王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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60. 一緒に生きていくということ

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 それから、チュッ、チュッと甘いキスを何度も繰り返していると、リシャール様はふと何かを思い出したかのように口を開いた。

「……そういえば、文通ごっこって言ってたけどあれって何の話?」
「んっ……あ、お兄様とのですか?」
「うん、それ。何だか楽しそう……」

 リシャール様はちょっと拗ねた顔になると、ギュッと強く私を抱きしめた。
 ヤキモチを妬いてくれているのだと分かって口元が緩んでしまう。

「ふふ、あれは字を覚えたばかりの私が、名前を書くのが楽しくて楽しくて仕方なくて邸中に落書きを始めてしまいまして」
「……え!  邸中?」
「そうです。邸中の至る所に“フルール”と書きまくりましたの」
「えー……?」

 リシャール様がその様子を想像したのか苦笑いをしている。

「結果、我が家はフルール祭りとなりました……」
「……グフッ」

 リシャール様が盛大に吹き出した。

「フ、フルール祭り……」

 そんなに面白かったのか、リシャール様は私から離れるとうずくまりながら笑い出す。
 身体がすごく震えている。

(そ、そんなに笑う!?  もう!)

 私は心を落ち着かせてから続きを語る。

「それで、まぁ、当然ですけどお父様とお母様には怒られまして」
「だろうな……」
「そして怒られて落ち込む私にお兄様が、そんなに文字を書きたいならフルールが僕に手紙を書いたらどう?  と、提案してくれたのです」
「すごいな、アンベール殿は……」

 私がその時のことを思い出してふふっと笑ったら、リシャール様が優しく微笑み返してくれた。
 そうやって微笑んでくれることがたまらなく嬉しい。

「リシャール様は拗ねた顔こそしますけど、それでも話は聞いてくれるのですね」
「ん?  どうして?」
「いえ……実はベルトラン様の前でも私はお兄様大好き!  を隠さずにいたのですけど」

 そこまで言うとリシャール様は何かを察したようで、顔をしかめて、あー……と唸った。

「それ、ベルトランは不機嫌になったんじゃないか?」
「そうなのです。目を釣りあげて不快だ!  聞きたくない!  などと言うものですから、その時の私はこれでもかってくらいお兄様自慢をして差し上げました」
「フルール……強いな」

 リシャール様の呟きに私はコホンッと咳払いをする。

「ベルトラン様はひとりっ子でしたから兄妹関係が羨ましかったのだろうとはいえ……少々、私も大人気なかったかな、と今では思いますけれど」 

 私がそう言うとリシャール様は目をパチパチと瞬かせた。

「……兄妹が羨ましかった?  …………なるほど。フルールはそう解釈するのか」
「リシャール様?  何か言いまして?」

 リシャール様はククッと笑ったので聞き返すと、なんでもないよと笑った。

「そうだね。僕は、アンベール殿がフルールを大事にしたくなる気持ちが凄く分かるから」
「リシャール様……」
「でも、兄妹二人だけの思い出というのは純粋に羨ましいと思うし、子供の頃のフルールを見たかったな、とは思うよ」
「……」

 私はギュッとリシャール様に自分から抱きつく。

「どうしたの?  フルール」
「……実は私も子供の頃のリシャール様に会ってみたかった……と思っていましたわ」
「え?」

 驚いた顔をするリシャール様に私はふふんと得意気な顔をする。

「子供のリシャール様に、こっそりバレずに勉強をサボって遊ぶ方法を伝授して差し上げたかったですわ」
「フルール……」

 リシャール様がどこか泣きそうな顔で笑う。

「ふふ、ですけど、これからだって使えるかしら?」
「どうして?」
「この先、仕事に煮詰まった時とか……ほら、息抜きは必要でしょう?  そんな時、二人でこっそり少しだけサボるのも楽しいかもしれませんよ?」
「……!」

 だってこれから先、リシャール様にはとっても大変な毎日が待っている。
 だから、私は昔の癖で頑張りすぎてしまうかもしれないリシャール様の息抜きの場所になりたい。
 一緒に生きていくってそういうことでしょう?
  
 リシャール様は強く私を抱きしめ返す。
 そして、私の耳元でそっと囁いた。

「───早く、フルールと一緒になりたいな」
「……私もです」

 照れながら答える私の頭の中は、子守唄の披露と……そしてあのゾクゾクするお願いを聞いてもらわなくちゃ!
 なんて楽しみでいっぱいだった。


────


 それから一週間ほど経った頃。

「パーティーですか?」
「ああ。今度、王家主催でダンスパーティーが開催されるそうだ」

 その日、仕事で王宮に行っていたお父様が帰ってくるなりそう言った。

「それはまた……突然ですわね?」
「本当にな」
「ですけど、確か──王女殿下は今、謹慎されているのですよね?」
「そうだ。リシャール殿を人を使って襲わせた罪が明らかになったからな」

 あれからジメ男(本名忘れた)がきちんと自首したことで、王女殿下と共謀してリシャール様を襲わせていたことが発覚。
 問い詰められた王女殿下は観念して全てを白状したらしい。
 さすがに王家としても王女殿下をこれ以上庇うことは出来なくなり……

(おかげ様で、がっぽり慰謝料を手に入れたわ!)

 これ以上の悪い噂が広がるのを警戒したのか、要求していた慰謝料は即座に払われた。
 結果、これにより王女殿下の王位継承権が剥奪されたという所までは聞いた。
 今は、王女殿下自身の処分をどうするかで揉めているらしい。

 そんな状態なのだから、正直パーティーどころではないと思う。
 ───これは、何かある?

「まぁ、様々な思惑があるのだろうな。リシャール殿も表舞台に返り咲いたことだしな」

 お父様はため息と共に言う。
 思惑と言えば……私はふと思った。

「……ベルトラン様はパーティーが開催されたら参加するのかしら?」
「フルール?  なぜ、あんな奴を気にする?」

 我が家に慰謝料を支払ったことにより、瀕死寸前に陥ったらしいモリエール伯爵家。
 あれからベルトラン様はパッタリ姿を見せない。

「いえ、首の皮が一枚繋がった状態のモリエール伯爵家を立て直すためにはお金が必要でしょう?  つまり、ベルトラン様は……」
「なるほど。金を持っている令嬢と結婚するしか再起の道は無い……だから、花嫁探しにやって来るかもしれない、ということか」
「そういうことです」

 正直、王女殿下と真実の愛ごっこをしていた人に新しい相手が見つかる気はしないけれど。
 特に今、モリエール伯爵家の評判は最悪。
 更に、ベルトラン様と王女殿下の件があったので、今、真実の愛という言葉を口に出すと社交界では失笑されるらしい。

(皆の目が覚めて良かったわ!)

「まぁ、慰謝料の件は片付いたから、我が家とはもう無関係の話だ」
「そうですね!」

 ベルトラン様がこの先、令嬢に振られまくっても私にはもう関係ない。
 そして、パーティーの裏にどんな思惑があるにせよ、今、私が気にすべきはダンスよ!
 そう。ついにやって来たわ。
 これまでのお兄様との特訓の成果を見せる時!!

(イメージトレーニングはいつだって完璧よ!)

 今度のパーティーで、上達したダンスで皆をうっとり見惚れさせてみせるわ!

(リシャール様も驚いてくれるかしら?)

「───お父様。ダンスパーティー……私、とっても楽しみですわ!!」
「お、おう……」

 私が気合いたっぷりの笑顔でそう言ったらお父様は苦笑いしていた。

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