【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第34話 パーティー開始! ~情けない人達~

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  そして、あっという間に建国祭の最終日。
  パーティーが行われる日になった。


「ああ……やはりリアは美しいな」
「レイさん!?」  

  着替えを終えた私を見たレイさんが、うっとりした顔でそんな恥ずかしい事を口にする。

「レイさん、大袈裟ですよ」
「ははは!  何を言う。リアのこの姿を見ても美しいと理解出来ぬ奴がいたら、そいつの目は、もはや目では無いな!」
「……」

  なんてことを言うのかしら、と思う。
  レイさんの愛情表現はいつもどんな時も真っ直ぐなので私はドキドキさせられてばっかり。

  (これまでの私ったら、これでよく平気な顔をしてレイさんと過ごせていたわ……)

「……レイさん……いえ、レイノルド様も格好良いですよ?」
「むっ!?」

  レイさんが、レイノルド様として正装した姿を見るのは初めて。
  どうしてこんなに素敵なのに世のお嬢様方は……(以下略)  
  私もうっとりとレイさんを見つめていると、クワッとした表情のレイさんのお顔が近付いてくる。

  ───チュッ

「あ……」
「リアの美しさと可愛らしさに我慢が出来なかった」
「あ!  レイさん……私の口紅が……」
「むっ?」

  私がレイさんの顔に手を伸ばすと、レイさんはしかめっ面になった。

「お化粧直さないと……」
「リア」
「はい?」

  何故かもう一度、レイさんのお顔が近づいて来る。

「……足りん。もっとだ」
「え?  あ……」

  レイさんがどさくさにキス魔に変貌していた。

 (もう!  でも、お化粧は後で直せばいいものね……まだ、時間はあるし)

  そう思ってそっと目を閉じた。



  ……また、部屋の隅では(甘いーーー!  またですかぁぁぁぁ!  いつでもどこでもイチャイチャーー!)とビリーさんが嘆いていたという。



◆◆◆◆


  その頃……

「最終日のパーティー……やーーっと、外に出られるわぁ!」
「コーディリア!  なんて言い方をするの!」

  私が支度をしながらそう口にしたらお母様が、険しい顔で窘めて来た。

「だって、せっかくの建国祭なのに謹慎よ?  謹慎!  信じられないわ!  お母様だって陛下ったら酷いと思わない?」
「それは……」

  私達はちゃんとウィル様を連れ帰ったというのに、陛下は私達家族に、建国祭の最終日までの謹慎を言い渡した。

「ぜーんぶ、あの厳つい伯爵のせいよ!  何だったのあの男……」

  あの伯爵は、ちょっと予定より早く着いた私達を咎めて言う事を聞いてくれなかっただけでなく、なんと自国の国王を通じて抗議の手紙を我が国の陛下に送ったらしい。
  おかげで、それを読んだ陛下が激怒して私達は謹慎させられた。

「せっかくお姉様の代わりにウィル様とイベント参加出来ると思っていたのに~」
「……コーディリア」
「“タクティケル公爵家の娘”でもある私が、婚約者であるはずのお姉様の代わりにウィル様と各地を回っていれば絶好のアピールになったはずなの!」

  ───お告げは私、コーディリアだったってね。

「世論も私を後押ししてくれれば陛下だって、婚約を考え直し……ってお母様?  どうかしたの?」
「……な、んでもない……わ」

  何故か、お母様の顔色が悪くなった。
  私は首を傾げたけど、本人が大丈夫と言っているので気にしない事にした!

「あ、でもお母様!  ウィル様からは手紙が届いてダンスのパートナーには指名してくれるんですって!  ふふ、楽しみ~」

  (本当はお姉様にその光景を見せつけてやりたかったけど~)

「……そう」
「私とウィル様は誰よりもお似合いだもの!  私達のダンスには皆が見惚れるわよ~!  ふふ」

  (まぁ、私、実はダンス苦手だけど大丈夫でしょ!  ウィル様が相手だもの)

  ダンスが苦手すぎてレッスンも殆どサボっていた。
  講師には目に涙を浮かべて「出来ません~」と訴えたら無理しなくてもいいといつも言ってくれたわ。チョロかったわ~。
  その分なのか、お姉様にはかなーーりキツくレッスンしていたみたいだけど!
  お姉様もたくさん質問して熱心に指導受けていたし。

  (きっとお姉様も下手くそだったのねぇ……だから必死だったのよ)

  そういうわけで、私は簡単なステップしか踏めない。
  でも、あのお姉様と踊れていたウィル様はきっと上手なはず!

「…………それより、コーディリア」
「なぁに?  お母様」

  お母様は変わらず顔色が悪かったけれど、少し真剣な顔をして言った。

「旦那様はあの調子だから、分かっていないでしょうけれど……」
「?」
「いい加減にはっきりさせないといけないわ。あなた、妊娠はしていないわよね?」
「え!」
「それらしい兆候は見られないもの」

  あの発言からそれなりに経っている。さすがに母親の目は誤魔化せないみたい。

「コーディリア……まさかとは思うけれど……殿下との子と言うのは……」
「待っ!  それは違うわ!  お母様……!  私にはウィル様だけよ!」
「……なら、王家を謀ってはいない?」
「も、もちろんよ!  に、妊娠してなかっただけ!  そう、そうなのよ!」

  (お母様ったらやめてよ……本当は妊娠どころか関係すら持ってないなんて知られたら……私、どうなるの?)

  考えるだけで恐ろしい……
  だからこそ、ウィル様と早く関係を持ちたかったのに!
 
「それなら……いいけれど」

  (お母様……?)

  お母様の返事はどこまでも歯切れが悪かった。


─────


  そうして様々な思惑、思いを乗せてパーティーは開始した。


  タクティケル公爵家が陛下を怒らせたらしい───だから謹慎していた。
  社交界では既にそんな噂が流れていたせいか、公爵家の面々が会場入りした時、周囲からの視線は冷たかった。

  (いつもなら、私に取り入ろうと多くの令嬢子息が近寄って来るのに!)

  コーディリアはニコニコした表情を浮かべながら、内心では苛立っていた。
  いつもは能面令嬢と呼ばれる愛想の無い姉よりも、親しみやすい私の方が人気なのだと気分よく過ごしていた。
  なのに、今日は誰もコーディリアには近づいて来なかった。

  そして、それは王子のウィルも同様で……

  (何だ!?  いつも私に向けてくる視線とは大きく違うではないか!)

  人気の高いはずの王太子……なのにウィルが入場した時の人々の反応は冷ややかなものだった。

  ──最近はまともに公務をしていないらしい。
  ──無断で勝手に隣国に行っていたとか。
 
  ヒソヒソとそんな話が飛び交う。

  ──最近、婚約者の姿が見えないが、実は逃げられたんじゃないのか?
  ──あの、“能面令嬢”に?  それが本当なら愉快だな!

  (……くそっ!  頭痛が……しかも、今日のはおかしい)

  会場入りしてから、ますます頭痛が酷くなっていた。
  それも、いつもと少し違って何かの警告のようにガンガン頭の奥に響いてくる。

  (いったい何なのだ?)

  ウィル王子はそんな頭痛を不安に思いながらも、理由は分からないままパーティーを過ごした。


  そしてダンスの時間がやって来る。
  いつもなら、王太子のウィルと婚約者のオフィーリアのファーストダンスで開始となるのに、その“オフィーリア”の姿が見えない事に参加者たちはざわつき始める。

  ───能面令嬢はどうしたのだ?
  ───殿下は誰と踊るおつもりなのか?

「……コーディリア嬢」
「はい!  殿下!」

  皆の関心が高まる中、ウィル殿下は婚約者の妹のコーディリア嬢に手を差し出した。
  
  オフィーリアの代わりにコーディリアが選ばれた事で、人々はまぁ、そうなるかと納得した。
  そして、能面令嬢と呼ばれていても、ダンスの最中に笑顔がなくても殿下とオフィーリア嬢のダンスはいつも素晴らしかった。
  これまでその妹のダンスする姿をあまり見たことは無いが、オフィーリア嬢の妹で、公爵家の令嬢なのだ。
  それなら、さぞかし立派なダンスを披露してくれ───

「きゃっ!  いったーい」

  (─────っ!?)

「コ、コーディリア!  あ、足!  ステップ、違っ」
「え~?  何がですかぁ?」
「痛っ」
「ウィル様?  大丈夫ですかぁ~!?」
「……」

  (わ、我々は……何を見せられているのだ……!)

  まともなステップ一つ踏めずにパートナーの足を踏みまくる公爵令嬢。
  姉はあんなに昔から優雅に踊っていたというのに。公爵家の教育とは……?
  また、王子も王子だ。
  乱れたステップをカバーする事すら出来ず、どんどん悪化している。
  こんなに下手くそな王子だったのか?  今までの優雅なダンスはいったい……
  と、人々は大きく落胆していた。

  (もはや、これはダンスなどでは無い!)

  愛娘の酷いダンスの有様に、父親のタクティケル公爵は周囲にクスクスと嘲笑われて顔を真っ赤にしていた。
  そして、黙って見守っていた国王陛下も、あまりにもダンスとは呼べない代物に耐えられなかったのか、静止しようと立ち上がりかけた時だった。

  バーーーンというすごい音を立てて会場の扉が突然開いた。
  突然のその音に皆、何事かと振り返る。

「むっ?  すまない。勢いよく開けすぎたようだ」

  (───誰だ!?)

「ちゃんと、やって来たのに、この顔だけで不審者扱いされたものでな……これは失礼!」

  そう言って乱入者……レイノルド・アクィナス伯爵は、いつもの厳つい顔を五倍増しくらいの怖さにして笑った。
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