101 / 354
101. 元気いっぱいの大親友
しおりを挟む(今日のお茶会はすごいわ!)
何でも知っているアニエス様に、美しくて強くてかっこいいオリアンヌお姉様に、鍛え抜かれた強い身体を隠し持ったニコレット様……
とにかく、すごい人たちが勢揃いよ!!
そんなことを考えながらアニエス様をお茶会の行われる部屋へと案内する。
その部屋では既にオリアンヌお姉様とニコレット様が待っている。
「あ、そうですわ、アニエス様」
廊下を歩きながら、途中で伝えておかないといけないことがあったので私は振り返った。
アニエス様がじとっとした目で私を見る。
「……な、なんですか!」
あら?
お茶会はこれからだというのにアニエス様ったらもう息切れを起こしているわ。
そんなに興奮するほど今日のお茶会を楽しみにしてくれていたのなら嬉しい。
「いえ、今日のお茶会はお菓子もお茶もたくさんの種類を用意しましたので、ぜひ、楽しんでいってくださいね!」
「は……? たくさん?」
「たくさんです。あ、着きました! この部屋です」
眉をひそめて怪訝そうにしているアニエス様を見ながら、私はゆっくり微笑むとそのまま部屋の中へと案内した。
「ぅ多っ! ───なっ、なんでこんなに!?」
アニエス様は部屋に入るなり、テーブルに並べられたお菓子を見て大きな声を上げた。
(あら、やっぱり驚いているわ)
準備をしていたらお父様とお兄様は胸焼けするって、顔をしかめていたのよね。
お母様とオリアンヌ様は、あれも好き、美味しいわよね、これも食べたいと一緒にはしゃいでくれたのだけれど。
後から到着したニコレット様は……
「この量……私の胃袋と対決ということね!?」
なんて闘志を燃やしてくれていたけれど。
「先ほど説明しましたが、たくさん用意しましたわ!」
「こんなの、き、聞いていた以上ではありませんか! 限度というものがあるでしょう? どうしてこんなにたくさん───え? あれ?」
またしても興奮していたアニエス様の目がとあるお菓子の山の一画に釘付けになる。
そして、あれ? と戸惑い始めた。
(ふふふ、どうやら気付いてもらえたようね!!)
私がニコニコしていると、すごい勢いでアニエス様が後ろを振り返った。
ばちっと私たちの目が合う。
「───フ、フルール様! ここここれは、どういうことですか!」
「はい! そこにはアニエス様のお好きなお菓子を集めてみましたわ!!」
「……なっ!」
えっへんと胸を張って答えたら、アニエス様が私を凝視したまま固まった。
どうやらかなり驚いてくれたみたい。
私はアニエス様の為にテーブルの上のお菓子を説明していく。
「あちらのお皿の上に乗っているのは、アニエス様のお好きな焼き菓子ですわ! そしてこちらもアニエス様のお好きなクリームたっぷりの……」
「待っ! ……待って待って待って! 待ちなさーーい!」
「?」
慌てた様子のアニエス様がすごい勢いで止めに入ってくる。
「どうしました?」
「な、なんで……ど、し、わたし、好き……」
息を切らしているアニエス様の言葉が聞きづらく、なんと言っているのか分からなくて私は首を傾げた。
(あ! 自分だけ好きな物を用意してもらって申し訳ないと言っているのかも!)
そう解釈した私は、安心して欲しくて優しく微笑む。
「ご安心ください。アニエス様だけじゃないですよ? オリアンヌ様とニコレット様のお好きなお菓子もばっちり揃えていますわ!」
私が二人の方を見ながらそう説明すると、二人も大きく頷いてくれた。
特にお姉様は早く食べたそうにウズウズしていて目を輝かせている。
その様子にアニエス様はパチパチと目を瞬かせた。
「違っ……だから、な、んで……」
「せっかくこうして皆で集まって楽しくわいわい過ごすのですから、それぞれ好きな物があったら嬉しいかなと思いました!」
私は満面の笑みで答える。
そうして、三人のお好きなお菓子を出来るだけ多く取り入れようとしたら……増えた増えた。
食べ切れるかしらと心配するかもしれないけれど私のお腹なら大丈夫。
決して無駄にはしません!
「───そ、そ、そうではなくて!」
アニエス様がすごい勢いで首を横に振っている。
「?」
「わ、わたしは! フルール様に好きなお菓子の話なんてした覚えがないと言っているの!!」
「あら? そうでしたっけ?」
そう言われて話をしたことがあるか思い出そうとしたけれど、よく分からない。
「そうなの! な、なのに! なぜわたしの好きなお菓子がこんなに並んで───……」
「だってアニエス様、昔から好きなお菓子を前にした時、可愛らしく微笑まれるんですもの」
「……え?」
「ですから、見ていればお好きな物は分かりますわ」
「…………え?」
アニエス様と目が合ったので、私はにっこり微笑む。
「アニエス様はお好きなお菓子を見つけると微笑みを浮かべて──周囲をコソッと見回して皆様の目を盗んで嬉しそうに頬張っ……」
「いーやー、フルール様ーーーー!」
「!?」
ものすごい勢いでアニエス様が私に向かって突進して来た。
「なっ……! どっ……!」
「えっと……なんで! どうしてそれを! ……ですか?」
コクコクコクとすごい勢いで頷くアニエス様。
首がもげないか心配だわ。
「一番最初に見かけた時は偶然でしたけど、その後もよく見かけたので──」
「……っっ!」
アニエス様の顔が赤くなる。
究極の照れ屋さんだから照れてしまったのかも。
「…………ど、どうして……そんなに私を見ていたの……よ!!」
「え? それはこの間も言ったでしょう?」
「は? この間……?」
私はもう一度どーんと胸を大きく張って笑顔で答える。
「アニエス様は私の大親友ですもの!」
「───っ!」
「やはり、アニエス様の親友を語るなら、これくらいのことは理解しておかないといけません!」
「……し、ししし……」
「アニエス様?」
突然、挙動不審になってしまったアニエス様。
大親友という響きに照れてしまっているのね? 分かるわ!
「───と、いうことですから、さあ! お茶会を始めましょう!」
「ちょっ……」
オリアンヌお姉様とニコレット様が私たちの様子を楽しそうに見守ってくれる中、アニエス様にはやや強引に着席してもらった。
その後は、それぞれの挨拶を終えて一息つく。
「では、挨拶も終わりましたのでお茶を───」
「……はっ! フ、フルール様!」
運ばれてくるお茶を見たアニエス様が突然、震え出した。
「あの? 大丈夫ですか、アニエス様? もしかして寒いですか?」
「違うわよーー! そうではなく……ま、まさかとは思いますが……そのお茶に使われている茶葉……」
「!」
私はニンマリ笑う。
さすが、アニエス様! 鋭いわ!
「もちろん! こちらはアニエス様のお好きな……」
「ひぃぃ、や、やっぱりーーーー!」
まだまだお茶会は始まったばかりなのに、アニエス様は最初からとっても元気だった。
383
お気に入りに追加
7,204
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています
ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新婚早々、愛人紹介って何事ですか?
ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。
家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。
「結婚を続ける価値、どこにもないわ」
一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。
はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。
けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。
笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる