王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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88. 恋人期間を

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 波乱のパーティーから数日経った。


「もう、すっっごいのです!  王宮のどこに行ってもフルール様の話ばかりなんです!!」
「いや、オリアンヌ嬢、君もなかなか……」
「何を言っているんですか、アンベール様!  もうフルール様一色でしたでしょう?───言うならばもう、王宮内はフルール様祭り!」

 お姉様は今日、お兄様と一緒に王宮に行っていたそうで、大興奮して戻って来た。

(私の話ばかり……?  フルール祭り?)

 なぜ?  私は慰謝料を請求しただけよね?
 貧弱しなしな元王太子の廃嫡や国王陛下と王妃様に対しての追放をあんなにもかっこよく要求していたのはお姉様なのに?

 そして、さすがの私でも王宮に自分の名前を落書きをした覚えなんてないのにお祭りになっているなんて……どういうこと?

「フルール様。もう、私は義姉として鼻が高いです!」
「お、お姉様……!」

 お姉様のその一言で色々考えていたことが全部吹き飛んだ。
 だって私はこんなにも素敵なお姉様が出来たことの方が喜ばしいんだもの!

(お姉様……と呼ぶ勇気を出して良かったわ)

 だから、これだけは絶対に伝えておかなくちゃ!
 そう思った私は満面の笑みで告げる。

「お兄様のことももちろん大好きですけど、私はお姉様も大好きですわ!」
「きゃーーーー!  アンベール様!  可愛い、可愛いわ!  どうしましょう……フルール様がとっても可愛いわ!!」

 真っ赤になったオリアンヌお姉様が両手で自分の頬を押さえると、ますます興奮してはしゃぎだした。

「義妹!  こんなに可愛い子を私は義妹と呼べるの!?」
「オリアンヌ嬢……いや、オリアンヌ。君も落ち着こう!  俺にとってはそんな風にはしゃぐ君も……可愛い……けど、も」
「え……」

 お兄様の言葉に、はしゃいでいたお姉様の動きがピタッと止まる。

「ア、アンベール様……?」

 目を丸くしているお姉様にお兄様が優しく微笑む。

「俺のことはアンベールと呼んでくれと頼んだはずだよ?  オリアンヌ」
「……っ!  ア、アンベール……」
「うっっ!」

 そして、二人が頬を赤く染めてそのまま見つめ合う。
 私はそんな二人のやりとりをの光景を仲良しだわ、と微笑ましい気持ちで見ていた。

(まずは、名前を呼び合う所から始めたのね?)

 確かに前のままではよそよそしい所があったものね!  と、納得する。
 それにしても……
 あんなに美しくてかっこいいお姉様に可愛いと言われると嬉しくて頬が締まりなく緩んでしまう。

(──ぜひ、私も妹としてもっともっと仲良くなりたいわ!)

「お姉様!  私のこともフルールと呼んでくださいませ!」
「え?」

 お兄様と見つめ合っていたお姉様が驚きの顔でこっちに振り向いた。

「い、いいの?」
「もちろんです!  ──だって、これからは姉妹ですから!」

 私はどーんと胸を張ってそう二人に告げた。
 二人は顔を見合わせると、とっても嬉しそうな顔で笑った。


────


「と、いうわけで我が家はオリアンヌお姉様を迎えてとってもいい感じに上手くいっていますわ!」
「……フルール」

 今日は、貧弱しなしな元王太子のお世話係の任は解けたはずなのに、あれからぐんっと忙しなってしまったリシャール様の元を私が訪ねている。
 今、お互いの名前の呼び方を変えてさらに仲良くなったことを話したところ。

「お兄様とお姉様も大変、仲良しで手を繋いで毎日散歩していますわ!」
「それは良かった。ところで、お義姉様……だよね?」
「はい!  お姉様ですわ!  妹として可愛がってもらえてとっても嬉しいです」
「……」

 リシャール様はくくっと小さく笑うとそのまま腕を伸ばして私を抱きしめた。

「リシャール様?」
「───僕は恋人としてフルールのことをいつだって可愛いと思っているよ?」
「!」

 ボンッと私の顔が赤くなる。
 私は照れながらも笑顔でお礼を伝えた。

「あ、あ、ありがとうございます……!」
「……っっ!」

 感極まった様子のリシャール様にさらにギューッと強く抱きしめられる。
 すると、リシャールはそこで大きなため息を吐く。

「はぁ……殿下から離れられた!  と思ったのに逆にこんなに忙しくなるとは」
「リシャール様……」
「フルールを早く手元に向かえたくて、頑張れば頑張るほど結婚が遠ざかっていくのは何故なんだろう……?」

 私は、抱きしめ返しながらリシャール様の背中を擦る。

「大丈夫ですわ!  リシャール様がどんなに忙しくてもこれからも変わらず私がどんどん会いに行きますから」

 だって走る許可はもらったもの!

「フルール……!」
「それにこれは、結婚までの恋人期間をたくさん楽しみなさいってことですわ!」
「え?」

 私は、リシャール様の両頬に手を添えるとじっと彼の目を見つめる。

「これから先、私たちが夫婦として歩む時間はたくさんありますけど、恋人でいられる期間は今だけです」
「フルール?」
「今は、恋人期間を思いっきり楽しみましょう?」
「……フルール」

 にっこり笑顔でそう伝えると、リシャール様もコクリと頷いてくれた。
 そして美しい顔が近付いて来たので目を瞑る。

 優しくて甘いキスが降って来たので、そこからしばらくは“恋人の時間”となった。




 しばらく甘い時間を過ごした後は、気になる現在の王宮事情について訊ねてみることに。
 リシャール様は私を腕の中に囲ったままポツポツと話してくれた。

「───それで、この国の王族の行く末はどうなりそうなのですか?」
「うん……」

 リシャール様がこうも忙しくなったのはもちろんこのゴタゴタが理由だ。

「とりあえず、ヴァンサン殿下の廃嫡はすんなり決定」
「すんなり……」
「本人を除いて反対意見は全くなし。見事な満場一致だったよ」

 それを聞いて私は苦笑する。
 やっぱり“真実の愛”がいけなかったのね……

「この後はシルヴェーヌ王女殿下と同じ道を辿ることになるね。とりあえず廃嫡は決定でその先は処分待ち」
「……」

 王女殿下もそうだけど、現在の国王陛下が退位することになったら、二人揃って厳しい立場におかれることになりそう……

「───心労がたたってますます貧弱さに磨きがかかっていそうですわね」
「んー貧弱というより、今はげっそりかな?  改めて慰謝料請求書を見て顔を青くしていたし」
「では、貧弱しなしな王太子改め、げっそり王子にしますわ!」

 リシャール様が小さく吹き出した。

「真実の愛のお相手───エリーズ嬢はどうなるんですの?  強制帰国?」
「うん。二度とこの国には来ないっていう制限付きになるみたいだけど」

 ちなみに、エリーズ嬢に対してお姉様は慰謝料の支払いは求めないらしい。
 その理由を訊ねると、とても美しい笑顔を浮かべて……
 ───あんな形で国を出て来たのに、送り返されるというのはそれだけで結構な屈辱とダメージ……ふふ。帰国後は針のむしろ……
 なんて言っていた。

(あの時の素敵な笑顔、ゾクゾクしたわ。お姉様っ!)

「色仕掛けで誘惑された教育係たちもそれぞれ、クビ……まぁ、当然、夫婦関係も破綻。修復出来るはずがないよね」
「なるほど……やはり涙使いは魔性の女でしたわね」

 ちなみに、教育係だった彼らの情報入手はリシャール様がやったこと。
 アニエス様たちから手に入れたエリーズ嬢の性格などを聞いたあと、教育係が誘惑されるはずと予想した私は、予め教育係たちの情報を持っていた方がいいと思うと話したら即動いていたので、惚れ惚れしてしまったわ!

「それで、肝心の国王陛下は?」

 私が訊ねるとリシャール様がうーんと渋い顔になる。

「反対派もいるにはいるけれど、世論が圧倒的に退位派ばかりだからね。王宮内も退位に向かって動いている」
「そうなると、次は誰が玉座に座るんですの?」

 私は脳内で繰り広げた血みどろの椅子取りゲームを思い出した。
 今の王家の人たちはあまりにも貧弱で踏み潰されていたけれど、本当にその通りになったわね…… 

「うん、まあ順当にいって王弟殿下という声が圧倒的なんだけど」
「……何か問題あるような方でしたっけ?」
「いや……そうじゃないんだけど」

 そこでリシャール様は一旦黙ってしまう。
 言い淀むということは何かあるということだ。
 私はドキドキしながら次の言葉を待った。

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