【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第20話 助けて

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  (レイさん……)

「──リア……!?」
「……」
「リアが……わた、お、俺、に抱きついている…………だと!?」
「……」

  (レイさん、レイさん……!)

「こ、これは……夢か……?  夢なのか?  一体な、なんのご褒美なんだ……!?」
「……」
「リアの柔らかい温も…………って、違う!  助けて……今、リアはそう言ったか?」

  オロオロしていたレイさんが、クワッと覚醒した。
  そこで、私もハッと我に返った。

  ───こんな、突然「助けて」なんて言われても、レイさんだって何の事か分からないのだから困ってしまうに決まっている。
  だけど、レイさんの姿を見たらホッとして、つい言葉が出てしまった。
  それにいくら優しいレイさんだって、理由も分からないのに助けるなんて無理だ!  と言うと思うわ。
  だからといって事情を説明していたら時間がない。殿下に見つかってしまう───……

「ごめんなさい、レイさん。迷惑ですよね……やっぱり何でもな───」
「助けて……だな?  承知した!」
「え?  しょ……?」

  今、承知したと言った?
  そう思った時には、もう私はレイさんに横抱きにされていた。
  早業すぎる!

「!?」
「リア、どうして欲しい?」

  私はチラッと横目で殿下を見る。
  殿下はまだ店の前で揉めている。幸い、私達には気付いていない様子───

「と、とりあえず今すぐこの場から離れたいです」
「むっ?  ……あれは……」
   
  私の視線を追ったらしいレイさんが、未だに騒いでいる殿下たちを見て何か呟いた。

「よく分からんがここから離れられればいいんだな?」
「……」

  コクコクコク……と私は頷く。

「分かった、リア。しっかり掴まっていてくれ」
「あ……」

  そう言って私を優しく抱き抱えたレイさんは殿下が騒いでいる方向とは逆に向かって歩き出した。


❋❋❋


「……リア。店主殿と奥方には今日は早退すると話をつけて来たぞー。それから表で騒いでいた奴らは……って…………眠っている?」
「……」
「リア……」

  リアは静かに寝息を立てて眠っていた。
  私は起こさないようにそっと隣に腰を下ろすと、泣いた跡のある様子のリアの頬に触れた。

「……リア」

  今すぐあの場から離れたい、そう言ったリアをとりあえず、私が乗ってきた馬車に運んだ。
  御者には私以外誰も近付けさせるなと厳命して、一旦、店に戻り、リアの状況を説明して戻って来た所だ。

  仕事の合間に筋肉を鍛えていたせいで、いつもより遅い時間に店を訪ねると、奥方からリアが休憩から戻って来ないと聞かされた。
  まさか、また無理をして倒れているのでは?
  そう心配して裏に回るとリアはいた。だが、様子がおかしい。

  (あんなに真っ青で震えるとは……)

  そして、突然抱きつかれて言われた言葉は「助けて」
  理由?  理由はもちろん知らん!
  だが、愛しい人が震えた声で私に助けを求めて来た。だから助ける!  それだけだ!
  他に理由なんていらない。

「だって、私は約束したからな。リア、君を守ると……」
「ん……」
「!」

  そっと頭を撫でたらリアが色っぽい声をあげたので、ドキッとする。

  (前も思ったが、リアは寝ている時まで魅力的だ……)

  そんなリアの寝顔にずっと見惚れていたくなるが、色々と心配になる。
  この間のように悪夢を見ていないといいのだが……そう思いながらもう一度、頭を撫でる。

「リア、君があんなにも取り乱した理由は、あそこにいた男達……か?」
「……」
「リア、あの男達……邪魔だったから追っ払っておいたが良かったんだよな?」
「……」

  店の表の入り口付近で騒いでいた、二人の男性。
  リアは震えながら、その片方の金髪の男性の事を凝視していた。
  おそらくあの男に会いたくなくて、あそこでうずくまっていたのだろう。

  (あの男……どこかで見たことあるような気がしたのだが……どこだったか……)

「…………しかし、見た目通りの弱い男だったな」

  金髪の男性は私以上に軟弱な身体をしていた。
  まぁ、顔立ちは、私とは違い甘いマスクをしていた正統派の王子のような男だったが。
  なので、第一印象は弱そうだと思った。
 
  リアの大好きなリュウだったら、あそこで筋肉を披露してその場にひれ伏させる事も可能なのかもしれないが……残念ながら、私の筋肉はまだまだ発展途中。筋肉は目覚めてくれていない。
  なので、今現在の私が使える武器といえば、この厳ついと言われる顔しかなかった。

「リア。あの男、私が精一杯、怖い顔をして近付いたら、勝手に暗殺者か何かと勘違いして脅えて真っ青になっていたぞ?」

  声をかけただけだったのに、何だか驚いていて挙動不審だったな……
  しかし、あの時の情けない顔……ぜひ、リアに見せてやりたかった。

「とりあえず勘違いに乗っかって命が惜しいならこの店には二度と来るなと脅してはおいたが」

  やはり、リアがこの先、安心してあそこで働けなくなっては困るからな!
  リアを見ていれば分かる。あの食堂はリアにとって大事な大事な場所なのだ。

「……」

  だが、ああいう輩は何故かは知らんが、性懲りもなくまたひょっこり現れるたりするのだ。最終的にはボコボコにされるだけだというのにな。阿呆なのだろうか……?
  なので、一度追い出したからと言って決して油断は出来ん。

  (リアの大好きなリュウもそのような事を言っていたぞ!)

「……ビリーに言って、街の警備強化と店の周囲に護衛を配置させるか……」

  リアの快適な生活を守るため、色々な対策を考えなくてはいけない。
  ビリーが眉を顰めるかもしれないが、そこは絶対に譲れない。

「……しかし、あの金髪の男……本当に誰だったか……まあ、いい。今はリアの保護が優先だ」

  今日は家に帰るのも怖いだろう。
  だから、安心できる場でゆっくり休ませたい。
  屋敷に連れ帰れば、“レイ”が何者かは知られてしまうだろうが、リアの安全より大事なものは無い!

「……リア。君は私が何者なのか知っても、変わらず微笑んでくれるだろうか?」
「……」

  そんな事を呟きながら馬車はアクィナス伯爵家の屋敷までの道を進んでいった。

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