大好きな声が驚いていて困惑しているのが伝わって来る。
 だって……

「もっと……」
「そうか、分かった。ならば五杯にしよう!」
「たくさん……」

 そう。
 私はもっと、もっとあなたが欲しいわ、リシャール様────……


 そんな夢現の中、旦那様の腕の中にいた私は優しく揺り起こされてようやく目が覚めた。




「────子どもは最低でも三人でしたわ!!」
「ゴフォ!」
「きゃっ!  リシャー……旦那様!  大丈夫ですか!?」
「……」

 私が大声を上げて驚かせてしまったから?
 旦那様が盛大にむせてしまう。
 私は必死に背中をさする。

「だ、大丈夫……」
「!」

 旦那様は苦しそうにしながらも甘く微笑んだ。
 その微笑みに私の胸が撃ち抜かれる。

(どうして?  どうしてこの方はどんな時でもかっこいいの?  ……これはもう奇跡!  奇跡よ!)

 だって、こんなケホケホとむせている姿ですらかっこいい!
 そんな状態でも眩しい笑顔で私に微笑む旦那様に思わず見惚れる。
 それになんだか今日の旦那様はいつもよりも特大にキラキラしている気がするの。

 旦那様はまだケホケホと咳をしながら、近くに置いてあった水を手に取って飲む。

「フルールも飲む?  大丈夫。これは間違いなく“水”だったよ?」
「本物……?」
「そう、本物の水」

 苦笑しながら渡されたお水の入ったコップを受け取ると、私はグビッと勢いよく飲み干した。
 確かに水!  
 なぜなら喉は潤ったけれど身体がポカポカはしてこない。
 私だって学んだわ。

 そんな私の様子を見た旦那様がまた、苦笑する。

「フルールも落ち着いたかな?  …………コホッ、それで?  えーっとなんだっけ?  子どもが──」
「ええ!  最低でも三人ですわーーーー!」

 私は元気いっぱいにもう一度夢の中の様子を報告をする。

「全然落ち着いてない……でも三人、か」

 リシャール様がくくっと笑う。
 分かっていたけれど、彼は絶対にバカにしない。
 そして、笑顔のまま私の前髪をそっと掻き分けると額にチュッとキスを落とした。

「それで?  子どもたちは何してた?」
「とっても楽しそうにはしゃいでいましたわ」
「……じゃあ、フルールに似ていた?」

 そう聞かれてうーんと首を捻る。
 夢の中のリシャール様は似ているね、と言っていた気がするけれど。
  
「分からないけど、とにかく元気いっぱいでしたわ!」

 私が自信満々に答えると、リシャール様はとても嬉しそうに笑う。
 そして、私の腰に腕を回すとそのまま自分の方へと抱き寄せる。

「───そっか、フルール。それならその夢を一日でも早く正夢にするためにも……頑張ろうか?」
「頑張る……」
「そう、今からでも────……」

 そう言って妖しく微笑んだ国宝旦那様の美しい顔が近づいて来る。

(……おかしい)

 今朝、目が覚めてからずっと旦那様がキラキラの国宝オーラが消えない。
 ずっとずっとキラキラキラキラ……もう 眩しすぎる!
 まるで誰かに綺麗に磨かれてピッカピカに手入れされたばかりのよう……

(いったいいつの間にこんなことに?  誰が磨いたのかしら?)
  
 このままでは私の心臓が……止ま……いいえ。
 更なる活発な活動をしてしまうわ!

「フルール?  黙っているということは肯定と受け取るよ?」
「……え?」 

 胸がドキンッと跳ねる。
 国宝の取り扱いについて考えていただけなのに、旦那様の手が昨夜と同じように私の着ている夜着に触れた……その時だった。

「───ご主人様、奥様……すみません、起きていらっしゃいますでしょうか?  お二人が仲睦まじいことは、我々としても大変素晴らしいのですが……さすがにそろそろ……」

 扉のノックの音と共に部屋の外から使用人のそんな声が聞こえてくる。
 私たちはハッとして動きを止めると、仲良く壁の時計を見上げた。
 そして、時刻を見て二人で息を呑んだ。

(なんてことーーーー!)

「リシャー……旦那様!  大変です、時計が壊れてますわ!」
「え?  壊れ……?」

 私は旦那様の肩をガシッ掴むとガクガクと揺さぶる。
 だって時間、時間が!
 どこからどう見てもおかしい!
 もうお昼を回ってしまっているんだもの!

「フ、フルール!  落ち着いて……くれ。目、目が……回っ」
「だってだってもうお昼…………朝、朝は何処に行ってしまったのです!?」
「フ……」

 更に興奮してしまったため、私の旦那様を揺さぶるスピードと力が強くなる。

「私、私の…………朝ごはーーーーん!」
「うっ!  そっち!?  ……フルーー……」
「……ん?」

 旦那様が急に静かになってしまったので、慌てて揺さぶるのを止める。
  
「……」
「旦那様?」
「……」
「だーんーなーさーま?」

 息はしている。
 けれど、反応が無くなってしまったので、呼びかけてみるけれど返ってこない。

「旦那様、リシャール様?」
「……」

 私は軽く旦那様の頬をペチペチする。

「…………む、無反応」

 まさかこれは……気絶!!?
 旦那様も朝だと思っていたらもうすっかりお昼だったことにショックを受けて!?

(大変!  お医者様呼ばなくちゃ!)

 そう思った私は、旦那様をそっと横に寝かせると慌ててベッドを飛び出し外に助けを求めた。



 結果として、旦那様はただ目を回していただけ……だったのだけど───

 なぜか、公爵家の使用人たちの中ではこの件が、
 “肉食夫人”にご主人様が襲われた───と、とても大きな大きな騒ぎになっていた。



 そして、どこにどんな情報ネットワークがあるのか。
 この話はなぜか、実家のシャンボン伯爵家の耳にも入ったようで……

「フルーーーール!  最強夫人より前に肉食夫人として有名になってどうするんだーーーー!」
「お兄様?」
「肉食夫人はオリアンヌだけで充分だーー」
「はい?」

 物凄い形相でお兄様が公爵家に駆け込んでくるという事態にまで発展した。

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