王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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95. 悪人を退治していた妹

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❈❈❈❈❈


(フルール!  その目……いったい何にワクワクしちゃっているんだよ……!)

 目を輝かせているフルールを見て俺はもうずっとハラハラしている。
 更には何か言いたそうにじっと俺の顔を見て、目が合うとニコッと無邪気に笑うフルール。
 ──可愛い、可愛いのだが!
 経験上、こういう時のフルールがどこに走っていくのか一番、分からないんだ。

「再起不能になった人たちっていったい何があってそうなってしまったの?」

 俺の腕の中でオリアンヌが訪ねてくる。
 可愛いな……
 このまま部屋から連れ出してしまいたい。
 だが、今はまだ駄目だと必死に自分に言い聞かせる。

「うーん……やっぱり気になるか?」
「とっても気になるわ」

 まあ、いつだって行動が予測不能のフルールだからな。気になるのは当然だろう。
 俺はチラッとフルールを見る。
 フルールはやる気満々の目で侯爵と向き合っている。

(そうだな。今なら話しても大丈夫……か)

 俺はオリアンヌにほんの一例だけ説明することにした。

「まだ、フルールが社交界デビューする前、社交界デビュー前の令息令嬢も参加出来るどこかの家が開催したパーティーに俺とフルールが参加していた時だった」
「……」
「俺が少し席を外している間に、フルールは令息に話しかけられていた」
「え?  それってもしかして……!」

 そこにロマンスの香りを感じたのか、オリアンヌの目が輝いた。

「俺には、その令息が頬を赤らめて必死にフルールに誘いをかけながら、自分をアピールしているように見えていた」
「口説いでいたというわけね?  一目惚れかしら?  必死ね……」

 一見、微笑ましいエピソードだが、実際は違う。

「……しかし、フルールはどこまでいってもフルールだったんだ」
「え……?」

 今でもあの光景を思い出す。
 見事な鈍感力で誘いをかわしたぞ?  と思ったら、あの無邪気な笑顔で……

「フルールは何をどう思ったのか、自分は告白の練習台なのだと思い込んでいたんだ」
「え!?  練習台?」
「そうなんだ───そんな調子では乙女の心は全く掴めませんわよ?  心が入っていませんわ! などと言って、自分に言い寄って来ていた令息たちに徹底的に告白のダメ出しをしていた」
「ええ!?  なんでーー?」

 そう叫びたくなるのすごく分かる。
 俺も心の中でそう叫んでいた……

「その時のフルールは……あの今のようなワクワクした目をしていた」
「フ、フルール様……」
「で、そうやって、フルールは声をかけて来た令息たちを次から次へと撃沈させていったんだ」
  
 その様子を間近で見ていた俺は自分の目と耳を疑った。
 うちの妹は何をしているんだ、と。

「だが、フルールが本当に凄いのはそこじゃない」
「どういうことですか?」

 俺は過去を思い出し遠い目をする。

「……実はフルールに声をかけていた奴らは、世間知らずの若いデビュー前の令嬢をターゲットにして声をかけ、口説きながら気のある振りをして騙して遊ぶという卑劣なことを裏でしているような奴らだったんだ」
「なっ……」

 オリアンヌの顔色が変わる。
 本当にろくでもないことをしていた男たちだったからな。

「しかし、フルールに見事に惨敗した彼らは、そうとう自信を失ってしまったようで、令嬢の口説き方をどうすべきか分からなくなりパニックに陥った」
「ええ……?」
「そのパニックとなった姿が、あまりにも挙動不審過ぎて捕まるきっかけとなったわけだが……」
「……」

 オリアンヌが言葉を失っている。
 その気持ち……とてもよく分かる。
 嘘みたいだが本当にあったことなんだ……

「もし、あの時のフルールが誰かの誘いに乗っていたらと思うと今でもぞっとする」
「で、でも!  撃沈させたということは、フルール様はその人たちが怪しいと気付いてわざとそうしたのでは……?」
「……」

 俺は静かに首を振る。

「そう思うだろう?  だから俺もフルールに聞いたんだよ。そうしたら───」

 ───違います!  本当に女性の口説き方が下手だと思ったから、思うがままにアドバイスをしていただけですわ!
 ───途中から楽しくなってしまって悪戯心は少し湧いてしまいましたけど……

「キラキラした目でそう言っていた……」
「フルール様……無意識に悪人を退治しているわ」
「そうなんだ……」

 ちなみにその男たちは、捕まったあと罪を償ったが、今は令嬢に声をかけれなくなったとか。

「こんな話がまだまだごろんとしているのが……俺の妹、フルールなんだ」
「……」

(だから、やっぱりフルールは最強なんだよ……)



❈❈❈❈❈



 ───お兄様とオリアンヌお姉様が、そんな過去の話をしているなんて思ってもいない私は……

 お兄様とお姉様の幸せのためにも、侯爵には大人しくお帰りいただくわ!
 そして、二度と父親面なんてさせない。
 そう決めて侯爵を睨みつけていた。

 すると、侯爵も再び私に向かって怒鳴り出す。

「いいか?  なんと主張しようとも、オリアンヌはまだセルペット侯爵家の娘であることに変わりはないのだ!」
「……」
「よって、結婚も父親である私の許可がなくては出来ん!  私は私の決めた縁談以外の相手では絶対に許可しないからな!」

 どうだとばかりに偉そうに主張する侯爵。
 その主張を聞きながら私は小さくため息を吐いた。

(最近はこうして怒鳴っている人にばかり出会っている気がするわ)

 私は皆の血圧が心配でしょうがない。
 中でもこれまでの一番は──……
 などと考えていたら侯爵は愉快そうに笑い出した。

「ははは!  それみたことか。小娘は反論なんて出来やしないじゃないか!」
「……」
「次期、公爵夫人になるのだからと調子に乗っているようだが所詮はただの小娘!  大人しくしているがいい!」

(元気だわ)

 この侯爵もこれまでの人たちの例に漏れずに元気いっぱいなので、先ほどからずっと抱いていた疑問を聞いてみることにした。

「……どうしてオリアンヌ様の相手として他の方が相手ではダメなのです?」
「なに?」
「───老い先短そうなどこぞの侯爵様はよくて他の人がダメな理由はなんですの?」
「な……」
「ああ、もしかしてお金かしら?  と、言うかお金ですわよね!?」
「くっ……黙れ!」

 侯爵は私を止めようとしたけれど、一度火がついた私の質問はその後もなかなか止まらなかった。

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