51 / 354
51. 残すは公爵家!
しおりを挟む(えーー?)
「フルール!」
お兄様は必死の形相で私の両肩をガシッと掴んで軽く揺さぶる。
「お、お兄様!?」
「アンベール殿?」
そんなお兄様の様子にリシャール様もポカンとしている。
早まるな、とはどういうこと?
お兄様はクッと悔しそうな顔をしながら私に言う。
「何でフルールは毎度毎度、そうやって自ら大出血しに行くんだ!」
「大出血? そ、そう言われましても……」
(圧……圧がすごいわ、お兄様……!)
「いいか? フルール……そのお願いはまだフルールには早い!」
「ま、まだ早い? そ、それなら、い、いつならいいいいんです?」
揺さぶられているから? 上手く喋れない。
「……いつ、か。そうだな……」
考え込んだお兄様はチラッとリシャール様の顔を見た。
リシャール様は何の話か分からず首を傾げている。
「───結婚するまではダメだ!」
「結婚!?」
「そうだ! 結婚してからなら……きっと大丈夫、だろう。多分」
「ええ……?」
きっと、とか多分とか。
本当に大丈夫?
私は考え込む。
でも、お兄様がここまでいうんですもの。仕方がないわね。
お兄様はきちんと私のことを考えて言ってくれているのだから。
納得した私は笑顔で頷いた。
「分かりましたわ! お兄様。結婚までお願いは我慢します!」
「フルール……」
「大丈夫ですわ。リシャール様との結婚が楽しみになるだけですから!」
私がそう口にすると、リシャール様が頬を赤く染めていく。
「リシャール様? 顔が……」
「わ、分かっている! しかし、け、結婚……フルールとの結婚を想像したら……」
「……」
そうして顔をどんどん真っ赤にして照れるリシャール様が可愛くて胸がキュンとした。
かっこよかったり可愛かったり。
私の大好きな人はいつも色んな面を見せてくれる人。
(そうだわ!)
そこで私はハッと思い出した。
せっかくだから、リシャール様がいつか元気になったら披露するつもりでいたのに延び延びになっていた“子守唄”も結婚してから披露しようかしら?
(リシャール様、どんな顔をするかしら? 楽しみ!)
私はもう一度リシャール様の顔を見る。
すると私たちの目が合ったのでニコッと微笑んだら、リシャール様は照れながらも優しく微笑み返してくれた。
(早く、その日が来ますように!)
心からそう願った。
しかし、そのためには諸々の問題を片付けなくてはいけない。
「それで、リシャール様は公爵家にはいつ殴り込みに行かれるつもりなのですか?」
「え? 殴、リ込み……」
「フルール!?」
馬車に乗り込んだあと、私は気になっていたことを訊ねた。
お兄様がギョッとした顔で私を見てくる。
「シナシナになった王女殿下から情報を引き出せたとはいえ、今日のことでリシャール様が無事に生きていて、そして我が家にいることは知られてしまいましたわ」
「ああ……うん。そうだね」
リシャール様も頷く。
リシャール様に散々脅された王女殿下は、私への慰謝料の支払いに頷いただけでなく、最後は観念してリシャール様の弟と共謀して、あの追放劇のあとにリシャール様を売る気だったと白状した。
(男好きなマダムにリシャール様を売ろうとするだなんて何を考えているの!)
リシャール様の美貌は国宝なのよ?
そのマダムが噂だけでリシャール様を気に入っていたなら、実物に会えばもっともっと気に入られちゃうじゃない!!
(阻止出来て良かったわ……)
それに、あの時の暴行で、万が一生命でも落としていたら───
自分たちがパーティーから帰ろうとしていなかったらと思うとゾッとする。
(許せないわ! もう!)
なので、当然王女殿下には慰謝料だけでなく、それ相応の処罰を受けるように訴えていく。
そのためにも公爵家は片付けないと!
「殿下から情報も手に入れましたし。なので、リシャール様はてっきり即殴り込みに行くつもりなのでは? と思いましたが」
「フルール! 言いたいことは分かるが、さすがに殴り込みなんて言い方はないだろう! 淑女はどうしたんだ!」
「淑女……」
お兄様に淑女の仮面が剥がれていると指摘されてしまった。
(確かに! 淑女は殴り込みなんて言葉は使わないわね?)
確かに最近は気が緩んで淑女の仮面が剥がれまくっていた自覚はあるわ。
私は軽く咳払いをして背筋を正す。
そして淑女スマイルでリシャール様に訊ねる。
「では、リシャール様。あなたのお父上だった方と弟さんの息の根を止めるのは、いつ頃を予定しており───」
「──フルール!! 何でそうなるんだーー! もっと酷いことになっているじゃないか!」
「……あ!」
言い直したのに結局、怒られてしまった。
淑女になるのは難しい。
「……くくッ」
リシャール様はお腹を抱えて笑いながら言った。
「本当にフルールは……極端だな……ははっ!」
「──ほ、他に適格な言葉が思い浮かばなかったのです」
「いや、いいよ。フルールらしくて僕は好きだ」
「え?」
私が聞き返すとリシャール様は甘く微笑む。
「……大好きだ」
「リシャール……様」
ここでそういう言葉をサラッと言えるリシャール様は…………ずるい人だと思う。
私はそっと赤くなった自分の頬を両手で押さえた。
「何で殴り込みとか息の根を止めるとか物騒なことを言っていたのに、急に甘々な雰囲気になるんだよ……」
私の隣でお兄様はそう嘆いていた。
「……それで、いつにするかなんだけど」
リシャール様が語り出す。
「アンベール殿を通じて公爵家を辞めた使用人の何人かと連絡を取っていたんだけど、弟だけでなく、公爵もかなり憔悴しているらしいんだ」
「そんなにですか?」
リシャール様は少し寂しそうに笑う。
「あの人にとって公爵家は誇りのようなものだから、世間に冷たい目で見られることに耐えられなかったんだろう」
「……」
「だから、もういいかなと判断した。明日には公爵家に向かおうと思う」
「!」
私はゴクリと唾を飲む。
「……リシャール様、私も行きたいです」
「え?」
「絶対に邪魔はしません! お兄様に護衛もしてもらいます! ですから……」
何でもう俺が護衛役に決まっているんだよーー!!
と、お兄様が喚いているけれど、聞かなかったことにしてリシャール様に頼み込む。
「フルール、でも、どうして?」
戸惑うリシャール様に向かって私は胸を張って言う。
「それは、もちろん……! リシャール様をぞんざいに扱った公爵家の皆さんにお説教する為ですわ!!」
547
お気に入りに追加
7,185
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】「王太子だった俺がドキドキする理由」
まほりろ
恋愛
眉目秀麗で文武両道の王太子は美しい平民の少女と恋に落ち、身分の差を乗り越えて結婚し幸せに暮らしました…………では終わらない物語。
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。
ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。
そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。
しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。
恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜
百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。
※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる