【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第32話 決着をつけに行きます!

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  その報告書を読んだ私は、静かにため息を吐く。
 
「……噂は事実だったんですね」
「よくもまぁ、これまで表沙汰にならなかったものだな」

  レイさんも呆れた様子でそう言った。
  そして、ビリーさんもそれに続く。

「あのような振る舞いをされる非常識の塊のような方々ですが、仮にも公爵家ですからね」
「……皮肉なものね」
「リア?」
「コーディリアは“選ばれた娘”になりたかったのだから……」

  私はギュッと報告書を握る。
  だからこそ、こう思わずにはいられない。

  ───私とコーディリア。全てが逆だったら良かったのにね、と。

「レイさんとここで生きていく私には、“選ばれた娘”の地位も、“タクティケル公爵家の令嬢”という身分も不要ですから」
「リア!」

  レイさんが、ギュッと優しく抱きしめてくれる。
  この温もりが愛しくて大事で私からも抱きしめ返した。
 
「……レイさん」
「むっ?」
「全てを……終わらせたいと思います」
「リア……」
「……付いてきて……くれますか?」

  私がおそるおそる訊ねたら、レイさんは一切迷う素振りすら見せずに力強く言い切った。

「当然だ!」


────


  翌日。
  支度と準備を終えた私達は、馬車へと乗り込む。

「リア、大丈夫か?」
「ふふ、大丈夫ですよ」

  心配性のレイさんは、何度も何度も確認してくれる。

「だが、やはり一度は必死に逃げ出した国に、もう一度足を踏み入れるというのは……気持ち的にも……」
「いえ。レイさんがいてくれるから大丈夫なのです」
「え?」

  私はそっとレイさんの隣に腰を下ろすと、安心して欲しくて微笑んだ。
  
  (私、ちゃんと笑えている?)

「逃げ出した時とは違います。一人でしたら絶対に無理ですけど、今は一人じゃないですから」
「リア……すまないな」

  何故かレイさんが、険しい表情で謝ってくる。

「すまない、ですか?」

  レイさんが何に謝っているのか分からず、首を傾げた。

「私は他国の……しかも一地方の伯爵にすぎない。権力が皆無だ」
「レイさん……」
「あるのは、ちょっと強面で怯えられる事の多いこの顔だけだ……」
「いえ!  それはとーーっても素敵なお顔です!!」

  私が興奮して答えたら、レイさんが笑いながら手を伸ばして私を優しく抱き込んだ。

「本当に……リアらしいな……」
「……?  そうですか?」
「まさか、この顔を素敵だなんて言われる日が来るとは思わなかった」
「……うーん、やっぱり前も思いましたけど、この国のお嬢様方は見る目が無いんですねぇ……」

  私が大真面目な顔をしてそう言ったら、レイさんは一瞬呆気に取られた顔をしてその後、嬉しそうに笑ってくれた。

「わ、私のつつつつ妻(予定)は、最高だ!」
「ありがとうございます……私のお、おお夫(予定)も……ですっ!」
「……」
「……」

  そう言って見つめ合った私達は、そっと顔を近付けてチュッと唇を重ねる。

「……リアの唇は甘いな」
「ん……それを言うなら……レイさん、です」
「そうか……?」

  レイさんの私を抱き込む手にグッと力が入る。

「大好きです、レイさん……レイ様、レイノルド様」
「私もだ、リア…………オフィーリア」

  そうして再び甘い甘い世界を作りあげてキスをした私達。
  そのままお互いに夢中になってしまって、ひっそり同乗していた存在ビリーさんが抜け落ちてしまっていた。

「…………っ!(何故……この逃げ場のない空間でイチャイチャを開始するのですか……レイノルド様……!  嫌がらせですか!?)」

  ビリーさんは隅っこに寄ってずっと頭を抱えていた(らしい)

 

❋❋❋❋


  そうして、私は久しぶりに祖国の地を踏んだ。
  “国境”を越えただけなのに、変な気持ちなる。

「……帰って来た……という気持ちにはなりませんね」

  楽しい思い出などないのだから、懐かしむという気持ちもない。もう、私の居るべき場所はここではないのだとはっきり感じた。


  ───私は全てを終わらせる……決着をつけるために戻って来た。
  “オフィーリア・タクティケル公爵令嬢”はもういない。
  その事を分からせるために。
  あの日に何とか殿下や家族は追い返せたのだから、このままアクィナス伯爵領でレイさんと一緒に“オフィーリアなんて知りません”という顔をしてこっそり生きていく道もあったと思う。

  (でもそれは嫌だ)

  それだと、ずっと心の中では脅えて暮らすことになってしまう。

  (私はレイさんと幸せに生きるんだがら!)

  そして、これまで私を“可愛げがない”“能面令嬢”と蔑み続けた殿下と家族に見せてやりたい。
  あなた達から離れることの出来た私が今、どれだけ幸せなのか。
  そして、レイさんと過ごす私がどれだけ笑顔溢れる毎日を過ごせているのか。




「……人々が浮き足立っているような様子だが?」
「それは、建国祭の最中だからですね」
「建国祭か……」

  馬車を降りてレイさんと一緒に街を歩く。
  いつの間にかそんな時期だった事に気付いた。

  (この建国祭では、ウィル殿下と共に色々なイベントに参加予定だったのよね)

  毎年のことだけど、次代のこの国の王と王妃……選ばれた娘を大々的にアピールする場だ。
  “オフィーリア”がいない今年の建国祭はどうするつもりなのかしら?
  ウィル殿下が一人で出席してまわるのか、はたまた“コーディリア”を伴ってまわるのか……

「おい、聞いたか?  今年の建国祭はこのまま王太子とその婚約者は何もしないらしいぞ」
「はぁ?  未来の国王夫妻が何でだよ!」
「どの催しにも顔すら見せないらしい」
「将来のこの国を背負う立場としては無責任じゃないか……?」

  街の中から、ちょうどそんな声が聞こえて来た。

  (あら、どうやら王家はウィル殿下を引っ込める事にしたの?  ……なぜ?)

「王子の評判がだだ下がりのようだな」
「ええ、オフィーリアもですけど」

  私のことは痛くも痒くもないので好きに噂してくれて構わないけれど。

「てっきり、殿下が一人で参加してまわって私を“使えない妃”としてアピールするのだとばかり思っていたのですけど」
「もしくは妹が代わりに出しゃばるか?」
「で……そうです」

  出しゃばる……レイさんらしい言い方ね。まぁ、その通りなのだけど。
  なんであれ、私は自分のするべき事をするだけ。

「……よし、リア。王宮に乗り込む日まではまだ時間がある」
「はい、そうですね」
「ならば、肉デートをしながら、時間を潰すことにしよう!」
「に、く……?」
「そうだ!  肉!  リア、好きだろう?」

  レイさんがそれはそれはとても素敵な笑顔でそう言った。

「すき……」

  (今さら、それは筋肉の間違いで……なんて言うのは野暮よね)

「私もムキムキになる為にたくさん食べるぞ!」
「ふふ、レイさんったら……」

  私達が王宮に乗り込み、皆の前に姿を現すのは建国祭の最終日のパーティー。
  なので、それまでは作戦を練りながら肉デートを満喫することにした。
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