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27. 最強令嬢(?)のお茶会
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フルールは元気いっぱいにパンスロン伯爵家と向かっていった。
この調子なら帰ってくる時も同じ顔をして戻って来そうだ。
だが……
「仲良し……か」
俺はため息と共にそう呟く。
「アンベール殿?」
リシャール様が心配そうに俺を見ている。
「あ、すみません。フルールのことが少し心配で……」
「……分かる。フルールは向こうの令嬢と仲良しだと言っていたが、本当のところは……」
俺は苦笑する。
話を聞いていただけのリシャール様にだって分かるのに……なんでフルールは! と言いたい。
フルールは鈍感なのか聡いのか……さっぱり分からん!
「パンスロン伯爵家の令嬢はフルールと同い年で同じ伯爵家ということもあってか、昔からフルールのことを敵視? ライバル視しているんです」
「あー……」
リシャール様が声をあげる。
昔から多くの令息たちからバチバチの目を向けられて来た、フルール曰く国宝級の美男子のリシャール様には経験があるのだろう。
過去を思い出したのか苦そうな顔をしている。
「まぁ、フルール自身は彼女と仲良しのつもりのようですが……」
俺の記憶が確かなら……彼女は昔からフルールに対しての当たりはキツかったが、特にキツくなったのは、フルールがベルトランと婚約してからだったと思う。
「彼女は、確か婚約者がいないと聞いているので、フルールに先に婚約をされたのが相当悔しかったのだと思います」
「ん? ということはアンベール殿。そうなると今日のお茶会というのは……」
俺はコクリと頷く。
「……十中八九、お茶会ではなく──ベルトランと婚約破棄したフルールを嘲笑う会だと思われます」
「…………!!」
リシャール様が口に手を当てて息を呑んだ。
「ア、アンベール殿……そ、それは」
「はい……なので俺は出来ればフルールが参加するのを止めたかった……!」
(なぜなら、これはフルールにとっては痛くも痒くもない婚約破棄!! 嘲笑う要素は皆無!)
おかげでいったいどんなお茶会になるのか全く想像がつかない……
リシャール様も同じことを思ったのか頷いてくれている。
さすが、未来の義弟は俺の気持ちを分かってくれているようだ。
なのに、肝心のフルールは……!
───どうして? せっかくお誘いをくれたのに。断るなんて出来ません!
そう言って、なんの躊躇いもなく参加しますと返事を書いて送り返していた。
(……フルール。いったい何をされるのか……いや、何をしてくるのか……)
「アンベール殿、もう僕たちは静かに待つしかない」
「……そうですね」
俺たちは顔を見合せて頷き合った。
❈❈❈
その頃。
リシャール様とお兄様がそんな会話をしていたなど知りもしない私は、パンスロン伯爵家に到着し挨拶をしていた。
「ようこそ、フルール様」
「本日はお招きありがとうございます」
出迎えてくれたパンスロン伯爵令嬢───アニエス様に向かって笑顔でお辞儀をする。
頭をあげるとアニエス様はにっこり笑ってくれた。
「──実はもう、皆、すでに集まっていまして……フルール様の到着を待っていたんです」
「え? そうなのですか? それは申し訳ございません!」
なんてこと!
ちゃんと時間通りに到着したけれど……まさか他の皆様がそんなに早いなんて!
きっと皆、今日のお茶会が楽しみで楽しみで仕方がなくて我慢出来なかったのね?
(せっかちさん達だわ!)
そんなことを考えていたら、アニエス様がじっと私の顔を見ていた。
「アニエス様? どうかしました?」
「……い、いいえ。何でも…………こちらです」
私と目が合ったアニエス様は恥ずかしそうに顔を逸らしてしまう。
(まただわ……)
彼女はいつもそう。
よくチラチラ私を見てくるのだけど、どうしましたか? と聞き返すとすぐに目を逸らしてしまう。
こんなことばかり続くので、さすがに本人に向かって口にはしないけれど、私はアニエス様のことは究極の照れ屋さんだと思っている。
そうして、アニエス様の後に続いて、皆さんお揃いだという部屋へと足を踏み入れた。
私が部屋に入ると一斉に視線を向けられる。
そして始まる令嬢たちによるヒソヒソ話。
(きっと───遅刻令嬢がようやく到着よ! ってところかしらね)
遅刻した覚えはないけれど、私の到着が最後なのは事実なので皆に向けて頭を下げる。
「大変、お待たせしました。フルール・シャンボンです。本日はよろしくお願いします」
なんだかねっとりした視線を向けられた気がしたけれど、挨拶を終えた私は自分の席に座る。
(それで、隣りの方は……と)
私は両隣に座った令嬢の顔を確認した。
顔には見覚えがある。確か、アニエス様とも仲良くて前にダンスのアドバイスをくれた令嬢だと思った。
(あら? そして向かい側はアニエス様なのね……?)
アニエス様はうふふ、と笑いながら優雅にお茶を飲んでいた。
そして私と目が合うとにっこり微笑んだ。
「実は、今日はフルール様の為にこのお茶会を開かせてもらったのです」
「…………え? 私の為にですか?」
私が聞き返すと、アニエス様ではなく両隣の令嬢たちが教えてくれた。
「アニエス様の言う通りですよ」
「フルール様の為に皆で集まりましょう! とアニエス様がわたしたちに声をかけてくれました」
私はまさかの事実に驚く。
「アニエス様、本当に私のために?」
アニエス様は神妙な面持ちで頷く。
「ええ、そうです……ほら、フルール様って、その……最近……」
「最近……?」
なんだか、アニエス様は躊躇っていて理由もすごく言いにくそうにしている。
(そんなに言い難いことが理由なの?)
最近と言われて思いつくことは───……?
まさか!
「アニエス様……ご存知でしたのね?」
「ええ。もう、社交界ではかなり有名な話ですから」
「……社交界で!?」
そんな、と私は驚く。
どうして広まってしまったの……恐ろしい!
「フルール様もお可哀想……まさか、こんなことになるなんて……気の毒です」
「そうですわね、私も自分でそう思っています」
「まぁ! それはさぞかし、お辛かったでしょう?」
「……はい」
私がテーブルの上にあるカップを手に持ちながら悲しげに頷くと、アニエス様はクスリと笑った。
(まさかの私の為のお茶会…………それなら、ここはやっぱり今後のためにも聞いておかないと……)
「……まさかの婚約破棄だなんて、とんでもない醜聞となられましたね?」
「あの! アニエス様は私が太ったこと……どこでお知りになられたのですか!?」
私とアニエス様が同時に声を上げる。
「……」
「……」
(大変よ、発言が見事に被ったわ!!)
お互いの発した言葉がよく聞こえず二人で首を傾げた。
(だけど今、婚約破棄って言わなかった? 気のせい?)
「は? え? ……ふ、太った……? な、なんの話……え?」
さっきまで優雅にお茶を飲んでいたアニエス様も急に慌て始めた。
「なんの話……とは? えっと、アニエス様は私が最近太ってしまったことをどこからかで知って慰めようと、本日このお茶会を企画して下さったのでしょう?」
「え? ちょっ……」
私はテーブルに視線を向ける。
テーブルの上にはお茶だけでなく、美味しいお菓子もたくさん並んでいる。
(実は早く食べたくてさっきからウズウズしているのよね……! 狙うはあそこのクッキーよ!!)
この話を終えたらたくさん食べようと思う。
だって……
「アニエス様、こんなにも美味しそうなお菓子までたくさん用意してくださって!」
「……あ、これは……ショックで食欲がないだろうフルール様に見せびらか……」
(やっぱり! 私のためだったのね!?)
「なるほど! これは、太ったなんて気にしなくて大丈夫! 美味しいお菓子を我慢する方がストレスが溜まり心身ともに良くないわ! という、アニエス様からのメッセージなのですね?」
「は? メッセー……え?」
アニエス様は図星をつかれたからか目を丸くして驚いている。
「ありがとうございます、アニエス様! 私も気にしないことにします!」
私はそう言って満面の笑みでお礼を伝えると、すぐに狙いを定めていたクッキーを手に取った。
「は? え、なに、何の話…………婚約破棄は……? えええ……?」
「あ、美味しい! アニエス様、このクッキーとっても美味しいですよ!」
私は笑顔でアニエス様にありがとうございます、とお礼を伝えた。
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