【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
30 / 53

第26話 妻(?)になりました?

しおりを挟む

  
  頭が……理解が追いつかない。
  たった今、馬車の中で“あの人達”が明後日にやって来ると聞いたばかりなのに。

「……」

  だけど今、どこからどう見てもそこにいるのは、私のよく知っている三人で。
  やって来るのは明後日ではなかったの?
  非常識にも程がある。

  (本当にあの人達は自分たちの事しか考えていない……)

「───リア」
「……レイさ、ん」
「大丈夫か?」
「あ……」

  私の身体は震えていた。
  だけど、ウィル殿下を見かけた時の震えとは違っていて、怖くて足が竦む……と言うよりも“怒り”の感情が強かった。

  (だけど、どうしよう。あの人達の前に姿を見せたくない)

  こっそり屋敷に入ろうと思っても、表玄関以外の入り口に行く為にだって今、あの人達がいる所を通らなくてはいけない。
  それなら、このまま馬車の中に残った方が見つからずに済む?
  そう思ったのだけど。

「ん?  馬車が……」
「あら?  本当に居なかったのね」
「ふふ、じゃあ、これで中に入れてもらえるわね~」

  私達が戻って来た事はすぐに見つかってしまった。
  更に……

「ん?  女性と一緒か?  我々を待たせておいて伯爵殿は呑気にデートでもしていたのか」

  (非常識に訪ねて来たのはそっちなのになんて言い方なの!)

   “女性”が誰なのか……までは把握していないけれど、私の姿まで見られてしまった。
  これでは、ここで不自然に隠れる方がますます怪しくなる。

「なるほど……な。こう来るのか。手紙でも随分と上から目線で語ってくるなとは思っていたが……」
「……レイさん?」
「……リア」
「は、はい…………えっ?」

  はぁ……と深いため息を吐いたレイさんは、何故かそのまま私を横抱きにして持ち上げる。
  また、お姫様抱っこ!?  しかも、こんな時に!?
  と、私が目を丸くしているとレイさんは私に言った。

「リア、私を信じてくれ」
「レイさ……レイ様?」

  レイさんが領主の……“レイノルド様”の顔になった。

「私の胸に顔を埋めて……私と彼らが何を話していても顔は上げないように」
「……」

  コクコクコク……
  私は無言で頷く。
  どうやら、レイさんは私を抱えたまま強行突破する気らしい。

「───いい子だ、リア」
「!」

  レイさんの声がいつもより格別に甘い気がして胸がドキドキした。


「───これはこれは。門が騒がしいと思えば」
「ほう、貴殿が当主のアクィナス伯爵殿?  やっとお帰りですか、待ちくたびれたぞ」

  どこまでもお父様の態度は偉そうで大きかった。
  本当に何様のつもりなのかしら。

「……タクティケル公爵とそのご家族とお見受けします。アクィナス伯爵領へようこそ。ですが、予定より随分とお早い到着のようですが?」
「……!」
「……っ」
「こ、怖っ……」

  顔を埋めているせいでよく見えないから、はっきりとは分からないけれど、おそらくレイさんが、あの厳つい(素敵な)お顔で睨んだのだろう。お父様とお母様はハッと息を呑み、コーディリアは小さな声で“怖い”と言った。

「は、はは!  た、確かに予定よりは、は、早い……が!  ……ヒッ!」
「……」
「……コホッ……し、失礼。と、ところでアクィナス伯爵殿?  貴方が抱えているそちらの方は?」

  (───来た!)

  お父様は、レイさんの圧に圧倒され、多少怯えながらも腕に抱えている私に目を向けた。
  私は絶対に顔を見られまいとしっかり顔を填めた。
  レイさんもそれに応えるかのように、私を抱きしめる腕にグッと力が入った。

「────私の“妻”ですが、何か?」

  (────んえ?)

「え、妻……ですか?」
「ええ」

  お父様の声が困惑している。

「はて?  ……確か、アクィナス伯爵殿は独身だと聞いております……が?」
「ああ、これは申し訳ない。彼女は正確にはまだ私の妻ではないが、既に私にとっては妻同然の女性でね。そうだろう?  ビリー」

  レイさんは堂々ととんでもない大嘘をつき始めた。

「その通りでございます。こちらの方は、我々にとっての伯爵夫人となられる大切なお方」

  (ビリーさんまで!)

「ほ、ほう……」
「ああ、ご心配なく。彼女との婚姻はちゃんと我が国王陛下の許可も得ている話ですので」
「そ、そうでしたか…………そ、それにしては、令嬢にしては珍しい髪型をされて……」
 
  そう言ってお父様が私の顔を覗き込もうとしたのか、レイさんの厳しい声が飛ぶ。

「タクティケル公爵殿!  彼女は馬車に酔ってしまい具合が悪い。なので先に彼女を部屋で休ませようと思うのだが?」
「ヒッ……!  ゴホッ……こ、これは失礼した……伯爵殿」
「……では、お先に失礼する。また後で、タクティケル公爵殿。……ビリー」
「承知しました。それでは、タクティケル公爵殿とご家族様はこちらに……」

  レイさんは堂々とそう言い切って私を抱えたまま歩き出す。
  お父様達はビリーさんに案内されて応接間へと誘導されたようだった。

  (た、助かった……?)

  “妻”とか“伯爵夫人”とか聞きなれない言葉が飛び交ったような気がしたけれど、とりあえずあの人達に顔を見られずに屋敷の中に入れた……みたい。

「リア」 
「は、はい」
   
  屋敷内に入っても私を下ろす気配は無いまま、レイさんはスタスタと歩き続ける。
  このまま部屋まで私を運ぶ気なのだろう。

「もう、顔を上げても大丈夫だ」
「は、はい!」

  そう言われて、ようやく私は顔を上げる。
  レイさんの顔を見てホッと安心する。 安心したら思いっきりギュッとしたくなってしまった。
  なので、私はレイさんの首に回している腕に力を込めた。

「……リ、リア!?」
「レイさんが……いてくれて……良かったです」
「リア……」
「私、……あの人達に……会いたく……なかった、んです」
「ああ」

  レイさんは深い意味も理由も聞かずに頷いてくれた。
  もしかして、レイさんは私……“オフィーリア”のことを知っている?
  そんな思いが一瞬、過ぎったけれど私の考えすぎよね、と打ち消した。

  そうして私は部屋まで運ばれ、そっと下ろされる。

「いいか?  リア。彼らが帰るまで部屋から出ないように」
「はい……」

  私はしっかり頷く。

「私以外の者が部屋に来ても絶対に開けるな。使用人であっても、だ」
「レイさん……」
「私は仕方がないから、彼らの所に行ってくるよ」

  レイさんは凄く嫌そうな顔でそう言った。
  そんなレイさんを私は待ってと引き止める。

「あ、レイさん!」
「むっ?」
「う、嘘をつかせてしまってごめんなさい……」
「嘘?」

  レイさんが不思議そうな顔で首を傾げる。
 
 
「先程の……わ、私をつつつ、妻……だとか……です」
「ああ、あれか」

  レイさんはなんて事の無いような返事をした。

「大丈夫だ。私は嘘はついていない。だから、気にしなくても大丈夫だ」
「え?」

  (───嘘をついていない? )

  意味が分からなくて目を丸くする私の頭をレイさんは優しく撫でた。

「リア。戻って来たら君に大事な話がある。聞いてくれるだろうか?」
「……え?」

  ────チュッ

「リア……待っててくれ」
「……あ、レッ!?」

  そう言ったレイさんは、軽く私の額にキスをして部屋を出て行った。

  (い、今のは───キッ……)

  私は、慌てて自分の額を押さえる。しかも、腰が抜けてしまい立てそうにない。
  
  (か、顔の全体が熱い、わ!  なんでレイさんは……私に、キ……キスを!?)

  
  それから暫くの間、私は部屋で一人悶え続けた。

  
しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処理中です...