【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第36話 能面令嬢はもういません!

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  ──オフィーリア様だと!? 
  ──最近姿が見えなかった殿下の婚約者の?

  私の言葉に会場内は大きくざわつく。

  ──の、能面令嬢?  あれ?  でも、笑っ……
  ──か、髪が……
  ──あんなに美しい令嬢だったか?

  これまでの“私”との違いに驚いている人が多いわね。

  ──それより、結婚!?
  ──なぜ、隣国の貴族と!?  殿下は?


  (───本当に、間に合って良かったわ……)

  私は微笑みの裏でそんなことを思う。

  逃げ出したはずの私が、再びこの国に足を踏み入れる事に対してレイさんが「これだけは譲れんのだ」と言って出した条件は……
  “結婚の予定を早めること”だった。

  ……裏にどんな理由があるにせよ、王太子、そして家族だった人間が国を越えてまで探しに来るのは普通じゃない。

   レイさんはそう言った。

  そんな私がのこのこと国に戻ればあっという間に捕まってしまう。
  いくらレイさんが守ってくれると言っても、国も違うし自分より格上のウィル殿下やタクティケル公爵家とまともに対峙して勝つのは難しい。

『それなら、あの国に乗り込む時にはリアがもう正式な私の妻になっていればいい』

   国王陛下にきちんと認められた立場───“アクィナス伯爵夫人”になってさえいれば、彼らも手を出しにくいから、と。

  自身の結婚という人生の大きな出来事の時期を私の事情で振り回してしまう事に躊躇ったら、レイさんはむしろ嬉しそうに言ってくれた。

『リアが通常よりもかなり早く私の妻になってくれるのだぞ?』
『喜び以外に何がある?』

  この言葉を聞いた時、私はこんなに格好良い人に愛されて世界一の幸せ者だと思った。
  レイさんはとにかく格好良くて、私は胸のキュンキュンが止まらなかった。

  ───そのかわり、時間はギリギリだった。
  伯爵領と王都はかなり離れている。さらには婚約期間がほとんど設けられていない結婚。
  レイさんが(いつの間にか)根回し済みだったとはいえ、相手は平民。
  婚姻誓約書が受理されるまで、通常より時間がかかることは明白だった。

  (そうして、今日……本当にギリギリのタイミングで連絡が来たわ)

  早馬でこっちの国まで駆け付けて連絡をくれた使用人には感謝しかない。
  だって……“オフィーリアの結婚”はどうやら効果絶大のようだから。

「そ……そなた、ほ、本当にあのオフィーリア嬢……なのか?」
「ええ、オフィーリアでございます、陛下。色々とご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」

  私は更に微笑んだあと、深く一礼する。

「ど、どこに行っていたのかと思えば……隣国で…………結婚、しただと?」
「ええ、とっても素敵なご縁がありまして」
「だ、だ、だが、そなたは……ウィルの婚約者……で」

  陛下が大きく動揺している。
  チラッと横目で見る限りでは他の人達──ウィル殿下にコーディリア、お父様とお母様は、まだポカンと間抜けな顔をして固まったままね。

  (……その顔が見たかったわ)

「……いえ、陛下。“オフィーリア・タクティケル公爵令嬢”はもうこの世にいません」
「いな、い……?  だ、だが、それは……タクティケル公爵家の令嬢そなたがいなくてはウィルが……ウィルの運命が……」

  (やっぱり、陛下はご存知のようね──)

  この事態になっても代わりにコーディリアが、と言わない。
  それが“あの話”の最大の裏付けのようにも思える。

「……お言葉ですが、陛下。最初に“オフィーリア・タクティケル公爵令嬢”を要らないと口にされたのは、そこのウィル殿下、本人ですわ…………ねぇ、そうでしょう?  ウィル殿下」

  私は笑みを崩さずに最後の言葉はまだ固まった様子のウィル殿下に視線を向けて言った。

「何で……え、がお?  能面……は?  オ、オフィ……オフィー……オフィーリアだ、と?  …………ぐっ!」

  (ウィル殿下……また、頭を抱えた?  やっぱり頭痛?)

  ウィル殿下はようやく覚醒したようで、痛そうに頭を押さえながら怒鳴り声をあげた。

「能面……オフィーリアのくせに、ほ、他の男と結婚した、だと?  ふ、ふざけるな!  オフィーリア!  そんな事が許されると思ってい……」
「まぁ!  嫌ですわ、殿下ったら。“────確かに。そうか……オフィーリアには消えてもらえば良かったのか……”」
「……っっ!?」

  私の言葉にウィル殿下は黙りこみ、更に目を大きく見開き肩を震わせる。

「あなた、そこのコーディリアと熱いキスを交わしながらそう口にしていたではありませんか」
「なっ!  何で、それを!  オフィーリアが知っ…………はっ!」

  ウィル殿下は慌てて口を押えたけれどもう遅い。その受け答えは肯定したのも同然。
  その言葉に会場はざわめき、冷たい目が一気にウィル殿下へと集中する。

「ち、違っ……こ、これは……」

  しどろもどろの殿下に私はニコッと笑顔を浮かべながら首を傾げる。
 
「ですから、殿下のお望み通り消えて差し上げたのに……どうして私が怒られなくてはならないのです?」
「───っ!」
「“夫”に聞きましたわ。なんでも殿下は“オフィーリア ”を探して何度もしつこく手紙を送ったり、果ては許可もなく勝手に入国して捜索しようとしていたとか……」
「っっっ!」

  殿下は図星を指されたので明らかに動揺していた。
  それよりも、ふふふ……ふふ。
  どうしたらいい?  笑いが止まらないわ!
  だって “夫”……夫ですって!  自分で口にしていて照れてしまうわ!
  だってレイさん……レイノルド様を夫と呼べる幸せ……!
  こーーーんなに素敵な人を“夫”と呼べる私はなんて幸せ者なの?

  実は内心で浮かれまくっている私はチラッと横目でレイノルド様の顔を見る。
  私が前に出て話しだしてから彼はずっと五倍増しくらいのお顔をキープしたまま静かに見守ってくれている。

  (ああ!  やっぱり素敵……その表情だけで私、なんでも頑張れるわ!)

  私は気合いを入れ直してウィル殿下に向き合う。

「殿下。要らないはずの私を探し出して、連れ戻してどうするおつもりでしたの?」
「…………くっ」

  (顔が青いわね……それに酷い汗)

  本当に具合が悪いのかしら?  それとも私に追い詰められているせい?
  そう思った時だった。

「お、ねえさま?  本当に……お姉様なの?」

  ようやくコーディリアが覚醒したのか、震えた声で問いかけてくる。

「そうよ?  見て分からないの?  あなたも私を探していたのでしょう?」
「だ、だってお姉様は……愛想ない……能面で……私よりも……」

  あぁ、この子は先程から私が笑顔を見せている事に驚いているというわけね?
  どれだけずっと内心で私の事を蔑み続けてくれたのかしらね?
  それなら、礼儀としてもやっぱり“お礼”をしないといけないわよね!

  (リュウ様も言っていたわ!  拳で売られた喧嘩は拳で返す!  その通りよね!)

  能面令嬢はもういないのよ!
  私はコーディリアに向けてにっこりと微笑んだ。
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