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第44話 パーティーの後で ①
しおりを挟む「───すまなかった。オフィーリア嬢」
私達が乗り込んだせいだとは言っても、どう振り返っても波乱しかなかったパーティーは、ウィル殿下が倒れた事で慌ただしくお開きになった。
慌てて医師を呼び殿下の容態を確認したところ、意識は失っているものの命に別状はないという。
だけど、陛下は言った。
──これが、お告げに逆らって運命の相手を蔑ろにした者の辿る道なのだ、と。
私とレイさんと陛下はパーティ後、王宮内の一室で話をすることになった。
公爵家の秘密を暴露して追い詰めて、ウィル殿下との婚約問題も解消された。
レイさんとの結婚も受理されてもうスッキリした気分だったので、レイさんと共に帰ろうと思っていたのに、陛下がどうしても謝罪をしたいと言って引き止めたからだ。
「つまり、ウィル殿下はあの場で“廃嫡”を選択せずにこのまま王太子として過ごし、後々、王に即位していたら……」
「おそらく、さほど時をおかずに命を……」
陛下はそこで言葉を詰まらせる。
そうね。即位前の“王太子”の段階ですら苦しそうだったのだから……即位なんてしたらきっと命は無い。
「お告げで選ばれる令嬢の特徴は主に二種類いると代々伝えられて来た」
「二種類ですか?」
私が聞き返すと陛下は頷く。
「一つは、最も相性が良いとされる女性だ。殆どの令嬢はこちらに当てはまる」
「相性……ですか」
私は眉をひそめる。
その言葉に思いっ切り寒気がしたので腕を擦る。
だって、ウィル殿下と私の相性が良いなんて思いたくない!
それは、レイさんも同様だったようで私の横で顔をしかめていた。
「性格も気が合い、互いに愛情を抱いて切磋琢磨しながら国を導いていくパターンだ。まさにベストパートナーと言えよう」
「互いに愛情を抱く……ですか」
どう考えても私達には当てはまらない。
「……だが、ごく稀に相性などは二の次で、相手の令嬢が選ばれる場合があるという。ウィルとオフィーリア嬢はこちらの例だったのだろう……」
「相性は二の次、ですか?」
「……そのパターンは、将来の王となるには素質に不安がある者の場合だ……その者の助けとなれる素質を持った令嬢が選ばれると言われていた」
だけど、陛下によるとそのパターンで選ばれた令嬢は王国の歴史上では殆どいないと言う。
つまり、王の素質がと言っても多少の難なら気にされない。
よって、その判定をされる時は、かなり王となる素質が無く成長しても変わらない、本当に危ういという時。
そして、陛下に言わせると、かつて選ばれた令嬢を虐げて追放し、他の女性を妃に据えた短命で終わったという王はまさにその部類だったのだろうと言われているらしい。
「もちろん、占いの時点で、王となる素質のある無しなどはもちろん分からぬ。あくまで成長していく過程や努力次第で変わるものでもあるからな……」
陛下は遠い目をして言った。
何を思っているかは想像出来る。だって、ウィル殿下は成長しても───
「だが、ウィルは後者だった。それはもう誰の目にも明らかだ。相性は二の次でオフィーリア嬢……君が選ばれた。そうとしか思えない」
「……」
「実際、ウィルがどんなに情けなくても、君はいつも淡々と文句一つ言わずにウィルをサポートし続けてくれた。それに甘えてしまっていたのは……我々だ。本当にすまなかった」
「……」
私は静かに目を伏せる。
───だって、私はウィル殿下を支えたいと思って生きてきたわけじゃない。
私は“王太子の婚約者”という立場だけが私を守ってくれるものだったから、必死にその立場にしがみついていただけ。
かつての私のそのそうせざるを得ない状況が図らずとも上手い具合に嵌ってしまっていたような気がする。
……コーディリアが好き勝手に動き出すまでは。
「───ウィルには、何度も“オフィーリア嬢を大切にするように”と言ってきたが、それも逆効果だったのかもしれぬ……」
「……」
やっぱりこんなの占いではなくて“呪い”だわ。
大半の選ばれた令嬢は見初められて相性抜群で幸せになっていたとしても、かつて不幸な目にあった人がいるという事実は消えない。
(その方は追放先で幸せになったのかしら───?)
私のレイさんみたいな人に出会えてくれていたらいいな、と心から思った。
正直、こんな悪しき慣習はもう終わりにして欲しいと思うけれど陛下はどうお考えなのかしら。
「───リア」
「……レイさん?」
レイさんの目が少し心配そうに覗き込むようにして私を見ている。
だから、私は笑顔で「大丈夫です」と返した。
「……リアにはあれだが、リアとあの王子が相性抜群で選ばれたわけではなくて良かった……と思ってしまった。すまない……」
「レイさん……」
ほんの少しでも何かが違っていたら、きっと私達は出会わなかった。
そう思うと本当にこの縁が不思議で仕方がない。
(あの日、逃げ出す決意をして良かった……)
「リア……」
「……レイさん」
私達が互いの顔をうっとりしながら見つめあった時、ウォッホン! という咳払いが聞こえた。
……陛下だ。
「……仲睦まじいのは大変喜ばしいのだが……」
「いえ、失礼ながら国王陛下、私と妻は新婚ホヤホヤなのです」
「レ、レイノルド様!?」
陛下に向かってなんて発言を……! しかも、お顔が!
と、私は慌てる。
「そ、それは分かっておるが……」
陛下は若干怯えながらチラッと私の顔を見る。
「オフィーリア嬢は、アクィナス伯爵といると別人のようだ」
「別人……ですか?」
「表情も豊かだし、楽しそうで…………何より幸せそうだ」
「陛下……」
また、陛下は遠い目をする。
「今でも思う。そなたの母親が不義の子……コーディリア嬢の事だな、を身ごもったことを相談しに来た時、どうするのが正解だったのかと」
そういえば、と思う。
「なぜ、陛下は夫人の不義の子、コーディリアの事をずっと黙っていたのですか?」
「……」
「ウィル殿下の婚約者……未来の王太子妃になる予定だった私の家の醜聞だったからでしょうか?」
「それも、あるな。ウィルにとってお告げで選ばれた令嬢は絶対だったから、大きく騒がれて潰されては困ると思ったのもある」
「それも……? のも?」
では他には何の理由が……?
私の視線に陛下はどこか悲しそうに笑った。
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