王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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74. あたたかく見守ります

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─────


 アニエス様からたっぷり情報を入手した私は大変満足して屋敷に帰宅する。

(やっぱり持つべきものは仲良しの友人ですわね!)

 さすが頻繁にお茶会を開き、パーティーにも積極的に参加している令嬢は情報量が違うわ。
 けれど、私もこれからはもっと積極的にいかないといけないわよね?

「まあ、その辺はリシャール様のお考えもあると思うからじっくり相談して……」

 今はそれよりも、お兄様とオリアンヌ様に報告をしないと……そう思ってオリアンヌ様の部屋に向かおうとしたらバタバタと慌ててこっちに人がやって来る音がした。

「───フルール!」
「リシャール様!  来ていらしたの?」

 つい先程、頭の中で思い浮かべていた大好きな人の声にパッと顔を上げた。
 私は笑顔でリシャール様に駆け寄る。

「フルール……」

 リシャール様は私の頬を撫でながら、全身をくまなくチェックしている。

(髪とかドレスとか少し乱れてしまったかしら?)

「どうしました?」
「うん、訪ねてきたら……さ。フルールがまた……あの伯爵令嬢の所に行ったと聞いて……」
「アニエス様ですわね!」

 私は笑顔で答える。

「う、うん。その令嬢……」
「?」

 リシャール様もお兄様と同じ渋い顔をする。
 二人共、何度言い聞かせてもこの顔をするのよね。

「元気に帰って来てくれて何よりだ」
「当然ですわ?  アニエス様の屋敷はそんなに遠く離れていませんもの」
「フルール……」

 リシャール様はなぜか苦笑した。

「コホンッ…………えーと、で、話は聞けたの?」
「はい!  色々と聞けたのでちょうどお兄様たちに報告をしようかと!」
「そうか!  …………あ、でも今は……」

 どこか、ホッとした様子のリシャール様がそう言いかけて目線を外に向けた。

「今は?」
「アンベール殿とオリアンヌ嬢は外で庭を散歩中なんだ」
「散歩!」

 よく、お肉について二人で語り合っていることは知っていた。
 これまた随分と仲良しになったわね、と微笑ましく思う。

「それなら、私も一緒に散歩に加わってついでに報告を──」
「……フルール!  待った!」
「待った?」

 なぜか、リシャール様に肩をガシッと掴まれて止められた。

「どうしましたの?」
「フルール」
「リシャ……」

 名前を呼ばれたと思ったら、熱っぽい目で見つめられたので胸がドキッとした。
 そして、そのままチュッと軽くキスをされる。

「……リシャール、さま?」

 リシャール様はそのまま額や頬にもキスを落としながら言う。

「……フルール、覚えている?」
「っ!  な、何をです?」

(その美しい顔で熱っぽく見つめてくるのは……もう!)

 チョロールな私は耐え切れない。
 どんどん顔が赤くなっていく。

「前に言っただろう?  シャンボン伯爵家はお嬢様の幸せな時間は邪魔しない!  と結束して僕らが二人っきりでいる時は邪魔をしないようにその場から即座に離れると決めている、と」
「え、ええ……」

(だから今、周りには誰もいないわ)

「───今、それと同じようなことがアンベール殿とオリアンヌ嬢の所でも結束されようとしているんだ」
「え……?  同じような……こと?」

 リシャール様はコクリと頷く。

「僕らの場合は二人の時間を邪魔をしない!  だけど、アンベール殿とオリアンヌ嬢の場合は、あたたかく見守ろう!  という所らしいよ」
「あたたかく見守る……」 
「言うなれば、今は種が撒かれて芽が出た所らしいよ」

 その言葉にハッとする。
 かつて腰をやられるほど畑づくりと庭づくりに励んだ身なので、今が“大事な時”だということがよく分かった。

「二人はこれからムクムクと成長するのですね?」
「そういうことだ」

 リシャール様が優しく微笑みながら私を抱き寄せる。
 私はリシャール様の胸の中で考え込んだ。

「確かに日光は大事。だからお散歩!  なるほど……やっぱり栄養はお肉……?  なら水は───」
「フルール」

 ブツブツと独り言を呟きながら考え込む私をリシャール様は楽しそうに見守ってくれていた。


─────


「……殿下の帰国を祝うパーティーの開催が正式に決定した」

 散歩を終えて戻って来たお兄様とオリアンヌ様を出迎えて、私がアニエス様から得た情報について報告した後はリシャール様が口を開いた。

「殿下はそこで、真実の愛の令嬢を婚約者として正式に紹介したいと考えている」
「無理ですわね」
「無理だろう」
「無理ですね」
「……ぐっ」

 私、お兄様、オリアンヌ様の順で仲良く首を横に振る。
 リシャール様はその光景を見て手を口で押さえると小さく吹き出した。

「コホッ……激しく同意しかないのだが……続ける」

 リシャール様は軽く咳払いをした後、話を続けた。

「なので、殿下はパーティーまでにはエリーズ嬢は必ず結果を出すと言っているんだ」
「無理ですわね」
「無理だろう」
「無理ですね」
「…………ぐっ」

 先程と同じ光景にリシャール様が、耐えきれずに再び吹き出した。

「と、りあえず、パーティーまでは見守る……という結論で今は上も落ち着いた……そうだ」

 笑いを堪えながら頑張ったリシャール様に私は訊ねる。

「それで、男爵令嬢が結果を出せなかった場合は───何派が勝ちますの?」

 パーティーまではあと一ヶ月弱しかない。
 そんな期間で一気にどうにかなるほど甘くないことは貧弱王太子以外は分かっている。
 つまり、上の方針はほぼ決まっているはず。

 私にじっと見つめられたリシャール様は、真面目な顔つきに戻ると、はぁ……とため息を吐いた。

「フルールが最も許せないと思う案だよ」
「!」

 ───婚約破棄を撤回してオリアンヌ様をお飾りの妃にして、ご令嬢は妾として囲えばいい派!

 オリアンヌ様が「えっ」と小さく声を上げて、心の底から嫌そうな顔をした。

「オリアンヌ嬢……!」
「……アンベール様」

 震えるオリアンヌ様の手をお兄様がそっと取り、手を握り宥めている。

「王太子殿下の婚約破棄は撤回させる───その通達は内密にセルペット侯爵家にもそろそろ届くはずだ」
「侯爵家が大慌ての様子が目に浮かびますわね」

 私がそう言うとオリアンヌ様が小さく吹き出した。

「あの人たちは、私への食事を一日一食にしたことを後悔しているかしら?」
「いや、普通は後悔するなら軟禁したことの方じゃないかな……」

 オリアンヌ様の言葉にお兄様が苦笑いしている。

「オリアンヌ嬢の捜索は秘密裏に行うつもりだろう。気をつけてくれ」

 リシャール様がそう言うとオリアンヌ様は静かに微笑んだ。

「あの人たちは私のことを何一つ知ろうとはしていなかった。いざ、探そうにも交友関係すら分からず四苦八苦するでしょうね」

 その言葉は、オリアンヌ様の捜索をしようにも我が家にたどり着く可能性はかなり低いことを指していた。
 お兄様は悲しそうな顔でオリアンヌ様のことを見つめていた。



「……それじゃ、フルール。僕は王宮に戻るよ」
「はい」

 報告を終えたリシャール様を見送るため、一緒に部屋を出て玄関に向かう。

「あ、そうですわ。リシャール様」
「うん?」
「男爵令嬢の妃教育やテストに関してなのですけど───」

 私は背伸びをしてリシャール様の耳元でコソッと囁く。
 話を聞き終えたリシャール様はギョッとした目で私を見た。

「え、フルール?  何で?  それはどういう……?  だってさっきは……」
「───いつもの勘ですわ」
「!」

 リシャール様の顔がキュッと引き締まる。

「フルールはそうなる可能性が高いと?」
「ええ。アニエス様から頂いた情報通りの彼女なら……きっと」
「……もし、その通りになったら?」

 私はリシャール様に向けてニンマリと笑う。

「婚約破棄してまで選んだ───“真実の愛”というものが再び試されるだけですわ」
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