王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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29. 公爵家

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「──えっと?  お兄様は何を言っていますの?  私はお誘いを受けたから参加しただけですよ?」
「……ち、違うのか!?  感心したのに……」

 お兄様がガクッと項垂れた。

「あ、ですけど、何かお話が聞けたらないいな、とは思っていましたわ?」
「~~~どっちなんだよ!!」

 今度はガバッと勢いよく顔を上げたお兄様に怒られてしまった。
 私はうーんと考える。

「どっちと言われても……困りますわ、お兄様」
「フルール……」
「なぜなら、私は美味しいお茶とお菓子を堪能したかったですし、仲良しのアニエス様にも会いたかったですし、令嬢の皆様の噂話も聞きたかったんですもの!」
「……つまり?」
「全部ですわ!!」

 私が胸を張って答えるとお兄様は再びガクッと項垂れた。

「そうだよな、これがフルールなんだよ…………くっ!  分かっていたはずなのに……」
「あの?  お兄様、先程からそんなに頭を上げたり下げたり……疲れませんか?」
「くぅ……」

 お兄様があまりにも忙しそうなので心配したら、何か言いたそうな目で見つめ返された。

「?」
「あー……とりあえず、ここは二人共落ち着こう。それで、フルール?  君が聞いた話は具体的にはどういうこと?」
「リシャール様」

 見かねたリシャール様が間に入ってくれてお兄様を宥めてくれる。
 そして詳しい話を訊ねられた。

「公爵が苦悩しているというのは、跡継ぎとなった弟さんへの不安からだそうです」
「不安……?」

 リシャール様の顔をしかめる。

「はい。リシャール様は、王配になる可能性はかなり低かったとしても、もしもの時の為にということで王家による王配教育をずっと受け続けていたのですよね?」
「ああ」

 リシャール様は苦々しい表情で頷く。 

「一方の弟さんは公爵家の人間ですが次男ですし、王族の婚約者でもありません……つまり、二人の受けてきた教育にはどうしても差があります」
「……!」

 リシャール様がハッとして黙り込む。
 そこには複雑な気持ちあることが窺えた。

「噂好きな皆様のお話によると、決して弟さん自身が不出来なわけではないそうですが……」
「なるほどな。基準がリシャール様になっていたから公爵も新しい嫡子へ求めるものが大きくなってしまっている、ということか」

 復活したお兄様の言葉に私は頷く。

「おかげで、実際のところ公爵家の内部はかなりゴタゴタしているようですわ」

 私がそう口にすると二人は黙り込んだ。

「ゴタゴタ……これは本当の話なのだろうか?」

 考え込んだ様子のリシャール様がポツリとそう口にした。
 単なる噂話であってほしい、そう思っているのだと思う。

「それはなんとも。ですが、令嬢の噂話というのは侮れませんからね」
「……」
「そして、本当か嘘かは別にしても、すでにそのような話が令嬢たちの間で広まっていることは事実ですわ」
「あ……」

 そう。
 つまり、遅かれ早かれこの話は社交界中に広まっていく。
 そうなった時、モンタニエ公爵家は、
 跡継ぎは大丈夫なのか?  リシャール様を追放したことは正しかったのか?
 きっとそんな目で見られることになる。

「───これは、リシャール様を追放した罰ですわね!」
「え?」
「モンタニエ公爵は自分があっさり捨てた息子がどれだけ優秀だったのかを、ようやく!  今頃になって思い知っているんですよ」
「フルール……?」
「ですから、リシャール様。私はとってもとっても怒っています!」

 リシャール様は、え?  という表情を私に向ける。

「これは、公爵がろくにリシャール様のことを見ていなかった証拠です。そのくせ、見栄を張ることだけは一人前……父親としても公爵としても失格です!!」
「フルール……」
「弟さんのこともそうですわ!  私は彼のことを全然知りませんけど、リシャール様とは別人なのだから、ちゃんとその人自身を見てあげるべきなのに!」

 王女殿下の用意した証拠資料がどんなに優れていたのだとしても、話を聞こうともせずにリシャール様をあんな風に見捨てた時点で許せないと思っていた。
 けれど、今回の話を聞いて私はますます許せない気持ちが強くなった。

「後から泣きついて来てもリシャール様は絶対に返しませんけどね!!   全ては今更……もう遅い、ですわよ!」

 私のそんな叫びにリシャール様とお兄様は呆気にとられていた。


─────


「フルール!」

 その夜、ノックの音に振り向くといつものようにリシャール様が私の部屋におやすみの挨拶にやって来てくれた。

「リシャール様!」

 私は笑顔で駆け寄ってギュッと抱きつく。
 そして、いつもはここで抱きしめ返してくれてキスをするのだけど……今日は少し様子が違った。

「フルール……あの、さ。今日は、部屋の中に入って少し話をしてもいい?」
「もちろんです!」

 私は笑顔でリシャール様を部屋に招き入れた。

「何か飲まれます?  と、言ってももうメイドは下がらせてしまったので、お茶くらいしか淹れられませんけど」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」

 リシャール様はそう言って笑った。
 その笑顔にドキッと胸が跳ねる。

(こうして想いを通わせても、この国宝級の笑顔に私は一生ときめく気がするわ……)

「え、えーと、立っているのもあれなので、とにかく、す、座りましょう、か!」
「──うん。あ、待って、フルール」
「え」

 そう言ってソファに向かおうとした所を、立ったまま後ろから抱きしめられた。
 この体勢で抱きしめられるのは初めてなので、いつもよりドキドキしてしまう。

「リ、リシャール様!?」
「……ありがとう、フルール」
「?」

 なぜ、お礼を言われたのかさっぱり分からないわ?

「僕はこれまで何度、君に……君の真っ直ぐな言葉に救われたか……そして今日も」

 これは、私が公爵家について怒ったことを言っている?

「え、えっと?  私はいつも思ったことを好き勝手に口にしているだけです」
「うん……それがいいんだ。フルールの持ち味はそこだから」

 腕にギュッと力が込められたので、更に私のドキドキが強くなる。

「そ、うですか……」
「あれ?  フルール、もしかして照れている?」
「!」

 なんでバレバレなの!  顔は見えていないはずなのに!

「そ、そういうことは思っても口に出すものではありませんわ…………多分」
「!」

 私がそう言うとリシャール様は、ははは、と笑った。

「フルール……」
「!」

 そして、甘い甘い声で私の名を呼ぶ。

「大好きだ……」

 その愛の囁きに胸がキュンキュンした。



「そういえば、リシャール様に聞きたかったのですけど」
「うん?」
「あのパーティーで、王女殿下が突き付けていたリシャール様がやったことにされている捏造の数々ですけど、範囲が広すぎませんか?」
「え?」

 公爵家の話が出て来たせっかくの機会なので、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。

「夜会でベルトラン様を虐めただのタキシードをボロボロにしただの……その辺の話は王女殿下とベルトラン様が企んで捏造した話かなとも思えるのですが」
「……」
「あの日、王女殿下が語っていたその他の“リシャール様のやらかした悪事”の話は二人だけで捏造するには無理があった気がするのです。それって───」

 私がそこまで口にすると、リシャール様が強く強く私を抱きしめた。

「───フルールの……なんだっけ、野生の勘?  って凄そうだよね」
「はい?」

 リシャール様はクスリと小さく笑う。

「…………僕もずっと考えていた。どう聞いてもあの話は僕のことに詳しすぎた」
「それって、つまり?」
「うん。僕の身内が協力していたはずだ」

 そう言われて、やっぱり!  と思った。

「リシャール様。その人って───」
「あの場で激怒していた父上は違うだろう。そうなると、ね。疑うのは嫌だけど、さっき話に出ていた弟……だと思う」
「弟……さん」

(そんなの悲しすぎる……)

「僕と弟は……残念ながら、決して昔から仲が良いとは言えないんだ」

 リシャール様は悲しそうな声でそう語った。

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