王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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117. 照れると可愛らしい

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「待って?  な、なんであなたと……ふ、二人なのよ……」

 ピクピクと顔を引き攣らせていたイヴェット様は、何かにハッと気付いた様子を見せると、ふふふと笑った。

「そうよ!  それなら追加でわたくしの侍女も連れて行けばいいじゃな……」
「いいえ、駄目です。これ以上人数を増やすのは護衛の手配が大変になりますから許可出来ませんわ」
「……うっ」

 イヴェット様はまた悔しそうに唇を噛み締める。
 そして、グッと拳を握りしめると声を荒げた。

「だ、たいたい!  なぜ、このわたくしが、あなたにそんなことを言われなくてはいけな……」
「え?  この事態をどうにかするのが私たちの仕事なのだと仰っていたのはイヴェット様ですわよ?」
「うっ!」

 苦しそうに胸を押さえたイヴェット様は、下を向くと再びふふっと笑った。

「ああ、そう。そういうことなのね?  分かったわ、そうやってあなたも善良なフリをして、近付いてわたくしの──」
「申し訳ございませんが、何をごちゃごちゃ言っているのかさっぱり分かりませんわ」
「…………え?」

 イヴェット様が顔を上げる。

「私は王太子殿下の視察に同行して見識を広めたいというイヴェット様の為に、視察同行出来る方法を模索してお伝えしただけですもの」

 イヴェット様は言葉を発さずに目をまん丸に大きく見開くと私をじっと見つめた。

「イヴェット様の言い出したことは、確かに無茶で無謀で我儘ともとれる話なのかもしれませんが、その気持ちを私は尊重したいと思った……それだけです」
「……っ」

 言葉を詰まらせたイヴェット様の目を見て私はにっこり微笑んだ。
 そして次に私は未だに唖然とした顔をしている殿下に視線を向けると頭を下げる。

「差し出がましいことではございますが、殿下も頭ごなしに反対などしたりせずにきちんとイヴェット様と話をしてみてくださいませ」
「……」
「そして、困った時はまず私たちを頼ってください。そのために私たちはいるのですから」

 だって、イヴェット様はちょっと人より素直じゃない可愛らしい恥ずかしがり屋さんなだけなのよ?
 そんな思いを込めてそうお願いした。

「あ、ああ……」

 殿下は呆けたままだったけれど頷いてくれた。

「さて!  というわけでイヴェット様、どうされますか?」
「ひっ!?」

 勢いよくイヴェット様の方に向き直った私は一歩詰め寄ってまたグイッと迫る。

「ひぃ!」
「イヴェット様が同行される場合は、追加の護衛の手配が必要です!  なので申し訳ございませんが、決断は早急にお願いしますわ!」
「え……え、え?」

 私は一歩どころではない距離で詰め寄ってグイグイとさらに近付く。

「さあ、どうされますか?」
「……っ!」

 私はにこにこ微笑んだままイヴェット様の言葉を待つ。
 すると、あー……とか、うー……とか唸っていたイヴェット様がついに躊躇いがちに口を開いた。

「…………い、行く、わ」

 ──同行を選んだわ!!

「承知しました!  では、そのように致しましょう」
「───えっ!?  正気か!  イヴェット!?」

 イヴェット様の返答に私は笑顔で頷いて応えたのだけれど、その横で殿下が驚きの声を上げる。
 そして驚愕の表情を浮かべると震える声でイヴェット様に問いかけた。

「イヴェット……ほ、本当に?」
「……」

 イヴェット様は、殿下の顔をチラッと見るとすぐに顔を逸らしつつ無言で頷く。

「本気なのか……?  だが、たとえ着いて来ても、君の思う通りにはいかない可能性が高いんだぞ?」
「……」

 イヴェット様は再び無言で頷く。
 殿下は信じられない!  という顔をしてながらも再度確認する。

「いいのか?  先方の許可が降りなかったら君は馬車で待機……」
「イヴェット様、大丈夫ですわ!  その時は私と仲良く皆様の戻りを待ちましょうね!!」
「───っ!」

 私が満面の笑みでそう言ったらイヴェット様は顔を赤くしてジロッと睨んでくる。

(まあ!  照れているわ!  なんて可愛らしいの!)

 その照れた顔を見てやっぱり恥ずかしがり屋さんだわ、と再び微笑ましく思った。



「──フルール。追加の護衛の手配はしておいたよ?」
「リシャール様!  ありがとうございます!」

 私は後ろを振り返ってリシャール様に笑顔でお礼を言う。

「他に必要なことは大丈夫?」
「大丈夫ですわ!  さすがリシャール様!  対応が迅速ですわね」

 私が笑顔でそう告げると、リシャール様は国宝級の優しい顔で微笑み返した。
 そして、そっと私の頬に手を伸ばす。

「リシャール様?  私の頬に何かついています?」
「いや。僕はフルールのその可愛い笑顔が見られるなら何でも頑張れそうだなって」
「まあ!  大袈裟ですわね?」

 私の笑顔ならいつだって見れますわよ?
 そう思った私が、ふふふと笑うとリシャール様は優しく笑い返しながら私の頬を撫でた。

「大袈裟じゃないんだけどな」
「?」

 私が首を傾げた時だった。

「──あ、あなたたちはいったい何をしているの!!」

 突然、イヴェット様が怒り出した。

「わたくしたちの目の前でそんなこと───恥ずかしくないわけ!?」
「え?」

(恥ずかしい……?)

 私は考える。
 さすがに人前で抱きしめ合ったり、キスをしたりするのは恥ずかしいとは思うけれど……
 こうして頬を撫でられるくらいなら───

「いいえ!  全く恥ずかしくなどありませんわ!」
「……はっっ!?!?」

 素直に思ったことを口にしたらイヴェット様は目を剥いた。


────


「よし!  これで視察に向かう準備は完璧ね!  んーーーー」

 午後から視察同行に関する準備を終えた私は背筋を伸ばす。
 すると、部屋の扉がノックされた。

(リシャール様だわ!)

 私は笑顔で扉を開ける。

「リシャール様!」
「フルール、準備は大丈夫?」
「はい!」
「……」

 私が元気いっぱいに答えると、リシャール様がギュッと私を抱きしめた。

「どうしましたの?」
「フルールから元気をもらおうと思って」
「まあ!」

 驚いているとリシャール様がさらにギュッと私を抱きしめる。
 こんな身体で良ければどうぞ!
 そんな気持ちで私も抱きしめ返す。

「本当にフルールって……くくっ」
「リシャール様……?」

 どこか愉快そうに笑いだしたリシャール様は、優しく微笑むと私に言った。

「いや、実はさ……王太子殿下がフルールは何者なんだろうって言ってて……」
「どこにでもいる伯爵令嬢(もうすぐ公爵夫人)ですわね?」

 私が真面目に答えると、リシャール様は小さく吹き出した。

「フルール…………あ、そうだ。それと、少し時間があったから殿下に婚約者との……イヴェット嬢との関係について聞いてみたんだ」
「!」

 その言葉に私はハッと顔を上げた。

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