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第24話 波乱のパーティー

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  私達が会場に入ると一斉に視線が注がれた。
  ヒソヒソ、コソコソ……何を言われているかは聞こえなくても何となく分かる。

「ライザ、俺を見て」
「セオドア様?」

  そう言った殿下が強く私の手を握ってくれた。

  (そうよ、負けないと誓ったじゃない)

  私は一つ深呼吸してから、にっこりと微笑んだ。





  国王陛下から、正式にエリザベスと殿下の婚約の白紙が発表された。
  既に社交界でも大きく噂は流れていたので大きな混乱も無く受け入れられていた。

  やっぱりな……
  そんな空気を感じるのはエリザベスのこれまでの行動のせいだと思っている。

「そして、エリザベス嬢の代わりにセオドアの新たな婚約者として迎える事になったのが、こちらの令嬢だ。さぁ、ライザ嬢。改めて皆に挨拶するといい」
「はい」

  陛下に促された私は殿下の顔を見て微笑み合ってから前へと進み出る。
  そうして私が口を開きかけた時、全てを遮るかのようにが会場に響いた。

「お待ちください!  これは、全てその女の陰謀です!」

  (───え?  どうして?)

  私は驚いた。
  だってその声は……

「エリザベス……!?」

  私の横で殿下も驚きの声を上げる。

  そう。牢屋にいるはずのエリザベスがそこに居た。
  そして、その後ろには……

「国王陛下!  我々はこの話に納得がいきません!!」

  マクチュール侯爵とその夫人だった。
  沈黙を破り、王家からの召喚状をも無視し続けた侯爵が何故か牢にいるはずのエリザベスと共にこの場に姿を現した。
  当然ながら会場内も騒然としている。

  ズカズカとこちらに、近付いてきた侯爵は私をひと睨みすると声を荒らげた。

「何故、エリザベスが排除されねばならないのですか!?  しかも今、娘は犯罪者扱いされています!  この仕打ちはあんまりです!!  全ては王太子妃になりたいと欲を持ったそこの娘の陰謀でエリザベスは嵌められてしまった……言うならばエリザベスは被害者なのです!!」

  侯爵夫妻が現れる事は予測出来ていたけれど、まさかエリザベスまで現れるとは……

  (脱獄したということ?)

「騒がしいぞ、マクチュール侯爵。はて?  陰謀とな。どういう事だ?」

  陛下が侯爵に問いかける。

「そこの娘は、容姿がエリザベスに酷似している事を利用して我々を騙し殿下へと近付いたとんでもない悪女なのです!  殿下、目を覚まして下さい!  あなたも騙されています!」

  侯爵は、勝手に事実をねじ曲げ自らが被害者となる事にしたらしい。
  この間のエリザベスといい、侯爵といいこの人達は本当になんなの!?
  怒りより呆れの気持ちが強くなって来た。

「そうですわ、殿下、今ならまだ間に合います!  あなたと結ばれるべきはこの私、エリザベスです!」
「そうよ!  エリザベスほど優れた子はいないわ!  そこの女は卑しい娘なのですから!」

  夫人までもが口を出してくる。

「勝手な事を言うな!  俺は騙されてなどいない。それにエリザベス嬢。君はどうやってここに現れた?」

  殿下が怒鳴る。その顔は怒りに満ちている。

「まぁ、嫌ですわ。そんな事はどうでもいいではないですか」
「いいわけないだろう!」
「まぁ、冷たいお言葉。そんなものお父様の力でー……」
「エリザベス!  余計な事を言うな!」
「あら、お父様ごめんなさい?」

  どこまでが本当の事か分からないけれど、この様子だと侯爵が何かしたらしい。
  殿下がため息と共に言った。

「……エリザベス嬢、そして、マクチュール侯爵とその夫人。よくもまぁ、ここまで馬鹿にしてくれたものだ。それ相応の覚悟は出来ているんだろうな?」
「何をおっしゃいます、殿下!  我々は決して馬鹿になどしておりません」

  その言葉に殿下は鋭く冷たい目を向ける。

「お前達がライザに何をしたかこちらが知らないとでも?」
「何の事でしょう?  分かりかねますな」
「身勝手な理由で、慎ましく暮らしていたライザを脅して侯爵家に連れて行き、エリザベスの身代わりを強要した事は全て分かっている」
「ですから、それはその女が勝手にした事でー……」
「その後、不要になったライザを売ろうともしたらしいな?」
「ははは、何の事でしょう」

  侯爵は、絶対に認める気は無いらしい。本当に強情だ。

「殿下!  いくらお父様の娘だからと言ってやはり平民の卑しい女の血を引く娘なんて王太子妃、いえ……未来の王妃には相応しくありませんわよ!」

  エリザベスのその言葉に一斉に私へと視線が集まる。その目は酷く冷たい。
  あちらこちらから平民……と聞こえるのは気のせいでは無い。
  エリザベスにもその声が聞こえたのか私を見て勝ち誇ったように言う。

「だって、そうでしょう?  あなたは一応、お父様の娘ではあるけど“ライザ”としか名乗れないじゃないの!」
「……っ」

  確かに私には名乗れる家名は無い。
  さっきは遮られて出来なかった自己紹介でも名前しか言わない予定だった。
  その事が周りにどう受け取られるのかは実を言えば不安だった。

「お父様を誘惑した平民女の娘のくせに、その娘のあなたが今度は私から王太子妃の座を奪うなんて!」
「違う!  お母さ……母は誘惑なんかしていないわ!  全部侯爵そこの男に無理やり……」
「まぁ!  お父様のせいにする気なの?  卑しい身分の娘は本当に卑しい考えしか出来ないのね、なんてみすぼらしいのかしら!」

  エリザベスがそう高笑いをした、

  ──その時。

「ほぅ、随分と興味深い話をしているな」

  突然、知らない男の人の声が割って入った。

  (誰?)

  その闖入者に対しそう思ったけれど、すぐに思い直した。
  違う。最近、姿絵を見せてもらった事がある。
  この人……いえ、この方は───

  (何故ここに?)

「……リーチザクラウ国王陛下」

  私の横でセオドア殿下がそう呟き、跪いたので私もそれに倣う。
  エリザベスは「誰よ?」と、小さく呟きポカンとした顔をし、侯爵夫妻の顔は驚きと共に見る見るうちに真っ青になっていった。

「よい、楽にしろ。私はセオドア殿、そなたから先日送られて来た書簡の返事と、以前話したそなたの約束を果たしに来たまでだ…………まぁ、そこのキャンキャン吠えている女が大変興味深い話もしていたようだが」

  そう言ってリーチザクラウ国の国王陛下はエリザベスをひと睨みした。

「え?   は?  何?」

  エリザベスは状況が全く読み込めていないらしい。
  陛下はそんなエリザベスを見ながら言った。

「そこの先程から見苦しく喚いていた女よ。訂正してもらおうか?」
「え、えっと、何をでしょう、か?」
「彼女を私の……リーチザクラウ国の国王である私の姪にあたる令嬢ライザを平民女と言い続けた事だ」
「…………え?」

  エリザベスが理解出来ないという顔になる。
  同時に会場内もどういう事なのかと騒めき始めた。

「セオドア殿、すまないがここで私に時間を貰ってもよろしいか?」
「どうぞ、陛下の心ゆくままに」
「助かる」

  殿下と陛下は互いに軽く目配せをした後、陛下は皆の前に立って言った。

「それではリーチザクラウ国、国王の名を持ってこの場で宣言する!」

  そのよく通る声に今度は会場内がしーんと静まり返る。
  他国の王がこの場で何の宣言をするのかと気になっているからだろう。

  そんな空気の中、国王陛下は私の方に顔を向ける。
  その表情はどこか懐かしいものを見るかのようで、とても優しく微笑まれた。

  (え?  笑っ……?)

「セオドア殿の新たな婚約者となるライザ……彼女の正式な名は、ライザ・デ・リーチザクラウ!  我がリーチザクラウ国の正式な王女だ!!」

  リーチザクラウ国の陛下のその声は静まり返った会場内にとてもよく響いた。

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