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第38話 破滅する公爵家①
しおりを挟む私に話題を振られたお母様は、気の毒になるくらい顔が真っ青だった。
会場内はまたもや、ザワザワしているけれど、同時に顔を見合わせてヒソヒソ囁きあっているのは、“噂”を聞いたことがある人達なのだと思う。
……そして、コーディリアは何も知らない。
だから、私の言葉につられて顔色の悪いお母様の事を怪訝そうに見ている。
また、これにはさすがに、私……“オフィーリア”が会場に入って来てから石像のように固まっていたお父様もこの空気にハッとしたのか動き出した。
「───はっ!? な、なんだ? この空気は……? ……ん? おい、どうした? 顔が真っ青だぞ?」
「……」
キョロキョロした後、横にいるお母様の様子がおかしいことにようやく気付いたようだ。
(こうして人の気持ちに鈍いから疑うことすらしなかったのでしょうね……)
「……よく分からんが……これも、オフィーリアが現れたせいか!?」
そんなお父様は相変わらず、自分勝手な解釈を始めた。
「ずっと雲隠れしていて、ようやく姿を見せたと思えば……けけ結婚だと!? ふざけるなよ、オフィーリア!」
「……私を責めるのは勝手ですけれど、お父様……いいえ、タクティケル公爵様。今は大事な話の最中ですよ?」
「なんだと!?」
「あなたの可愛い可愛い“娘”のコーディリアが夫人に聞きたい事があるみたいですから」
「……?」
お父様は意味が分からないという顔をして眉をひそめた。
「……お、お母様? どうしてそんな真っ青な顔で震えているの……?」
「……」
「どうして、こんな事態になっても私が“お告げ”で選ばれた令嬢になれず、王妃にもなれないなんてお姉様なんかに言われなくちゃいけないの?」
「は? なんの話だ!?」
お父様は話について来れていないみたい。何度も首を傾げている。
「……」
「ねえ! お母様っ!」
コーディリアが必死に呼びかけるけれど、お母様はそれでも口を開こうとはしない。
仕方が無いので私は口を開く。
「コーディリア。ウィル殿下の相手を示したあの“占い”の相手は“タクティケル公爵家の令嬢”だったわ」
「そうよ! はっきり“オフィーリア”とお姉様の名前まで出たわけじゃないでしょ? それなら私の可能性だってあるわ! なのにお姉様はさっきから……」
キッとこちらを睨むコーディリア。
私は、顔を上げて無言でずっと静かに抱きしめてくれているレイノルド様の顔を見た。
レイノルド様は静かに頷いた。
───リアのやりたいようにやれ!
その目がそう言ってくれている。
この話を暴露することで、確実に公爵家の面目は丸潰れになるけれど、いくら縁を切った宣言をしたからと言って家族だった“私”だって決して無傷ではないはずなのに。
(レイさんなら、確実に私を守ってくれる……)
心からそう信じられるから、私はニコッと微笑んだ。
そして、小さく深呼吸をしてからコーディリアと向き合う。
「……だって、あなたは“タクティケル公爵の娘”ではないんだもの、コーディリア」
「………………え?」
不思議と私がそう口にした時は、会場が静まり返っていて私の発言はとてもよく響いた。
「タクティケル公爵の娘ではないコーディリアのことを占いが示すはずがないでしょう?」
「……え? は?」
「……」
「や、だ……お姉様ったら……な、何を言っているの……?」
コーディリアの顔がヒクヒク引き攣っている。
自分がいかに“可愛い”かを知っているコーディリア。この子の顔がこんなにも崩れたのは初めて見たかもしれない。
「そのままの意味よ?」
「や、意味、分かんない……なんで私がタクティケル公爵家の娘じゃないのよ!? 私はちゃんと──」
「コーディリア。あなたよく私に言ってくれたわよね?」
「え?」
───皮肉よね、コーディリア。
あなたが私を蔑むために、いつも使っていた言葉が別の意味であなたに刺さる事になるなんて。
「“私とお姉様は似てないわよね”って」
「そ、そうよ! 私はお母様に似てすっごく可愛いけれど、お姉様はお父様にそっくりだから似てないわ! それが何だと言うのよ!」
さっきも思ったけれど、コーディリアは全体的に思考能力が低いように感じる。
自分で考えようとしない……と言えばいいのかしら。
(本当に王妃になりたかったのなら致命的だったと思うのよね……)
「それが答えよ」
「は?」
「コーディリア。あなたはお母様の娘ではあるけれど、お父様のタクティケル公爵の娘ではないのよ。残念ながら公爵の血は継いでいない」
私がその言葉を発した瞬間、その場はしんっと静まり返った。
唖然とする者、ヒソヒソ囁き合う者……反応は様々だ。
国王陛下は静かに私達から視線を逸らし、苦しそうに頭を抱えていたウィル殿下は顔を上げて、無言のまま驚愕の表情で私達を見ていた。
「オ、オフィーリア! 貴様、何を血迷って馬鹿なことを言っているんだーー!」
そんな中、最初に反応したのはお父様だった。続いて、コーディリア。
「そ、そうよ! な、なんの証拠があってお姉様はそんな事を言うの!」
「……だから、お母様に聞いてみたら? と最初に言ったでしょう?」
集めた証拠を提出するのは簡単だけど、お母様はちゃんと自分のした事を認めるべきだと思う。
だからそう言った。
その言葉でお父様とコーディリアは勢いよくお母様に詰め寄った。
「おい、どういう事なんだ!?」
「お母様! あれはお姉様が私を陥れるための嘘よね!?」
「……っっ」
青白い顔をしたお母様は「うぅ……」と震えるばかり。
この様子が全ての答えのような気がするのだけど、二人は認めたくないが故に、お母様に必死に詰め寄っている。
「ねぇ! 何で違うって言ってくれないの?」
「……」
「お前……まさか、本当に? ど、どこの誰と……」
「本当に私はお父様の娘ではないの? なんで!」
二人の剣幕についに折れたのか、お母様ががっくりと項垂れながら静かに口を開いた。
「…………コーディリアは……旦那様の子では、ありません」
観念したお母様は確かにそう言った。
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