王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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 二人の関係……つまり!

「やっぱり、闇討ちしたり寝首を搔かれたりするようなスリル満点な危険な関係ですの!?」
「フルール……それはキラキラした目で言うことじゃないと思う」

 リシャール様が苦笑いしながら私の肩にポンッと手を置く。

「キラキラ?  ……失礼しましたわ。つい興奮してしまいました」
「知ってるよ。フルールは本当に可愛いな」

 リシャール様はクスクス笑いながら、私の前髪を掻き分けると軽く私の額にキスをする。
 そのままソファに腰を下ろして話の続きを聞くことにした。


「隣国では真実の愛が流行って婚約破棄がブームになっているという話があっただろう?」
「ええ」
「国としても対処しようと試みるも、まあブームはすごいことになっていて勢いが止まらない」
「大変そうですわね……」

 貴族のパワーバランスは崩れるし変な遺恨も出来てしまうだろうし、何より慰謝料の支払いが大変そう!

「ですが、事の発端となったエリーズ嬢の真実の愛は粉々になりましたわ?」
「そう。だが、“真実の愛”に失敗した情報が流れた頃にはもう広まりすぎていたから……」

 想像はつく。
 もう、始まりが誰だったのかさえ分からなくなるほど、盛り上がってしまっていたんだわ。
 私は、ふぅ……と息を吐きながらリシャール様の肩にもたれかかる。

「……それで殿下も対処に追われていて大変らしい。そんな中でもこの訪問予定を変えなかったのは、“真実の愛”で王族二人が続けて失脚したという状況がどんなものかを知りたかったからなんだってさ」
「あー……」

 大きく納得した。
 だって、崩れて粉々になった真実の愛の証人がいる国ですものね!
 様子は見てみたいはず。

「そんな殿下だけど見ての通り、婚約者のイヴェット嬢とは決して仲睦まじいとは言えない」
「ええ……イヴェット様が闇討ちを考えるくらいですものね。朝でしたけど」
「フルール…………闇討ちからは一旦離れようか?」

 私は頷く。

「イヴェット嬢は婚約したときから、あのつっけんどんな態度がずっと変わらないらしい」
「まあ!」

 なんて筋金入りの恥ずかしがり屋さん!

「殿下が言うには……だけど、自分が怒り出しても笑いかけても、いつもツンッとした反応ばかりで、気付くと言い合いに発展していることも多いんだってさ」
「イヴェット様は自己主張が激しいですものね」
「今回の訪問や視察同行のように突然、予定にないことを言い出すことも多いと嘆いていた」

 私はふむ……と頷く。

「双方ともに圧倒的にコミュニケーションと歩み寄りが足りていないですわ」
「……歩み寄り?」

 リシャール様が眉をひそめる。

「そうですわ。まず、イヴェット様ですが、どんなに恥ずかしがり屋さんだったとしても、あの態度ばかりでは少々の誤解を招きかねません」
「恥ずかしがり屋さん……少々……誤解……って少々!?」

 何故かリシャール様が驚愕の表情で私を見る。

「フルール。グイグイ行くなぁ、と思ってはいたけど、もしかしてフルールの中での彼女ってさ……」
「え?  アニエス様以上の恥ずかしがり屋さんで素直になれない可愛らしい方だと思っていますけど?」
「……」

 一瞬、リシャール様は黙り込んだ。

「……そういえば、朝もそんなことを言っていたな……そうか……フルールにかかればあれも……」
「どうしました?」

 私が聞き返すとリシャール様はにこっと笑ってなんでもないと言った。

「殿下も仕方がないとはいえ、頭ごなしに決めつけた物言いをする所もおありのようですから、イヴェット様が恥ずかしがり屋さんなことを理解のうえ、少しでも配慮出来ればいいのですが……」
「……」

 リシャール様がまた黙り込んでしまった。

「リシャール様?」

 私が呼びかけるとリシャール様は肩を竦めながら言った。

「いや、それがさ殿下は、これまでは気にならなかったのに真実の愛とか婚約破棄に触れすぎて、急に自分の婚約に疑問を持ち始めてしまったらしいんだ」
「あら?」
「───このまま彼女と結婚して未来の王妃にしてもいいのだろうかって。真実の愛でなくとももっと相応しい人は別にいるのかも……と」

 なるほど、真実の愛に巡り合った!  の直情タイプではなく、
 真実の愛の相手がどこかにいるかも!  というさすらいタイプなのね?

「ただ、自分が王太子になれたのはイヴェット嬢の公爵家が後ろについているから、という理由もあるそうなので」
「安易に婚約破棄などとは言えない、と?」

 考えはしていても思いとどまっている分、我が国の王子と王女とは違うのかしら……

「それで今回の訪問の件でまた我儘が飛び出したので、また心が揺らいだらしい。慰謝料支払う場合の相場を聞かれちゃったよ」
「支払い側!」

 私のこれまでは不貞があっての慰謝料請求ばかりだったから、今回の二人の場合はよく分からないわね……と思った。

「───やっぱり“真実の愛”は無関係ではなかったようですわね」
「ああ」
「イヴェット様はあんなに可愛らしい方なのに……」

 私がそう口にするとリシャール様はまた苦笑した。

(……でも、そんなにも微妙な空気の流れる関係な所で、朝の怪しい行動はなんだったのかしら?)

 はっ!
 まさか、イヴェット様は殿下の意図に気付いている──?
 それで、自身も実は婚約破棄を望んでいて殿下の不貞を探ろうとしたのでは……?
 どうせ貰えるなら慰謝料はたくさん欲しいものね……
 その気持ちはとっても分かるわ!  
 捏造は駄目だけど上乗せは大事!

「……フルー……あ!」
「……」

 なんて想像を頭の中で延々と繰り広げる私をリシャール様は優しく頭を撫でながら見守ってくれていた。


────


 そうして午後。
 私たちは視察へと出発。

 乗り込んだ馬車の中でイヴェット様が早速元気に叫ぶ。

「~~っっ!  なんでこうなるのよ!」
「えっと……なんで、とは?」

 私が首を傾げるとイヴェット様は顔を真っ赤にしながら涙目でキッと私を睨んだ。

(これは緊張のピーク!)

 私はどうにか宥めて落ち着かせなくてはと思う。

「どうして!  どうして出発時からあなたと二人の馬車なのよ!!」
「同乗者は(慣れた相手である)殿下が良かったのだろうとは思うのですが、やはり急な話でしたから難し……」
「で!  でででで殿下が良かったですって!?」

 ぶわぁぁぁと音がしそうなくらい更に真っ赤になるイヴェット様。

「わ、わ、わたくしはそんなことは一言も口にしていないじゃない!!」
「あら?  違いましたか」
「ちちちちち違うわよっっ!」

 イヴェット様はそう怒鳴るとプイッと顔を背けた。

「……」

(殿下と同乗して慰謝料請求に上乗せ出来そうな粗を探すおつもりだったのかしら?)

 殿下はあまり隙が無さそうだからきっと大変だわ。
 それに誤解させるような発言や行動しているイヴェット様にも非がないとは言い切れないし。

(慰謝料請求上乗せ、茨の道だとは思うけれど……)

 私はそんな同情の目でイヴェット様を見る。

「あなた!  そ、そそその目はなんなの!  なんて目でわたくしを見るの!」
「──頑張ってください、応援しています、の目ですわ!」

 イヴェット様はえっ!  と驚いて目を丸くする。

「お、応援……してくれる、の?」
「ええ、困難も多く大変かもしれませんが応援していますわ!」

 双方が納得して折り合いのつく道に進んで欲しいもの!
 そんな気持ちで見つめたらイヴェット様が震える声で言った。

「……応援なんてされたの初めて……だわ。皆、お前が悪い、難しいから諦めろって……」
「まあ!  諦めろ?  周囲は随分と勝手なことを言うのですね?」
「え……?」

 私はイヴェット様の手をガシッと握る。

「イヴェット様。諦める───それは、何の手も打てなくなった時の最後の最後に残された選択肢ですわ。そして、これは誰かに“言われたから”で決断するものではありません」
「……えっ?」
「“自分”で決めるのです!  誰かに流されてその決断を下した場合、残るのは後悔とその決断を迫った人への恨み……」
「……!」

 イヴェット様が息を呑んだ。

「後悔と誰かを恨んで生きるのは楽しくありませんわ」
「楽しく……ない」
「そうですわ!  ですから楽しい人生を手に入れる為にも、まずは簡単に諦めたりせずにどんどん当たってみるべきです!」

 そうすれば、慰謝料上乗せも夢じゃないと思うわ!

「どんどん……アタック?  諦めなくても……いいの?」
「ええ!  とにかく今はやれることから頑張ってみましょう!」

 私は、にっこり微笑んでイヴェット様の手を更にギュッと強く握りしめた。
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