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最終話 可愛いげがない能面令嬢と呼ばれて蔑まれて来ましたが……
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「待っていたわ……! 私はずっとずっとこの日を待っていたの……!」
「リア」
「ああ、レイさん! だって今日はようやく……ようやく待ちに待った日なのです!!」
この日、私は朝から浮かれてずっとはしゃいでいた。
「……私もだよ、リア。ずっとずっとずっとこの日を待っていたとも!」
「ですよね!」
私は満面の笑みで応える。
どうやらレイさんも同じ気持ちのようなので嬉しい。大好き!
だけど、レイさんは何故かすぐにどこか複雑そうな表情を見せた。
「レイさん?」
「可愛いリア。こんなにも笑顔ではしゃいでいる君を見ているだけで私は幸せだ」
「あ、ありがとうございます」
だって、私はもう能面令嬢ではないから。
あの日から、大好きなレイさんの元でたくさん笑って過ごしている。
「だからこそ聞きたい!」
「は、はい!」
「リア……今日はやっと待ちに待った私達の結婚式だ!」
結婚式……その響きに胸がドキドキする。
とっくに書類上はレイさんの妻になっているとはいえ、やはり気持ちが違う。
「だが!」
レイさんのお顔がクワッと厳つくなる。いつ見ても私の胸はキュンキュンだ。
「今日は……今日は……リアの大好きなリュウの物語の最新刊の発売日でもある!!」
「はい!」
そうなのだ。
私があの国を逃げ出す時に読みたいと願った最新刊の発売日は今日だ。
「だからこそ聞きたい! リア!」
「は、はい!」
「───君のそのはしゃぎようは、私との結婚式に対するものなのか!? それとも新たなリュウのムッキムキに出会える喜びか!? どちらだ!?」
(────えぇえ!?)
「分かっている……リアにとってリュウは特別だ……」
「レ、レイさん……」
「ずっとあの家で苦しんで来たリアをこれまで支えて来たのは間違いなくリュウだからな……」
「レ、レイさん、あの……」
「結婚式までには少しは私もムキムキになるのでは? と、期待していたが……残念ながらペラッペラのままなのだ……」
レイさんは悲しそうに自分の身体を見つめる。
レイさんのムッキムキ計画はあまり予定通りに進んでいないらしく、たまに嘆いているところを見かけてはいたけれど……どうやら第一目標は結婚式に定めていたらしい。
(でも、ウィル殿下……いえ、元殿下を殴り倒した時のあの勢い……素質はあると思うの)
「少しはムキムキした身体の新郎でリアを喜ばせたかったのだが……」
「レイさんったら……」
(どんなレイさんでも大好きだし、一緒にいられて嬉しいのに……)
私はそっと自分からレイさんに近付くと、背伸びをして自分からチュッとキスを贈る。
「───リ、リア!?」
レイさんの顔がボボンッと一気に真っ赤になる。
私はへへっと笑った。
「まだまだ、これからです。だから、ゆっくりムッキムキになりましょう?」
「リア……」
レイさんが腕を伸ばしてギューッと抱きしめてくれる。
大好きな大好きなレイさんの温もり。ここが私の居場所……
(…………気のせいかしら? 前より少し胸板が厚くなったような……)
きっとレイさんがムッキムキになる日はやって来るわ!
心の奥底からそう思えた。
その後、無事に結婚式は執り行われた。
私のウェディングドレス姿を見た食堂のご主人様が大泣きして奥様に宥められたり、新郎のレイさんも、何故か涙を堪えていたようで、五倍増しくらいの厳つい素敵なお顔での挙式になったけど、とにかく私は幸せいっぱいだった。
愛を誓った教会から屋敷までの帰りの馬車の中、私はふと考えた。
(このウェディングドレス姿……陛下、元陛下にだけは見てもらいたかったかも)
最後まで私の事を心配していた元陛下は、あれからウィル元殿下と共にそれぞれ生涯幽閉生活を送る道を選んでいた。
我が国の陛下の話によると、ウィル元殿下は幽閉生活という処分を受け入れられず、かなりごねたらしい。けれど、コーディリアとは違って衣食住の保証もなく一文無しの平民として放り出されるのとは、どちらがいいか? と問われ泣く泣く幽閉生活を選んだ……とか。
こうして今、あの国は新しい道を歩んでいる。
“王家”がなくなる事で、あの変なお告げの風習は綺麗に消えるだろう。
(本当に……これで私も自由になったわ)
まさか、とにかく必死で逃げ出したあの時はこんな未来が待っているなんて思いもしなかった。
「リア?」
「レイさん、私、幸せです」
私が微笑みながらそう口にするとレイさんも幸せそうに微笑んだ。
「私もだ。リアは誰よりも美しく綺麗だ」
「ん……」
そう言って優しいキスが降ってきた。
(さっきも皆の前で愛を誓い合ってキスしたのに……!)
それでも、とびっきりの幸せの味がした。
────
そして、結婚式の夜。
「リュウ様! ようやく会えたわ!」
レイさんがヤキモチを妬いていた待望の新刊を手にした私は興奮していた。
今日は朝から結婚式の為、慌ただしかったけれど、なんとビリーさんが本屋に買いに行ってくれていたのだと言う。
「列に並ぶのはなかなか恥ずかしかったです……」そう言って手渡してくれた。
「さぁて……」
リュウ様のお姫様との恋はどうなったのか、そして、筋肉のムッキムキ具合は……
ドキドキしながらページを捲ろうとしたところで、部屋の扉がノックされる。
(ま、まさか……レイさん!? 早くないかしら?)
何だかんだで延び延びになっていたので、今夜からは寝室を共にしようと約束はしていた。
だけど、レイさんが部屋に訪れるまでまだ時間はあったからその間にリュウ様の筋肉を堪能するはずだったのに……
「リア、私だ」
「レイさん!」
やっぱりレイさんだった! 私は驚きながら扉を開ける。
「ちょっと早かったが……私の野生の勘がな、リアの元に早く行けと……」
そう言いかけたレイさんが私の手の中にある本に視線を移す。
「どうやら正解だったようだ。私の美しい花嫁をリュウに奪われるところだった……」
「レイさん……」
「リア……」
レイさんはリュウ様の本ごと私を横抱きにするとそっと、ベッドまで私を運ぶ。
そして本をそっとベッド脇のテーブルの上に置くと私の上に被さりながら言った。
……胸キュンが止まらない素敵なお顔で。
「今夜はリュウより、私を見てくれ! リア……オフィーリア」
「は、はい……レイさ……レイノルド様……」
優しいキスが降って来る。
───長い長い夜の始まりだった。
────────
────……
それから生まれた私達の可愛い娘、リーファの結婚式で号泣するムッキムキの旦那様……レイ様を見ながら過去に思いを馳せていた私はふと思い出す。
「そういえば、あなた……覚えてます? 昔、私達の間には可愛い娘が生まれた夢を見た、と言っていたこと」
「むっ? あ、ああ……」
「あれ、正夢でしたねぇ……」
懐かしく思いながらクスクス笑う。
笑いながらもここまでピッタリだと何かの“お告げ”のようにも感じてしまう。
(まさかねぇ……)
「娘が生まれた時、すぐにその話を思い出して名前は“リーファ”と決めました」
「リア……」
大切な娘には、悲しい思いをさせてしまったけれど、本当に素敵な人に出会えて幸せそうだ。
そして、レイさん……私の愛しの旦那様、レイ様は何十年もかけて宣言通りムッキムキの身体を手に入れてくれた。
少しづつムキムキしていく身体を私に見せてくれながら、「リア! どうだ!」と嬉しそうに笑う顔が今でも大好きだ。
娘のリーファも年々変化していく父親をキャッキャと笑って見ながら成長していった。
「レイさん」
「むっ?」
久しぶりにそう呼んだからか、どこか照れくさそうに振り向いた。
「私、あなたと出会えて幸せです!」
「ああ、私もだ! リア! これからも見ていてくれ。私はこの先ももっとムッキムキになっていくからな!」
「!」
愛する旦那様のその言葉が嬉しくて私は幸せいっぱいに微笑んだ。
こうして、かつて可愛げがなくて能面令嬢などと呼ばれていた私は、ある日、愛読書と共に逃げ出した先で、とってもとっても素敵な人と出会って、笑顔と幸せを掴みとりました───
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
これで完結です。
最後までお読み下さりありがとうございました!
『“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~』
の両親の話でしたが……
思っていたよりも長くなってしまったのに、お付き合い頂き本当にありがとうございました。
特に誰からもリクエスト等があったわけではなく……勝手に私の頭の中に思い浮かんで始めてみた話でした。
楽しんで貰えていたなら嬉しいです。
よければ、ぜひ、『“つまらない女”~』と併せて読んでみてやって下さい。
悲願のムッキムキを達成したレイさんが無双していますので!
既読の方もまた、違った気持ちで読めるかもしれません。
たくさんのお気に入り、感想、エール……ありがとうございました!
感想は本当に返信できず申し訳ございません。
誤字脱字報告もありがとうございました。すみません……
次作も始めています!
また、スピンオフで申し訳ありませんが……
『私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。』
初投稿作、
“私を裏切った前世の婚約者と再会しました。”
の前世編です。
いつもと少し違う形の話にはなりますが、もし宜しければ……
それでは、
本当にありがとうございました!
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