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第31話 全てを終わらせるために
しおりを挟む「なんてこと……」
「……今、この話の裏を取っているところです」
ビリーさんの持ってきた“話”を聞いた私はその内容に愕然とした。
(待って待って……本当にそんな事が……?)
だけど、信じられない……という気持ちと、もしかしたら……有り得るのかも……そんな相反する気持ちが私の中に生まれていた。
「……つまり、陛下……国王陛下は“それ”を知っていたという事でしょうか?」
「真偽までは分からずとも、当時、噂を耳にした……のかもしれません」
ビリーさんもそこまでは分からないらしい。
「……」
だから陛下は頑なに私……“オフィーリア”でなくては駄目だと言い続けていたの?
だとしても、だ。
私はもうどこで生きるかを決めた。自分の未来は自分で決める!
そしてそれはあの国じゃない。
「リア……」
「レイさん……」
レイさんがどこか心配そうな顔で私を抱き寄せる。私はそっとその胸に顔を埋めた。
(大丈夫……この温もりがあれば……何も怖くない)
「レイさん……わ、私はレイさんのつ、妻になります」
「ああ」
「だから、あの国のお告げなんて知りません。もう私には関係ない事です」
「ああ」
「あんなもの……」
あんな意味のわからないお告げなんて…… 全部、全部無くなってしまえばいい!
「レイさん……ビリーさんの持ってきた情報がもしも“本当の話”だったら……」
「むっ?」
「私はここでいつか連れ戻されるかもしれないと怯えて暮らすなんて真っ平御免です。私はレイさんとここで幸せになりたいですから」
「リア……」
「だ、だから───」
そこまで私が言いかけると、レイさんは大きく頷いた。
「分かった!」
「え……?」
まだ、肝心な事は言っていないのに“分かった”?
私が目を丸くしているとレイさんはニッと笑う。
「私はリアの事を誰よりも信じているからな! リアを助けてリアの決断を後押しするだけだ!」
「レイさん……」
「だから、リアのしたいようにして構わん」
「……!」
嬉しくて私はもう一度そっとレイさんの胸に顔を埋めた。
そして、改めてこの人はとっってもかっこよくて素敵な人だと思った。
❋❋❋❋
それから数日が経った。
殿下も私の家族だった人たちも、とりあえずちゃんと帰国したらしい。
今頃、国王陛下に諸々を報告している頃かもしれない。
(早く全てを終わらせたい……)
だけど、ビリーさんが話の裏付けを取ってくるまでは、私に出来ることは何も無い。
なので、私はアクィナス伯爵夫人として生きるための勉強をしながら、その日を待っていた。
「リア」
「レイさん?」
勉強の合間の休憩時間はリュウ様の筋肉に癒される事にしている。
今日も一人、部屋でリュウ様の物語を読み耽っていた。
そしてリュウ様がムッキムキのかっこいい筋肉を披露しているシーンに差し掛かったタイミンクでレイさんが訪ねて来た。
「姿が見えなかったから、部屋に戻ってリュウの筋肉に癒されてると思ったんだが」
「……」
私は静かにムキムキしたリュウ様を見せた。
レイさんは本を見て苦笑しながら言った。
「ああ、今日もムッキムキ……これは当たりだったようだな」
レイさんったら鋭すぎるわ。
「全く。リアの筋肉好きは相当だな」
「……だって」
「ははは、構わない。筋肉を語る時のリアはとびっきり可愛いからな!」
「……レイさん」
そう言ったレイさんは私の隣に腰を下ろすと優しく頭を撫でてくれる。
「なぁ、リア。リアはこの間、私がムッキムキにならなくてもいいと言ってくれたが……」
「はい。ムキムキしてなくてもレイさんが……好き、ですから!」
クワッとレイさんのお顔が厳つくなる。
「そそそうか! だが、や、やはり、私はムキムキを目指そうと思うんだ」
「え!」
「……だから、私がムキムキになる姿を見守っていてくれないか?」
「レイさん……」
それは、ずっとそばにいてくれ。
そう聞こえる。
「わ、分かりました」
私が頬を赤く染めながら微笑んで答えたらレイさんも嬉しそうに笑ってくれた。
「リア……ありがとう」
そっと、レイさんの顔が近付いて来る。
三割増しくらいに厳ついのは、緊張のせいかしら?
私もドキドキしながら、そっと目をつぶって幸せな温もりが降ってくるのを待っ───
コンコン!
「リア様! レイノルド様はこちらにいらっしゃいますか!? 先程から姿が見えず探して──」
「「!」」
「あ……!」
ビリーさんがすごいタイミングで私の部屋に駆け込んできた。
「こ、これは……イ、イチャイチャ真っ最中! し、失礼を……」
「ビリー」
「い、いやー、羨ましいですね。リア様が来てからこの屋敷の空気は甘くて甘くて……お砂糖いらずなんですよ……は、ははは」
「ビリー。笑顔で逃げようとしても無駄だ」
「……くっ!」
後ろ足で逃げようとしていたビリーさんの笑顔が固まる。
「お前は、毎度毎度いい所でやってくる事がどうも好きらしいな」
「ははは、誤解です……いや、そもそもレイノルド様。そういう事はですね……鍵をかけてやってください……」
ビリーさんが小声でポソッと言う。
その声を拾ったレイさんがビクリと反応した。
「鍵だと? 鍵なんてかけられるか!」
「ひっ! な、なぜですか!」
「いいか、ビリー! 鍵なんてかけて、リアと部屋に二人っきりになってみろ! すぐにリアを襲いたくなってしまうだろうが! 私の理性はこの身体と同じでペラッペラなんたぞ?」
「レ、レイさん……?」
レイさんが胸を張って何だかすごい発言をしている。
「ペラッペラ……な、なるほど。だからレイノルド様は夜になられると一歩もリア様のお部屋に入らないで、いつも入口でお話をされているのですか……」
「当たり前だ! 夜にリアの部屋に入ってみろ! 私は正気でいられる自信が無い!」
レイさんは必ず毎晩、私の部屋を訪ねて“おやすみの挨拶”に来てくれる。
だけど、いつも頑なに部屋の中に入ろうとはしない。
日中はこうして部屋の中まで入って来てくれるのにどうしてかしら? と思っていたけれど……
(……確か、リュウ様もお姫様に対して似たような事を言っていたような……)
ふふ、レイさんったら。思わず笑みが溢れた。
「レイノルド様、そんな堂々と……リア様にドン引きされますよ……?」
「リアは優しいからそんな事にはならん! 今だって話を聞きながらニコニコと可愛らしく微笑んでくれているではないか!」
そう言われてビリーさんと私の目が合った。
「レイノルド様の怖い顔に動じない変わった奥様になられる方だとは思っていましたが……」
「可愛いだろ? リアはとっても可愛いのだ!」
「レイさん……」
「リア!」
と、つい私達は二人の世界に入ろうとしたけれど、そこにビリーさんが慌てて割り込んだ。
「と、とりあえず! 二人の世界は後にしてください! ───コホッ……レイノルド様、リア様。裏付けが取れましたよ」
「……!」
ビリーさんはそう言って私にそっと報告書を渡してくれた。
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