王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
上 下
88 / 354

88. 恋人期間を

しおりを挟む


 波乱のパーティーから数日経った。


「もう、すっっごいのです!  王宮のどこに行ってもフルール様の話ばかりなんです!!」
「いや、オリアンヌ嬢、君もなかなか……」
「何を言っているんですか、アンベール様!  もうフルール様一色でしたでしょう?───言うならばもう、王宮内はフルール様祭り!」

 お姉様は今日、お兄様と一緒に王宮に行っていたそうで、大興奮して戻って来た。

(私の話ばかり……?  フルール祭り?)

 なぜ?  私は慰謝料を請求しただけよね?
 貧弱しなしな元王太子の廃嫡や国王陛下と王妃様に対しての追放をあんなにもかっこよく要求していたのはお姉様なのに?

 そして、さすがの私でも王宮に自分の名前を落書きをした覚えなんてないのにお祭りになっているなんて……どういうこと?

「フルール様。もう、私は義姉として鼻が高いです!」
「お、お姉様……!」

 お姉様のその一言で色々考えていたことが全部吹き飛んだ。
 だって私はこんなにも素敵なお姉様が出来たことの方が喜ばしいんだもの!

(お姉様……と呼ぶ勇気を出して良かったわ)

 だから、これだけは絶対に伝えておかなくちゃ!
 そう思った私は満面の笑みで告げる。

「お兄様のことももちろん大好きですけど、私はお姉様も大好きですわ!」
「きゃーーーー!  アンベール様!  可愛い、可愛いわ!  どうしましょう……フルール様がとっても可愛いわ!!」

 真っ赤になったオリアンヌお姉様が両手で自分の頬を押さえると、ますます興奮してはしゃぎだした。

「義妹!  こんなに可愛い子を私は義妹と呼べるの!?」
「オリアンヌ嬢……いや、オリアンヌ。君も落ち着こう!  俺にとってはそんな風にはしゃぐ君も……可愛い……けど、も」
「え……」

 お兄様の言葉に、はしゃいでいたお姉様の動きがピタッと止まる。

「ア、アンベール様……?」

 目を丸くしているお姉様にお兄様が優しく微笑む。

「俺のことはアンベールと呼んでくれと頼んだはずだよ?  オリアンヌ」
「……っ!  ア、アンベール……」
「うっっ!」

 そして、二人が頬を赤く染めてそのまま見つめ合う。
 私はそんな二人のやりとりをの光景を仲良しだわ、と微笑ましい気持ちで見ていた。

(まずは、名前を呼び合う所から始めたのね?)

 確かに前のままではよそよそしい所があったものね!  と、納得する。
 それにしても……
 あんなに美しくてかっこいいお姉様に可愛いと言われると嬉しくて頬が締まりなく緩んでしまう。

(──ぜひ、私も妹としてもっともっと仲良くなりたいわ!)

「お姉様!  私のこともフルールと呼んでくださいませ!」
「え?」

 お兄様と見つめ合っていたお姉様が驚きの顔でこっちに振り向いた。

「い、いいの?」
「もちろんです!  ──だって、これからは姉妹ですから!」

 私はどーんと胸を張ってそう二人に告げた。
 二人は顔を見合わせると、とっても嬉しそうな顔で笑った。


────


「と、いうわけで我が家はオリアンヌお姉様を迎えてとってもいい感じに上手くいっていますわ!」
「……フルール」

 今日は、貧弱しなしな元王太子のお世話係の任は解けたはずなのに、あれからぐんっと忙しなってしまったリシャール様の元を私が訪ねている。
 今、お互いの名前の呼び方を変えてさらに仲良くなったことを話したところ。

「お兄様とお姉様も大変、仲良しで手を繋いで毎日散歩していますわ!」
「それは良かった。ところで、お義姉様……だよね?」
「はい!  お姉様ですわ!  妹として可愛がってもらえてとっても嬉しいです」
「……」

 リシャール様はくくっと小さく笑うとそのまま腕を伸ばして私を抱きしめた。

「リシャール様?」
「───僕は恋人としてフルールのことをいつだって可愛いと思っているよ?」
「!」

 ボンッと私の顔が赤くなる。
 私は照れながらも笑顔でお礼を伝えた。

「あ、あ、ありがとうございます……!」
「……っっ!」

 感極まった様子のリシャール様にさらにギューッと強く抱きしめられる。
 すると、リシャールはそこで大きなため息を吐く。

「はぁ……殿下から離れられた!  と思ったのに逆にこんなに忙しくなるとは」
「リシャール様……」
「フルールを早く手元に向かえたくて、頑張れば頑張るほど結婚が遠ざかっていくのは何故なんだろう……?」

 私は、抱きしめ返しながらリシャール様の背中を擦る。

「大丈夫ですわ!  リシャール様がどんなに忙しくてもこれからも変わらず私がどんどん会いに行きますから」

 だって走る許可はもらったもの!

「フルール……!」
「それにこれは、結婚までの恋人期間をたくさん楽しみなさいってことですわ!」
「え?」

 私は、リシャール様の両頬に手を添えるとじっと彼の目を見つめる。

「これから先、私たちが夫婦として歩む時間はたくさんありますけど、恋人でいられる期間は今だけです」
「フルール?」
「今は、恋人期間を思いっきり楽しみましょう?」
「……フルール」

 にっこり笑顔でそう伝えると、リシャール様もコクリと頷いてくれた。
 そして美しい顔が近付いて来たので目を瞑る。

 優しくて甘いキスが降って来たので、そこからしばらくは“恋人の時間”となった。




 しばらく甘い時間を過ごした後は、気になる現在の王宮事情について訊ねてみることに。
 リシャール様は私を腕の中に囲ったままポツポツと話してくれた。

「───それで、この国の王族の行く末はどうなりそうなのですか?」
「うん……」

 リシャール様がこうも忙しくなったのはもちろんこのゴタゴタが理由だ。

「とりあえず、ヴァンサン殿下の廃嫡はすんなり決定」
「すんなり……」
「本人を除いて反対意見は全くなし。見事な満場一致だったよ」

 それを聞いて私は苦笑する。
 やっぱり“真実の愛”がいけなかったのね……

「この後はシルヴェーヌ王女殿下と同じ道を辿ることになるね。とりあえず廃嫡は決定でその先は処分待ち」
「……」

 王女殿下もそうだけど、現在の国王陛下が退位することになったら、二人揃って厳しい立場におかれることになりそう……

「───心労がたたってますます貧弱さに磨きがかかっていそうですわね」
「んー貧弱というより、今はげっそりかな?  改めて慰謝料請求書を見て顔を青くしていたし」
「では、貧弱しなしな王太子改め、げっそり王子にしますわ!」

 リシャール様が小さく吹き出した。

「真実の愛のお相手───エリーズ嬢はどうなるんですの?  強制帰国?」
「うん。二度とこの国には来ないっていう制限付きになるみたいだけど」

 ちなみに、エリーズ嬢に対してお姉様は慰謝料の支払いは求めないらしい。
 その理由を訊ねると、とても美しい笑顔を浮かべて……
 ───あんな形で国を出て来たのに、送り返されるというのはそれだけで結構な屈辱とダメージ……ふふ。帰国後は針のむしろ……
 なんて言っていた。

(あの時の素敵な笑顔、ゾクゾクしたわ。お姉様っ!)

「色仕掛けで誘惑された教育係たちもそれぞれ、クビ……まぁ、当然、夫婦関係も破綻。修復出来るはずがないよね」
「なるほど……やはり涙使いは魔性の女でしたわね」

 ちなみに、教育係だった彼らの情報入手はリシャール様がやったこと。
 アニエス様たちから手に入れたエリーズ嬢の性格などを聞いたあと、教育係が誘惑されるはずと予想した私は、予め教育係たちの情報を持っていた方がいいと思うと話したら即動いていたので、惚れ惚れしてしまったわ!

「それで、肝心の国王陛下は?」

 私が訊ねるとリシャール様がうーんと渋い顔になる。

「反対派もいるにはいるけれど、世論が圧倒的に退位派ばかりだからね。王宮内も退位に向かって動いている」
「そうなると、次は誰が玉座に座るんですの?」

 私は脳内で繰り広げた血みどろの椅子取りゲームを思い出した。
 今の王家の人たちはあまりにも貧弱で踏み潰されていたけれど、本当にその通りになったわね…… 

「うん、まあ順当にいって王弟殿下という声が圧倒的なんだけど」
「……何か問題あるような方でしたっけ?」
「いや……そうじゃないんだけど」

 そこでリシャール様は一旦黙ってしまう。
 言い淀むということは何かあるということだ。
 私はドキドキしながら次の言葉を待った。

しおりを挟む
感想 1,470

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

処理中です...