王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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113. 予想が大当たり!

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「~~っ!  し、知らないわよ、そんなこと!!」

 その言葉に私はハッとする。
 なんてこと。
 初対面なのにいきなり距離を詰め寄りすぎてしまったわ。
 私は慌てて離れると頭を下げる。

「大変、失礼しました」
「……あら?  なんだ、ちゃんと謝れるんじゃな──」
「よくよく考えてみれば、こういったことにコツなどはなく、自分でどうにかするべきことですものね!」
「……は?」

 なんだかんだで私と会話をする気になったらしいイヴェット様が間抜けな声を上げた。
 私は下げていた頭を上げてイヴェット様をじっと見つめる。

「必要なのは使用人との信頼関係が出来ているか……でしょう?」
「……っ!」
「ですから……どのようにイヴェット様が侍女の方々と普段から信頼関係を築いているのか……滞在の間にぜひとも参考にさせていただきますわ!」
「なっ……!?」
「よろしくお願いいたします!」

 私が堂々と盗み見宣言をしたので、イヴェット様はピクピクと頬を引き攣らせる。

「───もう!  な、なんなのよ、あなた!?」
「!」

 真っ赤な顔で座っていたソファから立ち上がるイヴェット様。
 その赤くなった顔を見て私はやっぱり……と思った。

(ふふ、この方はアニエス様と同じ……恥ずかしがり屋さんの匂いがしますわ)

「~~こんな方にこれ以上付き合ってなどいられないわ!  もう休む!  部屋、わたくしをさっさと部屋へと案内して頂戴!!」
「──イヴェット!  君はまた勝手に……!」
「わたくし、もう疲れたの!  早く休みたいの!」
「だから……いつも言っているだろう!  先方の都合を──……」

 王太子殿下がイヴェット様のことを咎めようとする。

「いえ、大丈夫です。それでは部屋に案内致しますわ」

 私がそう言って立ち上がると、王太子殿下は明らかにホッとしていた。
 どうやら、隣国の王太子様は婚約者に振り回される苦労性な王子らしい。

(そうね───我儘令嬢と気の毒王子……ってところかしら?)

「それではご案内致しますね、イヴェット様。リシャール様。私はお部屋に案内して来ますわ」
「う、うん……た、頼む。気を付けて……」

 リシャール様に声をかけると、リシャール様はどこか呆けている。
 なんでそんな反応?
 不思議に思ったけれど、先ほど笑いすぎたせいね、とすぐに納得した。



 イヴェット様とお付きの侍女たちは、静かに私の後を着いて来てくれた。
 ツンっとそっぽ向いたイヴェット様の後を困惑した様子の侍女たちが着いて歩く。

「イヴェット様が我が国に滞在している間に使っていただく部屋はこちらになります」

 私が扉の前で説明し中へと案内する。
 部屋の入口で全体を見渡したイヴェット様は満足そうに頷いた。

(よかったわ。メイド長を説得して広めのお部屋を用意して正解だったみたい)

 広い分、掃除は大変だったけれど、ベテランメイド長のおかげでスムーズに用意出来た。

「広さも充分だし、日当たりも良さそうでなかなかいい部屋ね」
「ありがとうございます」

 私がお礼を言いながら頭を下げる。
 だけど、イヴェット様はふぅ、と息を吐いて困ったように言った。

「けれどね、わたくし……とっても疲れているので“ふっかふか”のベッドじゃないと寝られそうにないのよ」
「……!」

 私はハッとして顔を上げる。

「だから申し訳ないけど、今すぐあそこのベッドをふっかふかに……」
「──いいえ、ご安心ください!  実は、既にふっかふかのベッドを用意させていただいておりますわ!!」

 予想が大当たりした私は嬉しくて興奮のあまり食い気味で答える。

「───は?  ふっかふか……よ?」
「はい!  ふっかふかです!!  どうぞ、ご自分で触って確認してみて下さいませ!」
「!?」

 イヴェット様は一言、信じられない……と呟くとフラフラとした足取りでベッドへと向かう。
 その様子を侍女たちはポカンとした顔で見つめていた。

(……やっぱりふっかふかは癒しよね!)

 ベッドにたどり着いて確認したイヴェット様が「そんな……!」と驚きの声と小さな悲鳴を上げる。
 そして、そのままベッドにポスンッと突っ伏した。

「───ほ、本当に……ふっかふか」
「気に入って頂けたようで良かったですわ!」
「ちょっ……これ、なん──」
「それでは私は続けて侍女の皆様を部屋へとご案内しますので、イヴェット様はごゆっくりお休みくださいませ!」

 私はにっこり笑顔を浮かべて部屋を後にした。



「……それで、イヴェット様付きの皆様の部屋は──」
「あ、あの!」

 イヴェット様の部屋を出て侍女たちを案内しようとしたところ、これまで無言だった彼女たちに声をかけられた。

「どうしました?」

 私が聞き返すと、侍女の皆様は顔を見合せて躊躇いがちに口を開く。

「……こ、怖くないのですか?」
「怖い?」

 意味が分からず首を傾げる。

「イヴェット様……です」
「その、イヴェット様はお、怒りやすいので……」
「一度、睨まれると、そ、その後が」

(うーん?)

 よく分からないけれど、侍女の皆様はイヴェット様を怖がっている?

「──私は可愛らしい方だと思いましたけど?」
「え!」
「なんで!」

 侍女の皆様が真っ青な顔で何で!?  と口々に言い合う。

「だって!  まず、とっても恥ずかしがり屋さんじゃないですか」
「……は、恥ず?」
「かしがり屋……?」
「そうですわ。恥ずかしがり屋さんだからついつい口調がキツくなったり命令形になってしまうのですわ」

 侍女たちは困惑気味に顔を見合わせる。
 アニエス様と近い空気を感じるからこそ私には分かるわ。

「怖い──ではなく、照れているのだと思うととても可愛らしいでしょう?」
「照れ……」
「それから、ご自分の意見をハッキリと口に出来る姿勢も好ましいですわ」
「え……」

 またまた侍女たちは困惑気味に顔を見合わせる。
 もちろん、時と場所は考える必要があるので手放しで賞賛は出来ないけれど。

「ほら、仕える主人が何を好きで嫌いなのか……全く分からず、掴み所がない方が大変ではありません?」
「確かに、そ、れは……」 
「そうです、けども」

(なるほど!)

 きっと、イヴェット様は普段からあの調子で自己主張が激しいから、言葉にしなくても使用人たちは意思を汲み取って動けるのね!
 奥が深いわ。

(私もこれから頑張るわよーー!)

「あ!  そうですわ。イヴェット様ってこの調子なら普段から食べ物の好き嫌いもはっきり主張していそうな方ですわね?」
「え……?」
「何が好きで何が嫌いか、可能な範囲で教えて頂いてもよろしいかしら?」

 イヴェット様の同行は昨日知ったばかりだから情報がなく、無難な食事のメニューを予定している。
 けれど、あの様子では絶対に嫌いな食べ物はあるはずよ。

「イヴェット様の好き嫌い……ですか?」
「ええ。出来れば滞在している間は気持ちよく過ごして欲しいですもの!」

 私の言葉に侍女たちはハッと息を呑む。
 そうしてポツポツと口を開くとイヴェット様の好き嫌いについて話してくれた。


 その後私は、侍女たちを部屋に案内すると入手した好き嫌いリストを持って厨房へと駆け込んだ。


─────


(一日目が終わったわーー)

 お出迎えの一日目を終えた私はベッドに突っ伏した。
 そして今日を振り返る。

「ふふ、食事の時のイヴェット様、目を丸くして喜んでくれたわ!  好きな物があると嬉しいものね!  情報をくれた侍女たちには感謝よ!」

 私はベッドの上をコロコロ転がりながらそう口にする。
 まぁ、何故か身体を震わせてすごい驚愕した顔で私を見ていたけれど。

「それより!  さすが王宮のベッドだわ……転がった時の感覚が我が家のベッドとは違う!」

 そのことに感激した。
 王太子殿下とイヴェット様が滞在する間は、私も王宮に寝泊まりすることになっていて、部屋を与えられた。
 それは、もちろんリシャール様も……

「ふふふ……お世話係の話を聞いた時は大変だと思ったけれど……リシャール様の近くにいられるのは嬉しいわ」 

 今夜からは、まるでリシャール様を拾って伯爵家で一緒に住んでいた頃みたいに近くにいられる。
 結婚の予定が延びてしまっているから余計にそう感じるのかもしれない。

「……こっそり会いに行ったらさすがに怒られちゃうかしら?  でも、少し話がした───」

 その時だった。
 部屋の扉がコンコンとノックされる。

「え!  もしかして……!」

 私の胸が期待で大きく高鳴る。

「───フルール、起きている?  僕だけど」
「リシャール様!!」

 やっぱり、リシャール様だったわ!!

 夜這い……これは夜這いというやつよね!?
 嬉しくなった私はベッドから勢いよく飛び降りて慌てて扉を開けてリシャール様を出迎えた。

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