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28. 最強令嬢(?)のお茶会 ②
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用意されたお茶もお菓子も美味しい。
お茶会やパーティーはこれが楽しみで仕方がないのよね!
そんなことを思っていると、周囲からたくさんの視線を感じた。
(……騒ぎ過ぎてしまったかしら?)
「……はっ!」
いえ、きっとそれもあるけれど、アニエス様はさっき言っていたわ。
社交界でも有名な話で広まっていると。
つまり皆様方のこの目は……まだ食べるのか! という呆れた目!!
(でも、美味しいんだもの)
特に最近は……そう、リシャール様と気持ちを通わせてからは幸せで幸せで毎日がとっても楽しい!
だから、ご飯も前よりとっても美味しく感じる。
やっぱり、気の持ちようって大事よね!
なんて考えていた時だった。
「ど、どうして? どうして、フルール様はそんなに元気なんですか!」
少し涙目になっているアニエス様が私に向かって叫んだ。
「元気?」
「そうです! そんな呑気に……呑気に……くっ」
アニエス様は何をそんなに悔しがっているのかしら?
これは幸せになる秘訣を知りたいということ?
それならもちろん。前にリシャール様にも言ったこれよ!
「元気の秘訣は美味しいものをたくさん食べて、よく寝ることですわ!」
「は?」
「やっぱり、これに尽きると思うんです」
私が胸を張って答えるとアニエス様がポカンとする。
そして、少し経ってそうだけどそうじゃない! そんな表情になるとまた叫んだ。
「……っっ! ~~そういうことではなく! フルール様は婚約を破棄されたんですよね!? それなのにそんなにも元気……そのショックはないのですか!?」
「え? 婚約破棄のショックですか?」
「そうです!」
アニエス様は興奮していた。
ゼーゼー息を切らしていて私の目をじっと見つめている。
他の令嬢方もそんな私たちの話に興味津々のようで、お喋りをやめて私たちの話に聞き入っている。
「モリエール伯爵令息は、王女殿下と運命的に出会って真実の愛に目覚めてフルール様を捨てたのでしょう?」
「……」
「それなのに、なぜ! なぜ! そんな、のほほんとお菓子が美味しいなどと……!」
「アニエス様……」
なんとアニエス様は私が太っただけでなく、ベルトラン様との婚約破棄のことまで心配してくれていたらしい。
(ほらお兄様! アニエス様はこんなに私のことを心配してくれているじゃないの……やっぱり仲良しでしょう?)
心の中でお兄様にそう語りかけながら私は微笑む。
「今も! なんでそんなニコニコしているの……!」
「……」
照れ屋さんのアニエス様が、こんなにも私のことを心配してくれていたことが嬉しくて……
そう言いたいけれど、照れ屋さんで怒りだしそうよね……
「……嬉しくて幸せだからでしょうか」
「捨てられたのに!?」
アニエス様が頭を抱えて叫ぶ。
今日のアニエス様はこれまでで一番元気かもしれない。
「捨てられた? ……ああ、ベルトラン様のことですか? 彼のことはもう……」
「もう?」
「……」
さすがにこの場で、あんな虫けらのしたことに心など痛めていないので……とは言えないので一旦黙り込む。
視線を下に向けて無難な言い回しを考えていたら、アニエス様が少し弾んだ声で言う。
「……うふふ、なんだ。ちゃんとショックを受けていたのですね、フルール様」
「ショック……」
「わたしが聞いた所によると、モリエール伯爵令息は毎日毎日、せっせと王女殿下の元に通っているそうですよ」
「え?」
私が顔を上げるとアニエス様は笑みを浮かべていた。
「本当に愛している人の顔はいつでも見ていたいと言いますから。やはり運命の相手となると取る行動も変わってくるようですね?」
「本当に愛している人……」
そう言われて私の頭の中に浮かぶのはリシャール様の顔。
リシャール様は気持ちを通わせてから、毎晩毎晩必ず寝る前に私の部屋を訪ねて来てくれる。
そして、優しく抱きしめてくれておやすみなさいのキスをするのが日課となっていた。
なんて律儀なの……と思っていたけれど……
(少しでも長く私の顔を見ていたいからだ……と、リシャール様が言っていたのはこれ!)
リシャール様に本当に愛されているという実感が出来たら嬉しくなって思わず頬が緩んでしまう。
「は? な、なんでまたそこで微笑むの……!? な、なんなの……こ、怖い……」
「はい……?」
そんな私の顔を見たアニエス様は、先程までの笑みを消すと、また頭を抱えて今度は脅え始める。
(あら?)
他の令嬢たちの様子も見てみると、皆、アニエス様と似たような表情をしていた。
────
(楽しかったわ~)
お茶もお菓子も美味しかった。たくさんお腹に入れられてもう大満足!
アニエス様とも、より仲良しになれた気がするし……!
(それに……)
私はふふっと小さく笑った。
こうしてお茶会は終わり、馬車に乗り込んだ私はウキウキした気持ちで帰宅した。
「───ただいま戻りましたわ!」
「……フルール!」
「も、戻ったか!!」
私が笑顔で帰宅すると、リシャール様とお兄様が勢いよく玄関に駆け付けてきた。
そして二人は、私の全身をくまなくチェックすると、ふぅ……と息を吐いた。
「もう、二人は心配しすぎです! どこも怪我なんてしていません!」
「……だ、誰かの足を踏みつけるようなことには?」
「もちろん、なっていませんわよ」
私がそう答えるとリシャール様はホッと胸を撫で下ろす。
かなり心配してくれていたみたい。
「な、なら……フルール。お茶会はどうだったんだ?」
お兄様がおそるおそる訊ねてくる。
私はニコッと満面の笑みで答えた。
「とーーーーっても美味しかったです!!」
二人がどんなお茶会だったのかと根掘り葉掘り聞いてこようとするので、玄関で話すと長くなるため、お兄様の部屋へと移動した。
「と、いうわけでアニエス様は、私を心配してくれていたようです!」
私がそう説明するとリシャール様とお兄様は顔を見合わせる。
そして何故か頷き合っていた。
「心配いらなかったでしょう?」
「……うん。やっぱりフルールは最強だった」
リシャール様が苦笑しながらそう言った。
最強? と不思議に思いながら私はお茶会で見聞きしたことをリシャール様に伝えねばと思った。
「そうそう。お茶会の席で、リシャール様やモンタニエ公爵家の話題が少し出ましたの」
「え?」
リシャール様の表情がキュッと引き締まる。
「リシャール様はパーティーの日から行方不明らしい、と話されていたのでリシャール様が我が家にいることは全くバレていないようです」
「そうか……」
──生きているのかしらね。
──秘密裏に始末された……なんて、噂もあるそうよ?
──王女殿下に酷いことをしていたというし……
──えっと、悪役令息と呼ばれていたわね? あれは幻滅したわ。
(皆、真実の愛の話を鵜呑みにして好き勝手なことを言っていたわ!)
幻滅上等よ! リシャール様は、もう私の大事な人なのだから。
王女殿下にも返さないし、他の誰にも絶対に譲る気なんてない。
(リシャール様を幸せにするのは私よ!)
内心でそんな気合いを入れつつ、話を続ける。
「そして、モンタニエ公爵家ですが、リシャール様の弟さんを跡継ぎにすると正式に決めたようです」
「……そうか」
リシャール様の反応は薄い。
まぁ、これは想定の範囲内だものね。
「らしいな。それは俺も聞いたよ」
「お兄様もですか?」
「ああ。王家……王女殿下への慰謝料もしっかり払って、リシャール様を追放したことでケジメはつけたと言って、公爵家はお優しい殿下の温情により存続が許されて安泰だとか……」
お兄様も相槌を打つ。
王女殿下の前に付けたお優しいというフレーズに棘があった気がするけれど。
「───と、表向きはそうらしいのですが、ちょっと実際は複雑らしいですの」
「え?」
「本当か?」
二人が驚きの表情を向ける。
「何か問題があったか? 俺が聞いた話だと新たな嫡子はリシャール様に負けず劣らず優秀だと公爵は周囲に話しているというし……」
「そこですわ、お兄様!」
私はビシッと指をさす。
「そのモンタニエ公爵ですが、外ではそう振舞っているそうですが、実際のところは苦悩しているようです」
「え? あの人が苦悩?」
リシャール様が眉をひそめる。
追放されたとはいえ自分の育った家の話。
気になるのは当然よ。
「いや? そんな話は聞いていないぞ?」
お兄様が知らぬと首を振る。
「必死に隠しているそうですわ」
「隠している……」
「そして今は、まだ噂好きの令嬢たちの中で囁かれている段階の話のようです」
「……!」
「お兄様、令嬢たちの噂話好きと情報収集能力を甘くみてはいけませんわ?」
私は静かに微笑んだ。
「……フルール! お前まさか……今日のお茶会、意気揚々と参加したのは……」
お兄様がハッとした顔で私を見つめて来た。
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