王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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46. 王女殿下と最強令嬢 ②

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 返す……ベルトラン様を返品なんて冗談じゃないわ!
 そんな思いから出た私の咄嗟の言葉のせいで王女殿下が目を丸くしている。

「え? あ、あんなもの……?」
「ええ。もう一度言わせていただきます。あんなもの要りません、ですわ」

 大事なことなので二回言わせてもらったわ!

「……は?  な、何で?  貴女はベルトランに未練タラタラ……」
「私が彼に未練タラタラ?  何の話でしょうか?  私は最初からベルトラン様に未練など全くありませんけれど?」
「最初から無い!?」

 バーンと物凄い音を立てて王女殿下が椅子から立ち上がる。
 そんな王女殿下の顔が、どういうこと!?   と、今にも叫び出しそうな顔で私のことを見ていた。

「バカなこと言わないで頂戴?  だって……貴女はわたくしに、婚約破棄したベルトランが言い寄って来ていると自慢の手紙を送り付けて来たではないの!」
「自慢?  いいえ、あれはただの報告ですわ」

 報告?  と王女殿下が首を傾げる。

「私は“真実の愛”で結ばれたお二人なら、何があってもお互いを信じて乗り越えていける……そう信じて報告したまでです!」
「……うっ」
「……」

 王女殿下の口からベルトラン様を返品したいなどと出た時点でお察しね。
 やっぱり、二人の真実の愛はもう壊れている。
 そんな中のどさくさで、手のひら返しをしてリシャール様を取り戻そうとするなんて絶対に許さないわ!

(これは何がなんでも断固阻止しなくちゃ!)

 ベルトラン様のことなんて煮るなり焼くなり好きにして構わないけれど、リシャール様は絶対に絶対に駄目。
 これから私と幸せになるんだから!
 そんな気合いを入れ直していたら、王女殿下が私に向かって指をさしながら叫ぶ。

「そんな!  ……それなら、貴女にとってベルトランは一体なんだと言うの!」
「お金です!」
「………………は?」

 間髪入れずに答えたら、王女殿下の美しくて綺麗な顔が盛大に歪んだ。

「お、おかね?」

(んん?  この反応……これは大変!  きちんと伝わっていない気がするわ)

 裁判でもベルトラン様に宣言したのに殿下には伝わっていないのかしらね。
 そう思った私は丁寧に説明することにした。

「えっと、ですからベルトラン様は私にとってお金…………マネー、ですわ?」

 分かりやすいようにしようと思って言い換えてみた。

「マ……あ、貴女!  わたくしをバカにしているの!?  わざわざ言い直す必要がどこにあるの!!」
「え?  あら?」

 王女殿下は顔を真っ赤にして怒鳴ると困惑した様子で椅子に座り直す。
 そして自分の頭を両手で抱えた。

「お金?  お金って……だってベルトランは貴女の……」
「お金です!」
「……そうではなく!  三年間、婚約していた……」
「お金です!」
「愛しい……」
「お金です!」
「……」

 私が三回ほど、笑顔でお金です!  を繰り返した所で、ガクッと項垂れた王女殿下が雄叫びを上げる。

「お金お金って!  もっと何か他にないの!?  ベルトランの価値!  三年間も婚約していたのでしょう!?  何かあるわよね!?」
「いいえ、ありませんわ!!」
「は?」

 恐ろしい顔で睨んでくる王女殿下に向かって私は小さくため息を吐く。

「ベルトラン様が真実の愛の相手なのだと信じていた王女殿下にとっては、まあ、それなりに?  何らかの価値はあったのかもしれませんが……」
「が?」
「今、私にとって彼の価値はお金としてのみ、ですわ!」
「!!」
「それ以上でもそれ以下でもありません!」

(慰謝料の支払いが終わればお金としての価値すらもなくなるけれど)

 そう思いながら胸を張って堂々と宣言する。
 王女殿下は相当な衝撃を受けたのか、私を凝視したまま口をパクパクさせている。

「あ、貴女……それを正気で言っているの?」
「え?  もちろんですけど……?」

 私が真っ直ぐな目で殿下を見つめると、殿下は少したじろいだ。

「そういうわけですので、もはやお金としてくらいでしか価値のないベルトラン様を返すと言われても困るのです」
「なっ……!」
「申し訳ございませんが、返品は不可とさせていただきますわ」

 それに何より私にはもうリシャール様というベルトラン様とは比べるまでもないくらい素敵な人がいる。
 きっと今も扉の外でお兄様とソワソワしながら見守ってくれているはずよ。

「ふざけないで!  た……たかが伯爵令嬢の小娘のくせに!  わたくしからのプレゼントが受け取れないと言うの?」
「はい。要らないものは要らないですから」
「~~っ!」

 ガシャーン!

「小娘のくせにわたくしに逆らおうだなんて生意気よ!!」
「あ!」

 苛立ったらしい王女殿下は、椅子を蹴って立ち上がるとテーブルの上に乗っていたお茶の入っていたポットやカップ、果てはお菓子まで手で思いっ切り払ってしまう。
 床に落下したポットやカップが派手な音を立てて割れていく。

(ああ……なんてことを!)

 そんな中、私の意識はたった一つに向いていた。
 それは目の前で激昂する王女殿下でもなく、無惨にも割れていくカップやお皿でもなく……

(お菓子、お菓子が……!)

 せっかくの美味しそうな高級品のお菓子も宙を……宙を舞って落ちていく……!!
 なんということなの!
  
(まだ、まだ一口も食べていなかったのにーーーー!)

「あら?  やっとその表情を崩したようね?  ホホホ」
「……(お菓子)」
「これで、よーーく、分かったでしょう?」
「……(勿体ない)」
「このわたくしに逆らおうとするとどうなるのか!」
「……(食べたかった)」

 王女殿下は高笑いしながら私に言う。

「これに懲りたら、金輪際わたくしには一切逆らわないことね!  もう諦めなさい!」
「諦め……?  ……そう、ですね……」
「あら?  やっと素直になったのね?  うふふ、良かったわ」

(ええ。これは仕方がない……もう諦めるしかないわ)

 ───お菓子。

 そうよ!
 それならベルトラン様かもしくは王女殿下からの慰謝料がガッポリ入った時に、そのお金でたくさん買っちゃえばいいわよね!

(そもそも、好きでもない王女殿下と一緒にお菓子を食べて美味しいかしらって話よ)

 よくよく考えたら、大好きな皆でワイワイしながら食べた方が絶対に美味しくて楽しいもの!
 こんな所で落ち込む必要なんて全然無かったわ!!

(……と、なると今の私に必要なものは──)

「どうやら分かってもらえたようで嬉しいわ」
「……そうですね、私、分かりました!」
「あら、うふふ」

 私が顔を上げて笑顔で答えると王女殿下も笑顔で頷きながら、私の元へとコツコツ靴音を鳴らしながら近付いてくる。

「では、大人しくベルトランを受け取ると言いなさ……」
「───やっぱりお金ですわ!!」
「……は?  ───きゃっ!?」
「え、殿下!?」

 ドシンッ!

 私が大声を出したので驚いてしまったのか、王女殿下は自分自身がぶち撒けたせいで濡れていた床で足を滑らせ、その場に思いっ切り尻もちをついた。

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