19 / 53
第15話 あなたがいてくれるから
しおりを挟む───……
『───見つけた! オフィーリア! 相変わらず君は可愛げがないな!』
殿下……嫌、来ないで!
『見つけたぞ! オフィーリア! 今までどこに行っていたんだぁぁ!』
お父様……離して!
『あら、お姉様~やっと、出てきてくれたのね~? 待っていたわ~』
コーディリア……静かにして!
夢の中で、あの人たちが私を追いかけてくる。
逃げても逃げても逃げても……執拗いくらいに。
捕まったら私はどうなるの? 殺される?
それとも───
『鬼ごっこはお終いだよ、オフィーリア』
『オフィーリアのくせに、周囲に迷惑をかけおって。お仕置だ!』
『お姉様って最低~犯人だってバレちゃったから逃げたんでしょ~?』
やめて……
違う! 犯人は私じゃない!
コーディリアを……コーディリアを調べて!
それでも、私の声は届かない。
あの人たちは冷たい目で私を見てくる。
『オフィーリア。妹に嫉妬しているのかい?』
『とんでもない姉だな!』
『お姉様、酷いわ~~』
どうして誰も私の話を聞いてくれないの!?
私が可愛くないから? 能面だから?
やめて! こんなの嫌! もう、私なん……
────リア!
(──?)
────大丈夫だ、リア。私がここにいる。私が全力で君を守るよ。だから、安心しろ。
(この声は……レイさん?)
────リア! 君は私の特別なんだ。どこにも行くな。ここに居てくれ。
(レイさん……?)
私……私もレイさんと、これからも一緒に……いたいわ。
(助けて……私を助けて)
そう思って私は必死に腕を伸ばした────……
そこで、ハッと目を覚ました。
私の顔を覗き込んでいるのは、ちょっと厳つい表情をしたレイさん。
これは心配してくれている顔ね。
(夢じゃないわ……レイさんが……ここにいる)
部屋に運んでくれた後もずっと傍にいてくれたの?
「リア! 大丈夫か?」
「レイさ……ん」
私が声を出すと強ばっていたレイさんの顔がようやく緩んだ。
何だか私もホッとする。
「ああ、俺だ」
「……」
「覚えているか?」
「……」
もう、目眩もしない。頭も痛くない。
とりあえず、大丈夫みたい。
「顔色が悪かったリアが倒れてしまって俺が部屋まで運んだんだが……」
「は……」
そう、お姫様抱っこで運んでくれた……
……って! 抱っこ!
(ほ、頬が熱い……気がする、わ)
思い出してしまった私は慌てて自分の頬を押さえる。
「リア……また、俺の前でそんな顔を……」
「レイさん?」
レイさんがどこか切なそうに私の名前を呼んだかと思えば、恥ずかしそうに両手で顔を覆ってしまう。
そのせいで、せっかくの素敵なお顔が隠れてしまった! と、内心で残念に思う。
「本当に君って人は……」
「?」
「起き上がれるか?」
「はい……」
そう言って私を起こしたレイさんは、そのままギュッと私を抱きしめた。
「レレレレレレレイさん!?」
「……」
「なななな何故!」
どうして急に?
そう思って慌てる私にレイさんは抱きしめた腕は離さないままで、耳元でそっと囁く。
「……リア、ずっと魘されていたんだ」
「!」
「必死に必死に手を伸ばしていた」
「……手を?」
そう言われて、レイさんとこれからも一緒にいたいと思って手を伸ばしていた事を思い出す。
「……だから、俺がリアを捕まえてみた」
「え!」
「リアが求めていたのは俺ではないかもしれないが、俺はリアを求めている! だからこうして俺がリア捕まえてみることにした!」
「??」
そんな事を口にして、
ぎゅーーーー……と、私を抱きしめる腕に更に力を込めるレイさん。
何それ? 意味が分からないわ。でも……
「……レイさん……ふっ……ふふ……」
「リア?」
全くもってよく分からないその理屈に、どんどん笑いが込み上げてくる。
「ふふ……レイさん、何ですかそれ、もう、めちゃくちゃ、です、よ……ふっ……」
「! リ、リア……リアが声を立てて笑っ……!」
「ふふ、あはっ……あはは」
「……」
自分が声を出して笑っている事に気付くまで、私はずっとレイさんの腕の中で笑い続けていた。
────
(まさか、自分が笑い転げる日が来るなんて!)
我に返った私は、なんて事をしてしまったのかと、あまりの恥ずかしさに顔をあげられないでいた。
「リア。顔を見せてくれ」
「……は、恥ずかしいので……今は、か、勘弁を……!」
「リア」
「!」
レイさんの手がそっと私の頬に触れる。
びっくりした私は反射的に顔を上げてしまった。そして、レイさんのまっすぐな瞳と目が合う。
「笑い転げるリア、可愛かったよ」
「かっ! 可愛っ? ……か、可愛っ」
自分でも何を言っているのか分からないくらい動揺してしまう。
可愛いだなんて。
「ずっとずっとずっと見ていたいくらい可愛い」
「ほ……本当……ですか?」
「むっ? なぜ疑う?」
だって、“可愛い”はいつだってコーディリアのものだった。
私に向けられる言葉は、“可愛げがない”だから。
「わ、私には妹、がいるんです……“可愛い”のは妹で……」
「俺はその妹を知らん。可愛いのはリアだ!」
レイさんはキッパリとそう言ってくれる。
「レイさん……でも……」
「いいか? リア。例え、俺がいつかどこかでその君の妹とやらに会う事があったとしても、だ。俺の一番はリアだ! それは絶対に変わらない!」
「え……?」
「俺にはそう言えるだけの自信があるぞ!」
「……!」
レイさんの真剣な瞳と目が合う。
何の根拠も無いはずの言葉なのに……それを信じられると思ってしまうのは……
(レイさんだから)
「レイさん……」
「リ……っっッ!!!!」
嬉しくて 涙が出そうだった私は、何とか堪えて潤んだ瞳でレイさんを見つめた。
「リア……君は、わた…………ケホッ……お、俺の理性を試しているのか?」
「理性……?」
「そうだ。こうして無防備な君に触れたくなる衝動を───」
「?」
そう口にしたレイさんの顔がそっと私に近付いて来ているような気がした、
その時───……
───バサッ!
「……っ!?」
「!」
部屋の中で何かが落ちた音がした。
びっくりしたレイさんの動きも止まり、私も何の音かと辺りを見回した。
「……あ! リュウ様!」
「何!? リュウだと!?」
落ちて来たのは、リュウ様の本だった。どうやら、ちゃんとしまえてなかったらしい。
そんな私の声に反応したレイさんは、クワッと厳つい表情になった。
「は、はい。リュウ様の本が落ちた音だったみた……」
「リア! その本を見せてくれ!」
「え?」
「君の言う、とっっってもかっこいい漢とやらをぜひ、ぜひ、ぜひ、俺に紹介してくれ!!!!」
レイさんは、そう言いながらすごい勢いで私に迫ってきた。
136
お気に入りに追加
4,558
あなたにおすすめの小説

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる