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61. 新たな戦い?
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予想はしていた。
(……まぁ、こうなるわよね)
今、私の大好きな人は大勢の人に囲まれている。
こうなることは、もちろん最初から予想出来たことだった。
王女殿下の誕生日パーティーで突然、婚約破棄されて悪役令息などと呼ばれて追放されたリシャール様が戻って来たんだもの。
それも、自分を追放した父親を追い出しての見事な返り咲き。
加えてあの美貌!!
ともなれば、注目を集めないはずがない。
「───フルール、珍しく面白い顔をしているな」
「お兄様?」
リシャール様に熱い視線を送り続ける私の横にお兄様がやって来る。
(面白い顔……?)
どんな顔かしらと思いながら、自分の顔をペタペタ触っていたらお兄様が私に飲み物を差し出した。
「これでも飲んで少しは落ち着け」
「ありがとうございます」
手を伸ばして飲み物を受け取ると私はグビッと一気に飲み干した。
「……フルール!?」
ギョッとしたお兄様が慌てて周りをキョロキョロ見渡す。
「フルール、ここは家ではないんだぞ? 誰が見ているか分からないのに、淑女の仮面はどうしたんだ?」
「それが……何度被っても、リシャール様を見ているとベリベリ剥がれてしまうのです……」
私がそう言うとお兄様はじっと私の顔を見つめる。
そして静かに笑った。
「お兄様……?」
「なるほど。フルールはリシャール様がモテモテ過ぎて面白くないのか」
「え!」
驚いた私とお兄様との目が合う。
お兄様は少しぶっきらぼうに私の頭を撫でた。
「リシャール様、フルールとの仲を公表する前にあっという間に人に囲まれてしまって説明どころじゃなくなっているからな」
「……」
「それでも、人に揉まれながらもチラチラチラチラ……一生懸命フルールを見ているぞ?」
「知っていますわ」
私のことを放ってそのまま人脈作りに励んでも構わないのに、リシャール様は懸命に私の所に戻って来ようとしているのが見て取れる。
(そういうところ……好きですわ)
どこまでも律儀なリシャール様に心ときめかせていると、お兄様は言う。
「正直、フルールには嫉妬なんて感情は無縁だと思っていたよ」
「え? 嫉妬……?」
「でも、違ったんだな。フルールのそんな顔が見られるなんてな。リシャール様の存在はフルールにとってそれだけ特別ってことなんだとよく分かったよ」
「特別……」
私は、お兄様の言葉を繰り返し呟きながら考える。
(嫉妬ってあれよね?)
ジメ男がリシャール様と仲良くする私に対して抱いていたあの気持ち……
なるほど、ジメ男はこんな気持ちを私に……
それであんなにジメッとして……
「なるほど。私──今とっても新鮮な気持ちですわ、お兄様」
「え? 新鮮?」
私はチラッとリシャール様を見る。
リシャール様の周りには綺麗に着飾った令嬢たちが群がっていた。
黄色い声をあげながら、未来の公爵夫人の座を狙っていると思われる令嬢たち。
(負けない!)
「もちろん、リシャール様に限って他の方にうつつを抜かすなんてことが起こるとは欠片も思えませんけど」
「まぁ、そうだろうな」
お兄様はうんうんと頷く。
「ですが、この場合は私があの群がっている令嬢たちの中で誰よりも凄い……つまり、一番の令嬢になればいい! ということですわね?」
「ん?」
「……これは燃えますわね。王女殿下から喧嘩を売られた時以来ですわ……!」
私の中の闘志にメラメラと火がつく。
「えっと、メラ…………いや、フ、フルール……?」
私の闘志にあてられたお兄様がオロオロし始める。
「……今日はダンスパーティー。つまり……この会場内全ての老若男女を魅了するほどのダンスを私に見事に披露しろということですわね?」
「は? フルール……頼むから早まるな? な?」
「ふっふっふ! やはり、燃えますわ!」
(見ていて、リシャール様!)
私がそんな熱い視線をリシャール様に向けた時だった。
「───まあ、先程からの熱いその視線! もしかしてフルール様もリシャール様を狙っているんですか?」
その声に私は振り向く。
振り向いた先にいたのはアニエス様だった。
「アニエス様……!」
「ベルトラン様に捨てられているのに不気味なくらいニコニコしていたフルール様もやはりただの面食いでしたのね?」
アニエス様はホホホと高笑いしながらやって来る。
「面食い……?」
「斬新なダンスしか踊れないフルール様がダンスパーティーに参加するなんて……と不思議に思いましたけど、狙いは突然返り咲いた新モンタニエ公爵……リシャール様だったなんて!」
私を見てクスッとアニエス様は笑った。
「フルール様? あなた、よーく鏡をご覧になられた方がよろしいのではありません?」
「え? 鏡?」
なぜ突然、鏡の話が出てきたの? と不思議に思ったけれどすぐに私は理解した。
(こ、これは!)
──髪型が少し乱れていますわよ? 鏡を見て直してきたらどう?
そういう助言なのね!?
なんてこと、危なかったわ。
お兄様はやはり男性だからそういうことには疎い所がありますから。
やはり、持つべきものは仲良しの令嬢ですわ!
私は心からアニエス様の存在に感謝した。
「ありがとうございます! アニエス様」
「……は?」
私が満面の笑みでお礼を告げるとアニエス様が変な声を上げた。
(さすが照れ屋さん……お礼を言われて照れてしまったのね?)
「フルール様!? あなた、分かっているんですか!? わたしが言いたいのは───」
「いいんです、いいんです! 最後まで口にされなくても! 私は分かっていますから」
「え? だから……ね、え、ちょっ……」
照れ屋さんのアニエス様は凄くうろたえていた。
「───ですから! わたしが言いたいのは、フルール様では、あのお美しいリシャール様と釣りあ……」
「アニエス様!」
私は勢いよくグイッとアニエス様に迫る。
「───やはり、アニエス様もそう思います!?」
「は? な、なに……を?」
「そんなのもちろん! リシャール様が誰よりも美しいことについてですわ!!」
「え? は? 何の話……」
私は興奮していた。
だって、アニエス様もリシャール様のことを美しいと言っている。
これは、リシャール様の国宝級の美しさについてもこれからはたくさん語り合えるかもしれない!
お父様もお母様もお兄様も、普段からあまりリシャール様の美貌について特に触れてくれないんだもの。
私だけがそう見えているのかもと、また考えちゃったわ。
やっぱりリシャール様の美しさは国宝よね!
「アニエス様、ありがとうございます! また皆でお茶をしましょうね! その時は国宝について語りましょう!」
「え……こ、国宝!? 語る? 何の話……やっぱり怖い……」
「では!」
私は浮かれた気分でアニエス様に手を振った。
「──フルール、お前……」
「どうしました? お兄様」
「なんでもない。フルールはそのまま自分が思う道を進んでくれ」
「?」
なぜお兄様が少し呆れた声を出していたのかは不明だったけれど、私はどんっと大きく胸を張った。
「当然ですわ!」
さて、そろそろダンスの時間になるのかしらと思い、やる気に満ち溢れた私が腕まくりをした時、会場の入口がザワッと騒がしくなる。
(何の騒ぎかしら? 誰か来た……?)
そう思って視線を向けると───
「あ!」
思わず声を上げてしまう。
最後に会った時よりかなりげっそりはしているけれど……
「お兄様、あれはベルトラン様ですわ」
「なに?」
私の言葉につられてお兄様も入口に視線を向ける。
そして、ああ……と口にした。
「どうやら、本当に花嫁探しに現れたのですね?」
「そのようだな」
私たちは顔を見合せて頷き合った。
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