王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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109. 陛下の頼みごと

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 部屋を出て、陛下の側近の後ろについて廊下を歩きながらリシャール様に訊ねた。

「リシャール様、国王陛下自ら呼び出しとはなんでしょう?」
「分からない。特に呼び出されるようなことをした覚えはないんだけど」

 どうやら、リシャール様にも心当たりはないらしい。

「せっかく、フルールと二人きりの時間だったのに……僕の癒しを返せ」
「リシャール様……」

 そんな言葉を聞いてしまったらついつい私の頬が緩んでしまう。
 でも、確かにいい所を邪魔されたので陛下には文句の一つも言いたくはなる。

「慰謝料は払ってもらえたので、もう個人的に陛下に用などありませんわ」
「フルール……」

 リシャール様が苦笑すると、私の手を取りギュッと握る。

「陛下から、直々の呼び出しがかかっているのに、そんなことを言えるのはフルールくらいだろうね」
「そうですか?」
「うん、大抵の人は同じ状況を迎えたなら、今、この廊下で足を震わせながら歩いていると思うよ」
「……」

 そう言われて自分の足を見た。
 足が震える?  それどころか元気いっぱいよ?
 午前中にたくさん走り込んだけれど、まだまだ走れる気がする。

「リシャール様!  私の足、どこからどう見てもピンピンしていますわ!」
「──うん、知っている」

 リシャール様は軽く吹き出す。
 そして笑いながらもう一度、手を強く握った。

「リシャール様……?」

 顔を上げてリシャール様の顔を見つめると、国宝級の笑顔で優しく微笑まれた。

「フルール……好きだよ」
「っ!」
「あ、赤くなった! 可愛い」

 突然の愛の言葉にびっくりして顔を赤くしたらリシャール様が一際楽しそうに笑う。

「リシャール様!  ここは王宮の廊下ど真ん中ですわよ!?」
「知ってるよ?  でも僕がフルールのことを愛しく思っていることは隠すことじゃないだろう?」

(……!  その顔は……ずるい顔!)

 国宝の放つ最大級に眩しい笑顔に心臓が口から飛び出すかと思った。


──────


「───来たか」
「リシャール・モンタニエです」
「フルール・シャンボンです」
「…………んぐっ」

 リシャール様に続いて私が挨拶をすると陛下が軽くむせた。
 大丈夫かしらと心配になる。

「……コホッ、顔を上げてくれ。急にすまなかった。今日呼んだのは実はそなたたちに一つ頼みごとがあったからだ」
「頼みごと……ですか?」
「そうだ」

 リシャール様が不審そうに聞き返すと陛下は大きく頷いた。

「……なぜ、私とフルールに?」
「他に適任がおらぬのだ」
「適任……では、それはいったいどんな頼みごとなのですか?」
「……」

 なぜかそこで黙り込んだ陛下がリシャール様から目を逸らす。

(……私の野生の勘が言っているわ)

 これは、ろくな頼みごとではない、と。
 そう感じた私はじっと国王陛下を見つめる。

「……うっ」

 そんな私の視線を感じとった陛下と目が合うと苦しそうな声を上げた。
 負けず嫌いの血が騒いだ私は、もう一度無言のまま陛下の目をじっと見つめる。

「……」
「……っ!  くっ……」

 陛下がまた苦しそうな声を上げた。それでも私から目を逸らそうとはしない。
 負けないわ!
 私は更に陛下の目をじっと見つめる。

「……」
「ぐぬっ」

 更に苦しそうな表情になった陛下は、遂に顔ごと私から視線を逸らした。

「!」

(やった! ───勝ったわ!!)

 心の中で大勝利宣言をしようとして──そうじゃない!  と気付いた。
 早くその“頼みごと”とやらが何なのかを聞かなくちゃいけないのに!

(危なかった……昔、お兄様とよく遊んだ睨めっこを思い出してつい熱くなってしまった……)

 これはもう私から陛下に突撃よ!

「───陛下、恐れながら申し上げます」
「……ぐっ!  な、なんだ……!」

 私はもう一度じっと陛下の顔を見つめる。

「……っ」
「───もったいぶっていないで、早くその頼みごとが何なのかをお聞かせ願いたいのですが?」
「なっ……!」

 さすがのリシャール様もこの言葉には私の横でギョッとした表情をしていた。




「隣国の王子が我が国を訪問する……!?」

 かなり勿体ぶっていたけれど、ようやく口を開いた国王陛下。
 その口から語られたのは───

 隣国の王子が一週間ほど我が国を訪問するから滞在時の世話や案内等を私たちに行って欲しいというものだった。

「なんで今なんだ……」

 リシャール様の嘆きはその通りだと思う。

「これは前々から決まっていた話なのだ。それから向こうが強く望んでいてな……」
「ちなみに陛下、隣国というのは……」
「もちろん、ヴァンサンやオリアンヌ嬢が留学していた国だ」

(それってオリアンヌお姉様の婚約破棄が行われた国……!)

 だけど、何故私たちがそんな重大なお役目を?

「───なぜ、私たちなのですか?」

 私と同じ疑問を抱いたリシャール様が鋭い目で陛下に質問した。

「それは──……」

 言葉を詰まらせた陛下はまたまた目を逸らす。

「そうですか。説明してもらえないようなので、この話は謹んでお断りさせていただ───」
「待っ……待て!!」

 あっさり断ろうとするリシャール様を陛下は慌てて引き止める。
 そしてとても言いにくそうに口を開いた。

「……おらぬのだ」
「はい?」
「元々、滞在時の案内は留学中にも交流があり世話になっていたヴァンサンが行い、シルヴェーヌが補佐をする予定だったのだ。だが……」

(……あ!)

 私とリシャール様は顔を見合わせる。
 残念ながら、廃嫡のダメージが大きく生気を失ったげっそり王子にはとてもじゃないけれど任せられない。

「同様にシルヴェーヌもそれどころではない」
「……」
「……」

 謁見の場がしーんと静まり返る。

「ヴァンサンとシルヴェーヌ……を除いて王子と年頃が近く、最も身分が高い者はそなたしかおらぬのだ、モンタニエ公爵!」

 まさかの消去法だった!!
 私は慌てて横にいるリシャール様の顔を見ると、リシャール様は全身から黒いオーラを放っていた。
 そして小さな声で呟く。

「ただでさえ、忙しくてフルールとの結婚が延びているというのに……これ以上仕事を増やすだと?  勘弁してくれ……」

 そんな怒りのオーラを放つリシャール様に向かって陛下が言う。

「それから、もう一つ……実は今」
「なんですか?」

 私が聞き返すと陛下は気まずそうに言った。

「隣国では今、“真実の愛”が流行っていて婚約破棄ブームが起きているそうなのだ────」
「え?」
「なっ!」

(真実の愛が流行っているですって!?)

 陛下の口にした婚約破棄ブームという言葉に私とリシャール様は目を丸くして驚いた。

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