【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第46話 パーティーの後で ③

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「……な、なぜ!  我が家が取り潰されないといけないのですかーーー!」

  部屋には公爵のそんな叫び声が響き渡っていた。
  陛下が告げたのは、公爵家は取り潰しとなること、当主だった公爵は虐待の罪で牢屋行き、夫人は離縁させられ修道院、そしてコーディリアは……

「へ、平民……この私に平民として過ごせという、の……?」

  コーディリアも姉のオフィーリアに対して、非道な行いをしていた為、一旦牢屋行きにした後、解放後は平民として生きていくことを申し付けられた……が。やはり納得しないらしい。

「……念の為、聞いておきたいのだが、コーディリア嬢」
「な、何ですか!  陛下……酷いです、私は……」

  コーディリアは強気にも陛下を睨み返す。
  陛下はそれを無視して視線をコーディリアのお腹に移した。そして小さな声で「やはりな」と呟いた。

「前に、君はウィルの子を妊娠したかも……などと口にしていたようだが──」
「え……?」

  コーディリアはそこでハッと思い出した。

  (そうよ!  まだ陛下には妊娠が虚偽の申告だとバレていない……これを使って)

「そ、そうです!  私はウィル様の……」
「だが、妊娠はだったようだな」
「え?」

  まだ、何も言っていないのに真っ向からは否定されたコーディリアは言葉を失って目を大きく見開いて陛下を見る。

「初めて話を聞いてから、随分と月日も流れたが、そなたを見ていてもそのような兆候は見られん。医師からの報告も無い。つまり診察を受けてはいないのだろう?」
「あ……」

  コーディリアの顔が真っ青になる。

「お、お前……妊娠も嘘だったのかぁぁぁ!?」
「ひっ!」

  横で話を聞いていた公爵がコーディリアに鋭い目を向けて怒鳴る。
  コーディリアは小さな悲鳴を上げて怯えた。
  オフィーリアにとってはこんな公爵の姿は日常茶飯事だったが、当然、甘やかされて可愛がられて育ったコーディリアは慣れていない。
  なので怖くて震えている事しか出来ない。

「ははは!  さすが嘘つきの娘だ!  母子揃って……ははは……はは」

  ガクッと項垂れた公爵はとてもとても小さな声で「オフィーリア……」と呟いた。
  その声には誰も何も応えなかった。

  ようやく煩かった二人が静かになったのでようやく陛下は夫人に目を向ける。
   
「公爵夫人。そなたは何か言いたいことはあるか?」
「……」

  夫人はそっと顔を上げた。
  陛下と夫人の目は一瞬合ったけれど、夫人の方からすぐに逸らしてしまう。
  そして、ここまで沈黙を続けていた夫人。頭を下げながらようやく口を開いた。

「何もありません。決定には従います……ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」
「そうか……」
「…………ありがとう……ございました」

  最後のありがとう……はとてもとても小さな声で呟かれた。
  陛下は少し寂しさを覚えながらも、それ以上は何も言わなかった。


  ───公爵家はここで潰しておかないと今後の火種になりかねん。
  降爵ではなく、非情ともいえる取り潰しを選んだのは、一応遠縁にあたる公爵が次の王になるなどと言い出さないようにする為でもあった。
  万が一、そんな事になったらオフィーリア嬢が自分で掴みとった“幸せ”が壊されてしまう。

  (せめて、オフィーリア嬢だけでも……)

  陛下は美しくそして幸せそうな笑顔を見せるようになったオフィーリアに思いを馳せた。

  (後は……ウィル……か)

  残る懸念事項は倒れたままの息子……ウィル。
  果たして本人は倒れる寸前のことをどこまで覚えているのか。
  “廃嫡”を選んだ事を記憶しているといいのだが。

  ───だが、悪しき慣習はここで終わりにせねば、な。
 


✼✼✼✼✼✼



「……リア、大丈夫か?」
「レイさん……」

  陛下はこれから、タクティケル公爵家あの人達に話をしに行く、と言って部屋を出て行った。
  何だか動けなくてその場で座り込んで呆けていたら、レイさんが心配そうに声をかけてくれる。

「……まさか、陛下が」
「ああ」

  私はレイさんが差し出してくれた手を取って立ち上がる。

「レイさん、陛下は最後にすれ違う時にそっと私に言ったんです」
「何をだ?」
「───これで、悪しき慣習がなくなればいい、と」

  その言葉を聞いたレイさんが頷く。

「……陛下はリア……オフィーリアが行方不明になってから、自分の代で国を終わらせることを考えていたのかもしれないな」
「それは……」

  (そうなのかも……そうでないとあんな決断簡単に出来るはずがない……)

「リアが逃げたことで、今まで当たり前のように信じ、頼り切っていた“占いのお告げ”について疑問に思い始めていたのかもしれんしな」
「……」
「どんな形であれ、このまま王家を存続させようとすれば、次に決まった“王太子”の相手が占われて選ばれ……それの繰り返しは変わらなかっただろう」
  
  血縁者から後継を選ぶ場合、新しい王太子にすでに伴侶がいたら、占いの結果によっては離縁……もしくは側妃にさせられるなんて事も……
  そう考えるだけで恐ろしい。

  (やっぱり、呪いみたい……)

「そうですね……」
「ああ……」

  私たちは頷き合いながら手を繋いで帰るため、部屋を出て馬車まで歩き出す。
  
  
「とととところで、リア!」
「レ、レイさん?」

  急に吃り始めたレイさんの声に驚いて顔を上げると、レイさんの素敵なお顔がもっと素敵になっていた。そしてほんのり頬が赤い。

「あ、あの場でのどさくさな……発表、となってしまったが!」
「?」
「リリリリ……リアは今日から、わ、私のつつつつ妻!  だっ!」
「つ、ま……」

  “妻”という部分を口にする時、レイさんのお顔がクワッと更に厳つくなった。
  あぁ、やっぱりそのお顔素敵!  胸がキュンとするわ、と見惚れてしまう。
  そして、妻という響き……改めて聞くと照れ臭い。

「だ、だから!  今はそ、その幸せを噛み締めて帰りたい……のだ!」
「か、噛み締めて、ですか?」
「そうだ!」

  (噛み締めて帰るってどういう意味かしら?)

  レイさんが力強くそう口にしたと思ったら、フワッと私の身体が持ち上がる。
  なんとレイさんはまた、私をお姫様抱っこした。

  (ま、また!?)

「レイさん!」
「……リア。私の……つ、つ、つま……捕まっていてくれ。こ、このまま馬車まで運ぶ」
「──は、はい!」

  私はレイさんの首に腕を回してギュッと抱きついた。

「……むっ!」
「レイさん?」

  レイさんがピクリと何かに反応したので、どうしたのかと訊ねたけれど、「な、何でもない!」と首を横に振られてしまった。
  レイさんのその顔は先程よりも真っ赤だった。



  大きな騒ぎとなった建国祭のパーティー。
  王太子の醜聞と廃嫡、公爵家の醜聞、そして、最近姿が見えなかった元・王太子の婚約者の能面令嬢が隣国の強面伯爵と結婚して現れ能面を剥ぎ取った!?

  とても美しかった……
  ウィル殿下はなんて勿体無いことを……
  パーティーの後、王宮の廊下でイチャイチャしていた!
  
  このように、人々の中で大きく騒がれる事になった。


  そんな噂の伯爵と元能面令嬢がイチャイチャを披露しつつ帰国した数日後……
  「廃嫡……」という言葉を残して倒れていた王子ウィルの意識が戻った。

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