50 / 53
第46話 パーティーの後で ③
しおりを挟む「……な、なぜ! 我が家が取り潰されないといけないのですかーーー!」
部屋には公爵のそんな叫び声が響き渡っていた。
陛下が告げたのは、公爵家は取り潰しとなること、当主だった公爵は虐待の罪で牢屋行き、夫人は離縁させられ修道院、そしてコーディリアは……
「へ、平民……この私に平民として過ごせという、の……?」
コーディリアも姉のオフィーリアに対して、非道な行いをしていた為、一旦牢屋行きにした後、解放後は平民として生きていくことを申し付けられた……が。やはり納得しないらしい。
「……念の為、聞いておきたいのだが、コーディリア嬢」
「な、何ですか! 陛下……酷いです、私は……」
コーディリアは強気にも陛下を睨み返す。
陛下はそれを無視して視線をコーディリアのお腹に移した。そして小さな声で「やはりな」と呟いた。
「前に、君はウィルの子を妊娠したかも……などと口にしていたようだが──」
「え……?」
コーディリアはそこでハッと思い出した。
(そうよ! まだ陛下には妊娠が虚偽の申告だとバレていない……これを使って)
「そ、そうです! 私はウィル様の……」
「だが、妊娠はそなたの勘違いだったようだな」
「え?」
まだ、何も言っていないのに真っ向からは否定されたコーディリアは言葉を失って目を大きく見開いて陛下を見る。
「初めて話を聞いてから、随分と月日も流れたが、そなたを見ていてもそのような兆候は見られん。医師からの報告も無い。つまり診察を受けてはいないのだろう?」
「あ……」
コーディリアの顔が真っ青になる。
「お、お前……妊娠も嘘だったのかぁぁぁ!?」
「ひっ!」
横で話を聞いていた公爵がコーディリアに鋭い目を向けて怒鳴る。
コーディリアは小さな悲鳴を上げて怯えた。
オフィーリアにとってはこんな公爵の姿は日常茶飯事だったが、当然、甘やかされて可愛がられて育ったコーディリアは慣れていない。
なので怖くて震えている事しか出来ない。
「ははは! さすが嘘つきの娘だ! 母子揃って……ははは……はは」
ガクッと項垂れた公爵はとてもとても小さな声で「オフィーリア……」と呟いた。
その声には誰も何も応えなかった。
ようやく煩かった二人が静かになったのでようやく陛下は夫人に目を向ける。
「公爵夫人。そなたは何か言いたいことはあるか?」
「……」
夫人はそっと顔を上げた。
陛下と夫人の目は一瞬合ったけれど、夫人の方からすぐに逸らしてしまう。
そして、ここまで沈黙を続けていた夫人。頭を下げながらようやく口を開いた。
「何もありません。決定には従います……ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」
「そうか……」
「…………ありがとう……ございました」
最後のありがとう……はとてもとても小さな声で呟かれた。
陛下は少し寂しさを覚えながらも、それ以上は何も言わなかった。
───公爵家はここで潰しておかないと今後の火種になりかねん。
降爵ではなく、非情ともいえる取り潰しを選んだのは、一応遠縁にあたる公爵が次の王になるなどと言い出さないようにする為でもあった。
万が一、そんな事になったらオフィーリア嬢が自分で掴みとった“幸せ”が壊されてしまう。
(せめて、オフィーリア嬢だけでも……)
陛下は美しくそして幸せそうな笑顔を見せるようになったオフィーリアに思いを馳せた。
(後は……ウィル……か)
残る懸念事項は倒れたままの息子……ウィル。
果たして本人は倒れる寸前のことをどこまで覚えているのか。
“廃嫡”を選んだ事を記憶しているといいのだが。
───だが、悪しき慣習はここで終わりにせねば、な。
✼✼✼✼✼✼
「……リア、大丈夫か?」
「レイさん……」
陛下はこれから、タクティケル公爵家達に話をしに行く、と言って部屋を出て行った。
何だか動けなくてその場で座り込んで呆けていたら、レイさんが心配そうに声をかけてくれる。
「……まさか、陛下が」
「ああ」
私はレイさんが差し出してくれた手を取って立ち上がる。
「レイさん、陛下は最後にすれ違う時にそっと私に言ったんです」
「何をだ?」
「───これで、悪しき慣習がなくなればいい、と」
その言葉を聞いたレイさんが頷く。
「……陛下はリア……オフィーリアが行方不明になってから、自分の代で国を終わらせることを考えていたのかもしれないな」
「それは……」
(そうなのかも……そうでないとあんな決断簡単に出来るはずがない……)
「リアが逃げたことで、今まで当たり前のように信じ、頼り切っていた“占いのお告げ”について疑問に思い始めていたのかもしれんしな」
「……」
「どんな形であれ、このまま王家を存続させようとすれば、次に決まった“王太子”の相手が占われて選ばれ……それの繰り返しは変わらなかっただろう」
血縁者から後継を選ぶ場合、新しい王太子にすでに伴侶がいたら、占いの結果によっては離縁……もしくは側妃にさせられるなんて事も……
そう考えるだけで恐ろしい。
(やっぱり、呪いみたい……)
「そうですね……」
「ああ……」
私たちは頷き合いながら手を繋いで帰るため、部屋を出て馬車まで歩き出す。
「とととところで、リア!」
「レ、レイさん?」
急に吃り始めたレイさんの声に驚いて顔を上げると、レイさんの素敵なお顔がもっと素敵になっていた。そしてほんのり頬が赤い。
「あ、あの場でのどさくさな……発表、となってしまったが!」
「?」
「リリリリ……リアは今日から、わ、私のつつつつ妻! だっ!」
「つ、ま……」
“妻”という部分を口にする時、レイさんのお顔がクワッと更に厳つくなった。
あぁ、やっぱりそのお顔素敵! 胸がキュンとするわ、と見惚れてしまう。
そして、妻という響き……改めて聞くと照れ臭い。
「だ、だから! 今はそ、その幸せを噛み締めて帰りたい……のだ!」
「か、噛み締めて、ですか?」
「そうだ!」
(噛み締めて帰るってどういう意味かしら?)
レイさんが力強くそう口にしたと思ったら、フワッと私の身体が持ち上がる。
なんとレイさんはまた、私をお姫様抱っこした。
(ま、また!?)
「レイさん!」
「……リア。私の……つ、つ、つま……捕まっていてくれ。こ、このまま馬車まで運ぶ」
「──は、はい!」
私はレイさんの首に腕を回してギュッと抱きついた。
「……むっ!」
「レイさん?」
レイさんがピクリと何かに反応したので、どうしたのかと訊ねたけれど、「な、何でもない!」と首を横に振られてしまった。
レイさんのその顔は先程よりも真っ赤だった。
大きな騒ぎとなった建国祭のパーティー。
王太子の醜聞と廃嫡、公爵家の醜聞、そして、最近姿が見えなかった元・王太子の婚約者の能面令嬢が隣国の強面伯爵と結婚して現れ能面を剥ぎ取った!?
とても美しかった……
ウィル殿下はなんて勿体無いことを……
パーティーの後、王宮の廊下でイチャイチャしていた!
このように、人々の中で大きく騒がれる事になった。
そんな噂の伯爵と元能面令嬢がイチャイチャを披露しつつ帰国した数日後……
「廃嫡……」という言葉を残して倒れていた王子ウィルの意識が戻った。
105
お気に入りに追加
4,558
あなたにおすすめの小説
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる