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第22話 あなたに守られて
しおりを挟む──えっと、な、何故こんな事に?
そう聞きたいけれど、レイさんは抱きしめたまま、離してくれる様子は無い。
そうして私は、完全にされるがままになっていた。
(……伯爵家の当主だろうと無かろうとレイさんはレイさん……なのよね)
何も変わらない。
ちょっと厳ついお顔で身体はヒョロっとしていて、性格は優しくて男らしくて……
“レイノルド様”としての顔の彼とは許されないけれど、“レイさん”となら……もう少しこうしていても許されるわよね?
そう自分に言い聞かせる。
「……リア。今日はここに泊まるといい」
「え?」
「君が脅えていたと思われる相手の男は追い払ったが、このまま戻るのは怖いだろう?」
(……ん?)
お泊まりの話よりも、気になる言葉があった。
誰をどうしたですって?
「レイさま……いえ、レイさん……い、今、追い払ったと言いました、か?」
「ああ! リアを傷付けようとする者は許せないからな!」
レイさんが、はははと少し照れ笑いしながら頷く。
え? あれ、殿下よ、ね? 一応、あれでも一国の王太子殿下……なのよね?
それを追い払った……?
──ええ!?
「……レイさん! け、怪我は?」
「無いぞ!」
「……」
レイさんが無事な事に安堵しつつも、私の頭の中は混乱していた。
(ど、どういうこと?)
レイさんが規格外に強いの? それとも、ウィル殿下が弱々なの? どっち?
そして、レイさんは彼が誰なのか気付いていないの……?
「……どうせ、リアの美しさと可愛らしさに惹かれて、ついよこしまな心を抱いた奴か何かなのだろう? 怯えさせるくらいに付きまとうとは……迷惑な男だ」
「え? えっと……」
(可愛らしさに惹かれてですって? むしろ、あの方……殿下はいつも可愛げが無い……と)
「だが、偉そうにしていたが、全てにおいて軟弱そうな男だった……私よりも筋肉が無かったからな! あんなのはリュウの足元にも及ばん! つまり、あの男はリアの好みでは無い、のだろう?」
コクコクコク……
色々、突っ込みたい事はあるけれど、ウィル殿下が好みでは無い事は確かなので、そこは頷いておく。
「だろう? やはり、私の最大のライバル……そして目指すべきはリュウなのだ」
「リュウ様が……」
レイさんがやはりリュウ様に憧れている事を嬉しく思いつつも、私の頭の中には“国際問題”という言葉がチラつく。
(大丈夫かしら? レイさんの身が心配よ……でも)
あの妙にコソコソしているような会話に加えて、あっさりレイさんに追っ払われた事を考えると、もしかしてウィル殿下はお忍びでやって来ている? だから、あっさり帰ったのかしら?
何であれ、そこまでして私を追い掛けてこようとする執着心にゾッとした。
「リア」
レイさんがギュッともう一度、最後に強めに抱きしめてくれた後、そっと身体を離す。
「リア、とにかくゆっくり休んでくれ」
「レイさん……」
「何かあればすぐに私……俺を呼んでくれ。すぐに飛んで行く」
「!」
ここはもう安全だと分かっているのに、こんな近い距離に頼りにになる人がいてくれると思うと心強いのは確かだ。
「ありがとうございます、レイさん」
「…………れ、礼にはお、及ばん! お、お礼はその、リアのえ、笑顔で充分……だ、からな!」
「……ふふ」
「な、何で笑う!?」
「いえ、いつものレイさんだと思いまして」
(すごいわ、レイさん)
あなたがいるだけで、私の気持ちは安心出来てすごく軽くなった。
(まるで、リュウ様みたい……)
─────
「初めまして、それから先程は失礼しました。レイノルド様の側近のビリーと申します。あなたが“リア様”ですね?」
「は、はい! すみません、お世話になります」
それから少し休んだ後、私はレイさんの側近の方と挨拶を交わした。
(リア様……だなんて)
平民の私に何で呼び方を……
と、ちょっと困っているとビリーさんがじっと私を見ている。
「あ、あの?」
そこでハッと気付く。
これは、伯爵様を誑かす悪女とでも思われているのでは!
ここは弁解しておかないと!
「わ、私、“レイさん”の友人ではありますが……」
「はい」
「レ……“レイノルド様”には興味がありません!」
「……は、い?」
ビリーさんの驚いた目が私に向けられる。
「き、興味が……無いのですか!?」
「は、はい! ま、全く!」
(これくらい言っておけば、伯爵様を誑かす悪女とは思われないわよね?)
「全く!? そ、そんな………………や、やはり? 片思い……それも、絶望的……? し、しかし……」
「ビリーさん?」
ビリーさんが頭を抱えだした。そして、ブツブツと何か言っている。
ちょっと怖い……
「さ、さっきのあのいい雰囲気はなんだったのか……こ、こっちは命の危険まであったと言うのに……」
「あの……?」
「あれが恋人の雰囲気ではないというのなら、何だったと言うのか……世の中の恋人……とは!? う、嘘でしょう……? わ、分からない……」
ビリーさんの独り言は続く。
「えっと……ビリー、さん?」
「あ…………い、いえ、失礼しました。ちょっとレイノルド様の心配を……」
「そうですか……」
どうやら具合が悪いわけでは無さそうなのでホッとする。
すると、ビリーさんはおずおずと私に訊ねて来た。先程からどうしてそんなに低姿勢なのかしら? と思う。
「リア様……その、レイノルド様に興味が無い、と仰るのは……その、やはりレイノルド様に“筋肉”が無いから……なのでしょうか?」
「は……い?」
突然の筋肉の話に何事かと驚いた。
そんな驚いている私の事を気にせずビリーさんは続ける。
「やはり、リア様の中では、筋肉がなければ男じゃない……という事なのでしょうか?」
「ええ!?」
「レイノルド様はあんなに強面で男らしいというのに!」
「え? え……?」
「リア様……聞いてください! あのような顔と豪快で不器用な性格ですが、レイノルド様は───」
何故かこの後、必死な顔をしたビリーさんによる“レイノルド様”の紹介が開始した。
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