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第37話 幸せそうに笑うお姉様 (コーディリア視点)
しおりを挟む「ねぇ、コーディリア。あなたにはまだ、私が能面に見えるのかしら?」
「───っ!」
(こ、これは誰なの……?)
ほ、本当にあのお姉様?
可愛くもなければ愛想もなくて……何をしても一切表情を変えなかった……お姉様!?
能面……能面はどこ?
(こんな笑顔を浮かべているお姉様なんて知らない)
それに、公爵家にいた時より……何だかキラキラ……している?
(なんでよ!)
ウィル様、何とかして!
私、コーディリアはそう思ってウィル様に「助けて」と視線を送ろうとしたけれど、ウィル様は青白い顔で頭を押えて震えているだけ。
肝心な時に何をしているの!?
ここは私を守ってお姉様をこてんぱんにする所でしょう!?
(……実はこの王子様って使えないんじゃ……)
さっきのダンスも酷かった。
なんで私をお姉様の時みたいにカバーしてくれなかったの?
たくさんたくさん笑われたわ……あんなにバカにされたのは全部、ウィル様のサポートが悪かったからよ!
(でもいいわ……ウィル様が未来の王様になる事は変わらないもの!)
さっきの話はウィル様に今後、隣国には立ち入るなという事らしいけれど、そんなの大した問題じゃないでしょ?
ウィル様はこの国の王様になるんだから。
隣国なんて行かなくても関係ないじゃない? 用事がある時は向こうから来ればいいもの。
そうよね?
それよりも!
お姉様は結婚したと言っていたわ。
つまり……これで私が正式にウィル様の婚約者になれる時が来たということ!
私はウィル様に愛されているし、タクティケル公爵家の娘だし! 何の問題もないわ。
(やったわ!)
私は思わず顔がニヤけそうになる。
「……コーディリア、何がおかしいの?」
「え?」
「……とても、嬉しそうね?」
「そ、それは……」
だって、お姉様の結婚したという相手は極悪そうなあのとんでもない伯爵よ?
あぁいう男はね、きっと、たくさん愛人がいるはずなのよ! だから、お姉様が愛されて大切にされるなんて有り得ない。
惨めよねぇ……ふふ。
身分も伯爵だし、ウィル様と結婚出来なくていつか後悔するといいわ。
ふふ、可哀想~
「……あぁ、そういうことなのね、コーディリア。あなたの事だから、“お姉様ったら王子様と結婚出来ずに伯爵夫人になるだなんて可哀想~”とでも思っているのかしら?」
「……!」
(な! なんで私の考えている事が……!)
なんでそんな事を暴露するのよ……これだと私の性格がすっごく悪く聞こえちゃう!
私がこれまで作り上げてきたイメージがあるのに!
───仕方がないわ。ここは泣き落とし作戦よ!
私は瞳を潤ませて上目遣いにお姉様を見上げる。
「お、お姉様ったら……酷いわ。私たち姉妹なのに……そんな酷い事を考えるはずな……」
「そう? ……コーディリアって凄いわよね」
「…………」
(───へ? 凄い?)
お姉様の発した言葉の意味が分からず思わず呆けてしまった。
「だって、なんでも泣けぱ済むと思っているんだもの」
「なっ!」
「お姉様が、お姉様が……そうやってあなたはいつも目を潤ませてお父様とお母様にお願いしていたわ」
「……」
「そうして、私の物を奪っていくのよね?」
(な、何を語り出してるのよ! お姉様のくせに!)
「そんなに私の物が欲しかったの? コーディリア」
「……なっ!」
「あぁ、それとも私が幸せになるのが嫌だっただけ……かしら?」
「っっ!」
私が言葉を詰まらせるとお姉様はにっこり笑った。
「ごめんね、コーディリア。私、今とっても幸せなの」
「……は?」
「ウィル殿下からも、家族からも離れられて……それで、本当に好きな人と結婚出来て心から愛されてとっても幸せなの」
「あ、愛されて……?」
(まさか、あの伯爵に!?)
「そうよ。レイノルド様はとても素敵な方なんだから」
お姉様は頬を赤く染めてすごく幸せそうに微笑んだ。
そんなお姉様を見た周囲の人々が、ほぅ……とまるでお姉様に見惚れるかのようにため息を吐いた。
(な、何なのよ、これ……)
嘘よ、嘘嘘嘘嘘!
お姉様なんかを愛する人なんているわけないじゃない!
私と違って美しくも可愛さも───……
「どうだ? 私の妻はため息が出るくらい美しいだろう?」
「レイノルド様?」
そこでそれまでずっと険しい顔で黙り込んでいたあの伯爵が動いた。
しかも、お姉様の肩を抱いて自分の方に引き寄せている。
そして、私を見ながら言った。
「私はそんな妻……オフィーリアを片時も離したくないほど心から愛しているのだ」
「レ、レイノルド様! こ、こんな所で……」
「むっ? 少しくらいいいだろう?」
「もう……!」
(お姉様が見た事ない顔で笑っている……それも、幸せそうに……)
何で? どうして? このままお姉様が幸せに……?
いいえ! 私にはまだ、この国の“王妃”になるという希望があるわ!
伯爵夫人のお姉様なんか目じゃないくらいの飛びっきりの地位よ!
「お姉様! そんな偉そうにしているけれど、分かっているんですか!?」
「何を?」
お姉様があの厳つい伯爵に抱き込まれながら首を傾げる。
「お姉様がそこの極悪顔…………伯爵と結婚した今、私がウィル様の妃になるのよ!」
私のその言葉に会場内もざわついた。
そういえばそうなるのか? ……そんな声も上がっている。
(そういえば、じゃないのよ! そうなるの!)
「お告げもそうよ! やっぱり、あれはお姉様じゃなくて私の事だったんだわ! 王妃になるのは、わ……」
「なれないわよ?」
私はそう叫びながら、自信満々にお姉様に指を突きつけたけれど、何故かお姉様が否定する。
「コーディリア。あなたは王妃にはなれないわ」
「は? なん……で?」
「ついでに言うなら、残念だけどお告げの令嬢もあなたのことでは無いわ」
お姉様が、首を横に振りながら言う。
その顔は少し悲しそうに見えた。
(は? 意味が分からないんですけど!?)
「コーディリアがお告げの令嬢だったら良かったのにね……」
「お姉様!? 他の男と結婚しておいてお告げの令嬢は自分だと言いたいの!?」
なんて図々しい発言なの!
タクティケル公爵家の娘───それは、私だって……私にだって資格があるんだから!
「……お告げ……ね。そんなもの私には要らない。むしろ邪魔でしかないわ」
「邪魔……ですって!? それならどうして私を認めないのよ!」
「……そうね、コーディリア。そんなに言うなら、そこで先程から青い顔をして震えている“お母様”に聞いてみたらどう? ───ねぇ、お母様?」
「は?」
そう言われて私はお父様とお母様に視線を向ける。
お父様はずっと硬直したまま、いまだに固まっていて動かない。そしてその横のお母様は───……
お姉様の言う通り、真っ青な顔で震えていた。
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