【完結】“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~

Rohdea

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第15話 あなたがいてくれるから

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───……


『───見つけた!  オフィーリア!  相変わらず君は可愛げがないな!』

  殿下……嫌、来ないで!

『見つけたぞ!  オフィーリア!  今までどこに行っていたんだぁぁ!』

  お父様……離して! 

『あら、お姉様~やっと、出てきてくれたのね~?  待っていたわ~』

  コーディリア……静かにして!

   

  夢の中で、あの人たちが私を追いかけてくる。
  逃げても逃げても逃げても……執拗いくらいに。
  捕まったら私はどうなるの?  殺される?    
  それとも───

『鬼ごっこはお終いだよ、オフィーリア』
『オフィーリアのくせに、周囲に迷惑をかけおって。お仕置だ!』
『お姉様って最低~犯人だってバレちゃったから逃げたんでしょ~?』

  やめて……  
  違う!  犯人は私じゃない!
  コーディリアを……コーディリアを調べて!

  それでも、私の声は届かない。
  あの人たちは冷たい目で私を見てくる。

『オフィーリア。妹に嫉妬しているのかい?』
『とんでもない姉だな!』
『お姉様、酷いわ~~』

  どうして誰も私の話を聞いてくれないの!?
  私が可愛くないから?  能面だから?  
  やめて!  こんなの嫌!  もう、私なん……

  ────リア!

   (──?)

  ────大丈夫だ、リア。私がここにいる。私が全力で君を守るよ。だから、安心しろ。

  (この声は……レイさん?)

  ────リア!  君は私の特別なんだ。どこにも行くな。ここに居てくれ。

  (レイさん……?)

  私……私もレイさんと、これからも一緒に……いたいわ。

  (助けて……私を助けて)

  そう思って私は必死に腕を伸ばした────……




  そこで、ハッと目を覚ました。
  私の顔を覗き込んでいるのは、ちょっと厳つい表情をしたレイさん。
  これは心配してくれている顔ね。

  (夢じゃないわ……レイさんが……ここにいる)

  部屋に運んでくれた後もずっと傍にいてくれたの?

「リア!  大丈夫か?」
「レイさ……ん」

  私が声を出すと強ばっていたレイさんの顔がようやく緩んだ。
  何だか私もホッとする。

「ああ、俺だ」
「……」
「覚えているか?」
「……」

  もう、目眩もしない。頭も痛くない。
  とりあえず、大丈夫みたい。

「顔色が悪かったリアが倒れてしまって俺が部屋まで運んだんだが……」
「は……」

  そう、お姫様抱っこで運んでくれた……
  ……って!  抱っこ!

  (ほ、頬が熱い……気がする、わ)

  思い出してしまった私は慌てて自分の頬を押さえる。

「リア……また、俺の前でそんな顔を……」
「レイさん?」

  レイさんがどこか切なそうに私の名前を呼んだかと思えば、恥ずかしそうに両手で顔を覆ってしまう。
  そのせいで、せっかくの素敵なお顔が隠れてしまった!  と、内心で残念に思う。

「本当に君って人は……」
「?」
「起き上がれるか?」
「はい……」

  そう言って私を起こしたレイさんは、そのままギュッと私を抱きしめた。

「レレレレレレレイさん!?」
「……」
「なななな何故!」

  どうして急に?  
  そう思って慌てる私にレイさんは抱きしめた腕は離さないままで、耳元でそっと囁く。

「……リア、ずっと魘されていたんだ」
「!」
「必死に必死に手を伸ばしていた」
「……手を?」

  そう言われて、レイさんとこれからも一緒にいたいと思って手を伸ばしていた事を思い出す。

「……だから、俺がリアを捕まえてみた」
「え!」
「リアが求めていたのは俺ではないかもしれないが、俺はリアを求めている!  だからこうして俺がリア捕まえてみることにした!」
「??」

  そんな事を口にして、
  ぎゅーーーー……と、私を抱きしめる腕に更に力を込めるレイさん。
  何それ?  意味が分からないわ。でも……

「……レイさん……ふっ……ふふ……」
「リア?」

  全くもってよく分からないその理屈に、どんどん笑いが込み上げてくる。

「ふふ……レイさん、何ですかそれ、もう、めちゃくちゃ、です、よ……ふっ……」
「!  リ、リア……リアが声を立てて笑っ……!」
「ふふ、あはっ……あはは」
「……」

  自分が声を出して笑っている事に気付くまで、私はずっとレイさんの腕の中で笑い続けていた。


────


  (まさか、自分が笑い転げる日が来るなんて!)

  我に返った私は、なんて事をしてしまったのかと、あまりの恥ずかしさに顔をあげられないでいた。

「リア。顔を見せてくれ」
「……は、恥ずかしいので……今は、か、勘弁を……!」
「リア」
「!」

  レイさんの手がそっと私の頬に触れる。
  びっくりした私は反射的に顔を上げてしまった。そして、レイさんのまっすぐな瞳と目が合う。

「笑い転げるリア、可愛かったよ」
「かっ!  可愛っ?  ……か、可愛っ」

  自分でも何を言っているのか分からないくらい動揺してしまう。
  可愛いだなんて。

「ずっとずっとずっと見ていたいくらい可愛い」
「ほ……本当……ですか?」
「むっ?  なぜ疑う?」

  だって、“可愛い”はいつだってコーディリアのものだった。
  私に向けられる言葉は、“可愛げがない”だから。

「わ、私には妹、がいるんです……“可愛い”のは妹で……」
「俺はその妹を知らん。可愛いのはリアだ!」

  レイさんはキッパリとそう言ってくれる。

「レイさん……でも……」
「いいか?  リア。例え、俺がいつかどこかでその君の妹とやらに会う事があったとしても、だ。俺の一番はリアだ!  それは絶対に変わらない!」
「え……?」
「俺にはそう言えるだけの自信があるぞ!」
「……!」

  レイさんの真剣な瞳と目が合う。
  何の根拠も無いはずの言葉なのに……それを信じられると思ってしまうのは……

  (レイさんだから)

「レイさん……」
「リ……っっッ!!!!」

  嬉しくて 涙が出そうだった私は、何とか堪えて潤んだ瞳でレイさんを見つめた。

「リア……君は、わた…………ケホッ……お、俺の理性を試しているのか?」
「理性……?」
「そうだ。こうして無防備な君に触れたくなる衝動を───」
「?」

  そう口にしたレイさんの顔がそっと私に近付いて来ているような気がした、
  その時───……

  ───バサッ!

「……っ!?」
「!」

  部屋の中で何かが落ちた音がした。
  びっくりしたレイさんの動きも止まり、私も何の音かと辺りを見回した。

「……あ!  リュウ様!」
「何!?  リュウだと!?」

  落ちて来たのは、リュウ様の本だった。どうやら、ちゃんとしまえてなかったらしい。
  そんな私の声に反応したレイさんは、クワッと厳つい表情になった。

「は、はい。リュウ様の本が落ちた音だったみた……」
「リア!  その本を見せてくれ!」
「え?」
「君の言う、とっっってもかっこいい漢とやらをぜひ、ぜひ、ぜひ、俺に紹介してくれ!!!!」

  レイさんは、そう言いながらすごい勢いで私に迫ってきた。

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