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第35話 ご挨拶
しおりを挟むレイさんったら……
その豪快な態度と相変わらずの素敵なお顔に私の胸がキュンと高鳴る。
──会場入りする時は、美しいリアの方が注目されるとよくないからな。私が目立った方がいいだろう? そうだな。五倍増しくらいの笑顔でいいか?
なんてレイさんは話していたけれど。
だからといって、そもそも私達はこんな乱暴に入場する予定では無かった。
乱暴な音を立てる事になったのは入場の際に警備に止められたからだ。
(全く! どうしたらレイさんが不審者に見えるというのよ!)
どこからどう見ても、とっっっても素敵な男性なのに!
レイさんは私の美しさが分からない人の目は目では無い! と豪語していたけど全く同じ気分だわ!
レイさんの格好良さが分からない人はどんな目をしているのか小一時間問い詰めたいところよ!
と、まぁ、多少は揉めたものの、無事に会場入りは果たした。
ちょうど時間的にはダンスの頃合かと思っていたけれど当たりみたいね。
そう思った私は俯いている顔からそっと視線を中央に向ける。
思った通り、会場の真ん中ではウィル殿下とコーディリアが仲良くダンスを────ん? 変な体勢で固まっている?
(何あれ?)
「……何だあれは。王子と妹の体勢が妙なことになっているぞ? 今はダンスの時間ではなかったのだろうか……」
どうやら、レイさんも同じことを思ったようでボソッとそんな独り言を呟いていた。
(同感よ、レイさん!)
そんな二人はポカンとした表情を浮かべた後、この突然の乱入者がどこの誰なのか分かったようで、みるみるうちに怒りの表情へと変わっていった。
そして仲良く怒鳴り声を上げた。
「き、貴様は……隣国で会った強面の……あ、暗殺……な、何をしに来た!」
「ヒッ! アクィナス伯爵! あ、あなた! ま、また、そんな厳つい顔で私たちを脅しに来たのね!?」
怯えたコーディリアが殿下にしがみついた。
「なっ! 何だと? コーディリア! 今、アクィナス伯爵と言ったか!?」
一方、殿下はここに来てようやくレイさん……アクィナス伯爵の顔を知ったようで今さら驚いている。
「そ、そうです! こ、この顔、間違いありません!」
「暗殺者……き、貴様……貴様がアクィナス伯爵だったのか!」
コーディリアがご丁寧に大声で名前を叫んでくれたので、自己紹介の手間が省けたレイさん……いえ、レイノルド様はニッコリと不敵な笑み(これも五倍増し)を浮かべた。
その瞬間、会場内のあちらこちらから小さく「ヒッ!」という悲鳴が聞こえた気がしたけれど、とりあえず聞かなかった事にする。
「アクィナス伯爵! なぜ、隣国の貴族の貴様がこの国の……しかもこのパーティー会場にいるのだ!」
「……」
「そ、そうか! 今度は貴様の方が密入……」
「失礼ながら──殿下は、先程の私の発言を聞いておられなかったのでしょうか?」
明らかに動揺している殿下と違い、格好良いレイノルド様は冷静に言葉を返す。
「……は? 発言だと? な、何のことだ!」
ウィル殿下はレイノルド様に対して強気な発言をするも顔を引き攣らせている。
若干、腰が引けているのはこのレイノルド様の(素敵な)お顔が怖いからだと思う。
(失礼しちゃう!)
「ですから本日、私は正式な招待を受けてここにやって来ているのですが?」
「な、んだと!? 嘘をつくな!」
ウィル殿下はその言葉が信じられなかったようで、嘘つきを見るような目でレイノルド様を睨んだ。
レイノルド様はそんな事を一切気にする素振りを見せずに堂々と言い切る。
「いいえ。嘘ではありません。建国のお祝いを述べに我が国の国王陛下の代理としてやって参りました」
「なっ!」
ウィル殿下は慌てて振り返って父親である国王陛下の顔を見た。
陛下は無言で頷く。
「なっ!」
それでも、ウィル殿下は信じたくなかったらしい。
「は、伯爵風情が……国王陛下の代理だと!? そんな馬鹿な話が……」
「馬鹿な話などではありません。正式に陛下からの任を受けて私はこの場におります。まあ、警備の者たちも殿下と同じような誤解をされていたようですが、ね」
そこで、ニヤッと笑うレイノルド様は、とにかく最高に格好良くて私は叫び出しそうになった。
(だ、駄目よ……今は我慢、我慢)
私は叫びたくなる気持ちをどうにか抑えて、大人しくレイノルド様の影にそっと隠れる。
「そういうわけで、国王陛下に挨拶をさせてもらいたいのだが……あぁ、失礼。もしかして王太子殿下はそちらの令嬢と、“斬新な”ダンスの最中でしたか?」
「ざ、斬新だと!?」
レイノルド様のその発言に、会場内からはクスクスと忍び笑いがもれる。
チラッと様子を見てみれば、肩を震わせて笑いを堪えている人が多くいた。
どうやら、ウィル殿下とコーディリアは笑いを堪えたくなるかなり変わったダンスを踊っていたらしい。
「これは失礼。王太子殿下とそのパートナーである令嬢ですから、さぞかし誰もが見惚れる程の美しいダンスを───」
「くっ! 黙れ! いいから父上に挨拶するならさっさとして来い!」
ウィル殿下は真っ赤な顔で怒る。
(……あら? 殿下、どうしたのかしら? 頭痛?)
その際にウィル殿下が何度も何度も頭を押さえているのが、凄く印象に残った。
「───貴殿が、アクィナス伯爵か」
「初めてお目にかかります、レイノルド・アクィナスと申します」
レイノルド様が国王陛下に静かに礼を取ったので、私もそれに倣う。
(まだ、誰も私には気付いていないのね)
殿下やコーディリアもそうだけど、先程チラッと盗み見たお父様とお母様も、レイノルド様の連れが私だと気付いている様子はない。
それは今、目の前にいる陛下も同じだった。
「こたびは、我が息子とそして臣下が大変失礼をした」
ウィル殿下の密入国やお父様達の無礼な振る無いは、しっかり国王陛下を通じて国として抗議させてもらっているので、陛下もレイノルド様にきちんと謝罪するしかない。
「謝罪はすでに受け入れております。ですが……」
「だが……何だ? 望みがあれば言ってくれ」
陛下のその言葉にレイノルド様はキッパリと言う。
「彼らには二度と我がアクィナス伯爵領に……いえ、我が国に立ち入らぬよう徹底して頂きたいと思っております」
「なっ! 貴様、何を勝手なことを!」
レイノルド様の言葉を聞いたウィル殿下が憤慨した。
「……ウィル殿下。これは我が陛下の望みでもあるのですが?」
「な、に?」
その発言に会場内は大きくざわめく。
目の前の国王陛下も驚いたのか目を大きく見開き言葉を失っている。
ウィル殿下もショックだったのかその場で固まった。
───隣国の国王陛下が、この国の王太子殿下に対して二度と自分の国に立ち入るなと望んだ。
この言葉の意味を分からない者はこの場にはいないだろう。
「え? 何それ……どういう事~? ウィル様、どういう意味? ねえ、ウィル様?」
と、思ったけれど、コーディリアはいまいち分かっていないらしい。
その場であまりにも場違いな呑気な声をあげていた。
(……コーディリア……あなたって人は……)
「……コホッ。そ、その事は後でゆっくり話す事にしようではないか…………と、ところでアクィナス伯爵殿。先程から貴殿の隣にいる令嬢は?」
「!」
(───ついに来たわ!)
陛下はこの場での正式な回答は避ける事にしたらしい。
話の矛先を変えて来た。
「───彼女は私の婚約者……いえ、本日付けで妻となりました女性でございます」
「ほぅ! 貴殿は結婚されたのか? それも本日付けとな?」
「ええ、本日、提出していた婚姻誓約書がちょうど受理されたと連絡を受けまして」
「それはめでたいな! してどこの令嬢───」
陛下はウィル殿下の事実上の廃嫡の話をとりあえず消したいのか、明るい話題に飛びついた。
私は静かに顔を上げる。
「お久しぶりでございます、陛下」
「ん?」
「このたび、レイノルド・アクィナス伯爵の妻となりました、オフィーリア・アクィナスと申します」
「ん、んん?」
私はこれまでの“オフィーリア・タクティケル公爵令嬢”が見せたことのない微笑みを浮かべながら、堂々とそう口にした。
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