王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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25. 私の苦手なもの

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───

 それから数日。

 王女殿下への慰謝料請求は、さすがに相手が相手なので慎重にことを進めなくてはいけない。
 そんな請求の準備を進めていたところ、今日もお父様から手紙を渡された。

「そうだ……フルール。また、ベルトランから手紙が届いていたぞ」
「え?  またなの?」

 お父様のその言葉に私は眉をひそめる。

(これで何通目……?)



 王女殿下にも慰謝料請求すると宣言した日の翌日、ベルトラン様から先日の手紙に対する返事がようやく届いた。
 何を書いてあるのやらと思って開封してみれば……

 ───そんなことを言わないでくれ!
 どうしても会いたい!  会って話がしたい!

 まるで懇願するかのような内容の手紙だった。
 だからといって私の心が動くことなど当然無く……

 仕方がないので、もう一度だけ「無理です」「それより、さっさと慰謝料払って下さい」というような内容を書いた手紙を送った。
 しかし、その後。
 こちらはそれから一切返信していないのに何故かベルトラン様から手紙が届くようになった。
 そして、それは本日も……



(こ、これは……まさか!)

 私は手紙を手にしながらハッとした。
 そうよ、私ったら……どうして今日まで気が付かなかったの?
 ベルトラン様がこんなにも手紙を毎日のように送ってくる理由……

「ねえ、お父様……」
「なんだ?」
「私、思うのです。この連日のベルトラン様からの大量の手紙……」
「!」

 私が神妙な面持ちで声をかけたせいかのか、お父様も顔を引き締めた。

「ああ。フルールも分かったか……そうだ。おそらくベルトランはお前…………」
「ベルトラン様ったら、もしかして最初の手紙以外は宛先を王女殿下と間違えて送って来ているんじゃないかしら?」
「なんでだーーーー!  間違えようがないだろう!  殿下……向こうは王宮住まいだぞ!」
「あ……」

 お父様の言葉にそれもそうね、と納得する。
 さすがにそれはないわね。

 大声で怒鳴りすぎたのか、お父様はゼーハーゼーハー息を切らせながら私に聞いて来た。

「だ、だいたい、なぜ、それを宛先間違いだと思うんだ?  書かれているのはフルールに会いたい、とか、会って話がしたい……という内容なんだろう?」
「そうですけど…………だって」

 そこで言葉を切った私は届いたばかりのホヤホヤの手紙を開封する。

「書かれていることが、どんどん気持ち悪くなって来ているんですもの」

 そう言ってお父様に手紙を渡して見せると、中に目を通したお父様も顔を引き攣らせた。

「……会いたい、君に会えなくて悲しい、心にポッカリ穴が開いたような気分だ、僕の大切な君にどうしても話しておきたいことがある、返事を待っている…………なんだこれはっ!?」

 手紙を読み上げたお父様の手が震えている。
 分かるわ。
 私もこれを読むと寒気がしてゾクッと身体が震えるもの。

「不思議ね、お父様。婚約者だった頃のベルトラン様からは、こんなに情熱的な手紙を送られたことなどなかったのに。まさか婚約破棄してから貰うことになるなんて……」

 私が小さなため息と共に目を伏せると、お父様が私の頭を撫でようとしたのか手を伸ばす。

「フルール……あんな奴のためにそんなに落ち込む必要なんか無…………」
「───本当にあの頃に手紙を貰えなくて良かったと心から思いますわ!」
「……は?」

 私の頭を撫でる寸前で手をピタッと止めたお父様。
 目を丸くして私を見つめている。

「───ベルトラン様には失礼ですけど、こんなにも読んでいて背中が痒くなりそうな内容の手紙を当時、たくさん貰っていたら、色々と我慢出来なかったかもしれません」
「フルールよ……」

 だから、手紙のやり取りは少なくて正解だったのよ、と私は心からそう思った。
 そんな私をお父様はなにか言いたそうな目で見ていた。




 そんなベルトラン様からの手紙攻撃を受けていた中。
 我が家に届いた手紙の中に、珍しく私宛のお茶会の招待状が挟まっていたのは、お父様とそんな話をしたすぐあとのことだった。


「へぇ?  フルールにお茶会の招待状?」
「はい。パンスロン伯爵家の令嬢からお誘いされましたの」

 私はリシャール様とお兄様に笑顔で報告する。

「は?  パンスロン伯爵家って……フ、フルール宛に届いたのか!?」

 けれど何故かお兄様が焦り出して警戒の色を見せ始めた。

「……お兄様?  そんな顔をしてはせっかくの男前が台無しですわよ?」
「フルール!  俺はお前の心配をして今はこんな顔になっているんだ!」
「心配?」

 心配される理由が思い当たらず私は首を傾げる。

「だってお前、パンスロン伯爵家の令嬢と言えば、昔からお前を敵視…………」
「昔からなんですか?  私、あちらの令嬢とはそれなりに仲良しだと思っていますけど?」
「!?」

 私がそう答えたら、お兄様が唸り声をあげながら頭を抱えた。

「仲良し!  あれが仲良しだと言うのか!」
「ええ!  だって彼女はパーティーで私がベルトラン様に置いていかれてしまい一人で居ると必ず、他の令嬢の方々を引き連れて声をかけてくださいますのよ?」
「……!?」

 お兄様は絶句し、話を聞いていたリシャール様もえっ?  という顔で私を見る。
 優しい方でしょう?  という意味で私はニコッと微笑んだ。

「フルール……」

 リシャール様は何か言いたげな様子。
 そしてお兄様はお兄様で何かを思い出したのか、過去の話題をあげてきた。

「い、いつだったか……そう、ダンス!  ベルトランとのダンスをフルールが終えた後、彼女はお前に向かって微笑みながら近付いて───」
「……ああ、ありましたわね!  あれは確か私が上手くステップを踏めずにベルトラン様の足を踏みまくった時でした!  とても斬新なダンスですね、初めて見ました、私には真似が出来ません、と笑顔で褒めてもらいましたわ!」

 懐かしい話だわと思いながら答える。

「……褒めっっ!?」
「そうそう。そうしたら彼女に釣られるかのように他の令嬢たちも私に声をかけてくれて、皆様からたくさんのアドバイスをいただけました」
「あれが、アドバイス……だと!?」

 お兄様がぐぁぁと唸りながら頭を抱える。

「フルールよ……なんでそんなケロッとした顔でめちゃくちゃ元気なんだ?  と、思っていたが、そんな解釈をしていたのか……」
「お兄様?」

 お兄様はどんどん頭を沈めていく。
 パンスロン伯爵家の彼女と私の仲良しエピソードを語っているはずなのになぜ、沈んでいくの?
 不思議に思いながら私はリシャール様の方を見た。
 すると、リシャール様は私とお兄様を交互に見ながら苦笑する。

「もしかして、フルールはダンスが苦手なの?」
「はい……お恥ずかしながら。昔からパートナーの足を踏みまくりですわ……」 
「そうなんだ?」
「はい……」  

 私はチラッとお兄様の姿を見る。
 ベルトラン様と婚約するまではずっとお兄様がパートナーだった。
 だから、これまでお兄様の足をどれだけ踏みつけたかは……聞かれても答えられない。

「じゃあ、今度一緒に練習しようか?」
「え!」
「だって僕もフルールと踊ってみたい!」

 リシャール様のその声にお兄様がハッと顔を上げる。そして全力で止めに入った。

「いえ!  リシャール様!  それ、は、早まってはいけません!」 
「早まる……?」
  
 止めに入って来たお兄様に怪訝そうな表情をするリシャール様。
 そんな、リシャール様に向かってお兄様は力の限り叫んだ。

「───フルールの足は…………一言で言うなら凶器です!」

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