王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
上 下
81 / 354

81. どんなに考えても

しおりを挟む


「な、なんなんですか!  そのバカにしたような笑いは!」

 オリアンヌ様の笑い方が気に入らなかったらしいエリーズ嬢が怒り出す。
 それでもオリアンヌ様は余裕の姿勢を崩さない。

「それで?  私は悪役令嬢?」
「そうです!  向こうの国でもいつもあたしのことを馬鹿にして冷たく当たって嫌がらせもして来て……そんな醜い嫉妬ばかりしているから婚約破棄されちゃったんですよ!」
「嫉妬?」

 オリアンヌ様は目をパチパチさせると果て?  と首を傾げた。

「向こうのパーティーでも言われた覚えがあるけれど……私、あなたに嫉妬した記憶が無いのですが?」
「なっ!  嘘を言わないでください!  ヴァンサン殿下があたしと仲良くなったことが気に入らなかったんですよね?」

 エリーズ嬢がそんなはずはないと焦り出す。
 貧弱王太子ももちろん黙ってはいない。

「そうだ、オリアンヌ!  君は私がエリーズと話していると、いつもそばで顔をしかめていたじゃないか!」
「え?  あれは……」
  
 オリアンヌ様がそこで悲しそうに目を伏せる。

「オリアンヌ。正直に言うんだ。私は分かっている。君は面白くなかったんだろう?」
「……正直に言う?  本当に正直な私の気持ちを口にして構わないのですか?」
「───ああ」

 貧弱王太子は大きく頷いた。

(……すごく得意そうな顔をしているわ)

 まるで、オリアンヌは私に惚れているからな!  そう言いたそうな顔。
 違いますよ?  と思って顔をしかめていたら、リシャール様がコソッと訊ねて来た。

「フルール?  眉間のしわが凄いよ?」
「あ、すみません。殿下があまりにも得意そうな顔をしているのであの鼻っ柱を折ってしまいたくなって……」

 リシャール様がギョッとする。
 頼むから今は突撃しないでくれ……そんな顔をしていたので、さすがにしません、とだけ答えてそのまま先を見守る。

(メラメラしてはいるけれど邪魔はしないわ!)


「そうですね……面白くはなかったです」 
「そうか!」
「ほら!」

 目を伏せながら答えたオリアンヌ様の言葉に、貧弱王太子とエリーズ嬢は嬉しそうに顔を見合わせる。

「……会話が」
「は?」
「え?」
「───この二人、つっっまらない会話をしているわ、と常々思って呆れておりました」

 オリアンヌ様の言葉に嬉しそうに笑っていた二人が固まる。
 会場内も、え?  っという空気になった。
 オリアンヌ様はそんな空気を気にせず続ける。

「毎日毎日、飽きもせずに……今日もエリーズは可愛いね、いえ、殿下も素敵です……という中身のない会話ばかりで、呆れた私に出来ることは心を無にすることだけ……」
「そ、そんなことはない!  もっと別の会話もしていたぞ……た、ぶん……?」

 貧弱王太子があれ?  と首を傾げる。

「そうですね……強いて言うなら、可愛いが別の日は可憐だね!  に変わることでしょうか?」
「ぬっ!?  いや、そんなことはない!」
「では、他にはどんな会話を?」
「……」

 オリアンヌ様に冷たく言われて貧弱王太子は慌てて否定しようとするけれど、反論が浮かばないらしい。
 唸りながら頭を抱え込む。

「お分かりいただけましたか?  あの頃、私が抱いていたのは嫉妬ではなく、呆れです」
「嫉妬……じゃなかった?」

 おそるおそる顔を上げた貧弱王太子の声が震えている。

「はい。だって嫉妬する理由が見つからないのです」
「見つから……ない?  そんなはず……」

 オリアンヌ様は貧弱王太子を見つめるとはっきり言った。

「───だって、私はヴァンサン殿下のことをお慕いしていたわけでもなく……ましてや、王妃になりたかったわけでもありませんから」
「は?」
「私にとって殿下との婚約は、親に無理やり言いつけられたお役目、お仕事……そのような感覚でした」
「え?」
「ですから、どんなに考えても考えても考えても考えても考えても!  ……エリーズ様に嫉妬する理由が見つかりません」

 貧弱王太子が口を開けたまま固まった。
 また、その向こうでセルペット侯爵がスッと視線を逸らす。

「な~~~~っ!  なら、破かれて捨てられていたあたしの教科書は?  制服は?  笑い者にしたのは!?  あれがオリアンヌ様の嫉妬でなかったらなんであんなことをしたのですか!」
「……」
「オリアンヌ様、なんでそこで黙るんですか!  言えないということは何か疚しいことがあっての───」
「いいえ、そうではなくて。本当に今、この場で説明しても構わなくて?」

 エリーズ嬢は興奮しているので当然です、と言い切った。

「……では、言わせていただきます。破かれて捨てられていたという教科書……あれを行ったのはエリーズ様自身ですよね?」
「……え?」
「自作自演───ある方々が協力して下さいまして……調べさせていただきました」
「調べ……え?」

 サーっとエリーズ嬢の顔色が変わる。

「な、なんのことですか!  あたしが自分でそんなことをする理由なんてどこにも……」
「それがありました!  あなたにはあったのです。虐めなどではなく!  あの時、教科書を使えないようにしなくてはならない理由が……!」
「うっ……」

 オリアンヌ様に睨まれて更に顔色を悪くするエリーズ嬢。
 会場はどういうこと?  と騒がしくなる。

「当時、学園の授業に中々ついていけていなかったエリーズ様は、授業中はいつも教科書に落書きをして遊んでいて上の空だったようですね?」
「なっ!  酷いわ。そんな嘘!」

 嘘!  と言いながらも激しく動揺しているエリーズ嬢。
 なんて分かりやすい。

「調べたと言ったでしょう?  これはあなたの隣の席の方の証言です」
「隣!?」
「そうです───いつも真面目に授業を受けていて真剣に書き込みをしているのだと思って感心していた。しかし、ある日よく見たらそれは単なる落書きだった……と」
「──!!」
「衝撃すぎて忘れられないそうです。ちなみに、教師の似顔絵はとても上手だったとか」
「なっ!」

 これには会場のあちこちからクスクス笑いが起きる。

「別に教科書に落書きをしていたからと言って困るのはエリーズ様だけ。しかし、ここである問題が起きました」
「……」
「今、そこで石像のように固まっているヴァンサン殿下と仲良くなったあなたは、殿下に誘われて放課後にテスト勉強をすることになりました」
「……」
「平民出身で苦労していると聞いた殿下があなたに頼られたい一心で設けた時間です。あなたも喜んでその話に乗りました……が!  あなたの教科書は問題だらけでした。そして、追い詰められたあなたは……」

 ここまで来れば最後まで言わなくても分かる。
 落書きだらけの教科書を殿下に見られたくなかった───
 自分でビリビリに破いて捨てたあと、殿下には虐められているフリをした。

「ちなみに制服はエリーズ様、あなたが自身の不注意で破いたそうですよ?」
「え……」
「制服のスカートが誰かに破かれている!  と大騒ぎしておりましたが、これも目撃者がおりました」
「……え」
「ある日、寝坊して遅刻寸前だったあなたは馬車から降りると全速力で走り出して、その際にスカートを───」
「ひっ!  もももももももういいですっ!」

 エリーズ嬢は真っ赤な顔をして止めに入る。

「あ、あたしの勘違いだったんですね!?  や、やだぁ……あはは」
「……それから、授業で笑い者になった件は」
「やーーっぱり、説明はいらないです!  ええ、それもあたしの勘違い! 勘違いですっ!」
「エ、エリーズ……」

 石化の解けた貧弱王太子が動揺した表情でエリーズ嬢を見ている。
 エリーズ嬢は慌てて弁解を始めた。

「殿下!  えっと……ご、誤解!  そう、あたし色々と誤解していたみたいです!  オリアンヌ様はむ、無関係だった……みたい……で」
「……」

 二人の間に変な空気が流れ始めた。
 後半の二つは勘違いや誤解で済んでも、教科書に関しては自作自演だということは消えない。

 そんな空気の中でオリアンヌ様がフフッと笑う。

「───くっ!  なんだ、オリアンヌ!  何がおかしい!」
「え?  いいえ、改めてエリーズ様は凄いなと思いまして」
「凄い……?」

 怪訝そうにする殿下にオリアンヌ様は言った。

「ええ、だってそこまでするほど、勉強がお嫌いだったエリーズ様が、お妃教育の試験には合格されたと聞いたものですから」

 ───オリアンヌ様はクスクス笑いながら核心に迫ろうとしていた。

しおりを挟む
感想 1,470

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

処理中です...