【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第18話 幸せの時間の裏で……

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「いらっしゃいませ…………って、レイさん!」
「リア!  もう具合は大丈夫なのか?」

  翌日。
  いつものように、レイさんがやって来てくれた。
  何だか嬉しさと恥ずかしさが色々混ざって胸の奥がムズムズする。

「リア?  どうした?」
「……えっと、なんですかね……ちょっと照れくさい……です」

  レイさんは鋭いのですぐに私の様子がおかしい事に気付いてしまう。
  昨日、レイさんが帰ってしまってから、ふと我に返って気付いた。
  リュウ様の筋肉についてを語れることがとにかく嬉しくて一方的に語ってばっかりだった、と。
  引かれてもおかしくないレベルだった。

  (なのに、レイさんは)

  最後まで笑顔で楽しそうに聞いてくれていた。

「リア……」
「で、ですけど、レイさんに私の好きな物を知ってもらえて嬉しいのです」

  そして、リュウ様の素晴らしさがもっともっと広まってくれたら嬉しい!
  そう思ったら自然と私の頬が緩んでいた。
 
「っ!  ……くっ……相変わらず……の破壊力……」
「レイさん?」
 
  席に案内しようとしたのに、レイさんは両手で顔を覆ってプルプル震えている。
  きっと、リュウ様の筋肉を思い出して興奮しているのだと理解した。

  (分かるわ!  私もすぐこうなるもの!)

  筋肉好き仲間が出来た事で私の気持ちはウキウキしていた。



「───え!?  今日は野菜スープだけじゃないのですか!?」
「ああ」

  ど、どうしたのかしら?
  レイさんから並々ならない決意のようなものを感じる。

「俺はもっとしっかり食事を摂らないとダメなのだ……!」
「そ、そうなのですか?」
「ああ!」
   
  レイさんはそんな決意に満ちた表情で力強く頷く。
  何があったのかは分からないけれど、そんな厳つくて素敵な表情をするレイさんに胸がドキドキして大変だった。

 
  そして、帰り際───

  お店の外までレイさんを見送った時だった。
  レイさんが、ガシッと私の両肩を掴む。

「リア!」
「俺は……君を守るよ」
「は、い?」
「何がやって来ても……どんな事からもだ」

  そんな突然の宣言に首を傾げた。
 
「どういう意味、ですか?」
「リアがこの街ここで、毎日笑って過ごせるように、だ」
「私が毎日、笑って……?」
「そうだ!」

  ───可愛げがない、能面令嬢。
  これまでの私からすれば、考えられないような言葉だ。
  ムズムズ……あぁ、また胸の奥が!

  私は照れながら口にする。

「で、では……リュウ様の話……また、聞いてもらえますか?」
「もちろんだとも!」
「リュウ様のムキムキ話かっこいい所は、もっともっとたくさんあるのです」
「ああ!  むしろ知りたい!  だから、どんどん教えてくれ!」
「!」

  (嬉しい!)

「ありがとうございます!  レイさん!」
「お……おぉう!」

  私は無意識に笑顔を浮かべていて、レイさんは元気よく返事を返してくれたけれど、茹で上がったタコみたいに真っ赤になっていた。


❋❋❋❋


「リアちゃん、嬉しそうだね」
「え?  そうですか?」

  レイさんを見送った後、お店に戻ったら奥様にそう言われた。

「昨日、あんなに真っ青だったから心配したけれど、すっかり顔色良くなって安心したわ」
「ご迷惑おかけしました……あ、えっと、それはレイさんが……!」

  レイさんが温もりと笑顔をくれたの。悪夢に苦しんでいた私を救ってくれたの。

  ───捜索されている。
  その不安が消えたわけじゃない。
  ここにいたら、迷惑をかけてしまうかもしれない。
  だから、本当はもっと遠くに……別の街や土地に逃げた方がいいのかもしれない。
  
  (でも、ここにいたいの。このお店と……レイさんのそばに……)

「もう!  リアちゃんったら……そんな顔をして」
「そんな顔……ですか?」

  私が首を傾げると奥様は苦笑した。どんな顔なのかは教えてくれないらしい。
  なので、話が変わった。

「そういえばね、街の警備が強化されるそうだよ?」
「え?」
「この街は隣国とも近いでしょう?  だから、昔から色んな人が行き来する。だから、領主様にずっと要望を出していたのだけど、どうやらやっと動いてくれるらしいの」
「そうなんですね!」
「この店の周りも巡回を増やしてくれるらしいのよ。有難いわね」

  こういった食事が出来るお店には、色々な人が集まるからかもしれない。
 
  (何てタイミングなの……)

  ───この土地の領主様……どんな方なのかしら?

  (確か、ここは伯爵領だったわよね?)

  単なる町娘になった私が会うことも無いはずの人なのに、なぜだか無性に心に残った。


◆◆◆◆


  ────一方の浮気者王子は。


「……な、何!?  ここ一、二ヶ月の間、隣国のアクィナス伯爵領には、オフィーリアらしき人物が入国した形跡は無いだと!?」
「そういう返事になっておりますね。ご丁寧にその頃の記録書まで付けてくれていますよ?」
「な……」

   ズキズキ……  
  ウィルは痛む頭を押さえながら、先日送った封書に対する返信の手紙と記録書を奪い取り目を通す。

「……」

  確かに記録を見ても、若い女が一人で入国したという記録はなさそうだった。

「そんなはずはない……もう、国内は散々探した!  それでもオフィーリアは見つからない……」

  もう隣国に渡った、それしか考えられない!
  その時は必ずこのアクィナス伯爵領を通るはずなんだ!

  ズキンズキン……
  まるで頭痛が警告するかのように激しくなる。
  あの日、お告げに逆らい短命で終わったという過去の王の話を聞いてから、頭痛は酷くなるばかり。

  (愛しいコーディリアにも会えていない……だが……)

  最近のコーディリアは、少し執拗い。
  具合が良くないから会えないと伝えたのにも関わらず、「仮病じゃないわよね?」と疑う手紙を寄越したり、こっちも大変だというのに、「お父様とお母様がピリピリしているの……」と家庭内の問題まで私に持ち込もうとする。

  (コーディリアは愛らしくて可愛らしいが……もう少し私の事情というものを考えてくれないだろうか?)

  色々大変な時に、どうでもいい事で愚痴を言われても……

  ズキンズキンズキン……
  そうさ。一から十まで言わなくとも、私の意を汲んで的確に動いて補助を……
  と、そこまで考えた時、あの可愛げがないオフィーリアの姿が何故か頭に浮かんだ。

  (そういえば、オフィーリアはいつも静かにこっちの動きを読んで……)

  可愛げは無かったし、無愛想だったが仕事に関しては……有能だった。
  オフィーリアが居なくなった後、コーディリアにいくつかオフィーリアが携わっていた仕事をお願いしてみたが、話にならなかった。
 
  (オフィーリアと違い、王太子妃教育を受けていないのだから仕方がない……そう思っていたが……)

  それだけではなかったのかもしれない。
  公爵家でも教育は受けていただろう?  と訊ねると、「勉強は好きじゃないんです~」と笑っていた。 
  つまりは、本人のやる気だ……

「……っ!」

  ズキンズキンズキン……
  今更ながら、深く考えずにオフィーリアを排除しようとした事を後悔する。
  そして私の命の為にも、絶対にオフィーリアは見つけなくては……!

  (……アクィナス伯爵領……本当にオフィーリアはここに居ないのか?)

「……おい」
「はっ!」
「……私は、これからお忍びで隣国のアクィナス伯爵領に向かう。準備と調整をしろ」
「で、殿下?」

  ズキン……
  頭は痛むが、今はまだ動けない程では無い。
  だが、万が一、これ以上悪化したら──……
  いや、と私は首を横に振る。

  ───絶対にオフィーリアを見つけて、私のために連れ戻してやるんだ!

  そして、オフィーリアを形だけの正妃に据えて仕事をさせる。
  そうすれば、私が短命で終わることも無くなり、仕事も回るし、コーディリアに負担もかけずに済む。
  これで、全て解決だ!
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